高橋留美子『MAO』アニメ化へ 「ホームラン率100%」漫画家の偉大なる功績

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2025年07月19日 13:00  リアルサウンド

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『MAO』(高橋留美子/小学館)ほか、高橋留美子が連載してきた作品の書影

 漫画家・高橋留美子の最新作『MAO』がアニメ化されるというニュースが発表された。


参考:【画像】尾田栄一郎、青山剛昌、あだち充、藤田和日郎、板垣恵介らが描いた『うる星やつら』の豪華イラスト


 2026年春、NHK総合にて放送されるとのことで、これによって「週刊少年サンデー」で連載された高橋作品は、全てテレビアニメ化されるという偉業が継続された。『うる星やつら』『めぞん一刻』『らんま1/2』『犬夜叉』『境界のRINNE』そして『MAO』。そのほかの短編作品なども全て人気作となっており、もはや「ヒット率100%」というよりも「ホームラン率100%」状態である。


 今回アニメ化される『MAO』は、大正時代を舞台にしたダークファンタジーとタイムスリップミステリーが融合した作品で、陰陽師の摩緒と現代の少女・黄葉菜花が、900年の呪いに立ち向かう物語だ。制作は『犬夜叉』シリーズ以来となるサンライズが担当しており、期待感も自然と高まる。


■「ホームラン率100%」高橋留美子がひっくり返した少年漫画の価値観


 それにしても、高橋留美子という存在の特異さは、もはや“漫画界の神話”に近い。『うる星やつら』で一躍トップに躍り出た後、『めぞん一刻』も同時連載。両作の完結から間をおかずに『らんま1/2』が始まり、『らんま1/2』が終了したと思えば『犬夜叉』がスタート。さらに『境界のRINNE』から『MAO』へと絶え間なく走り続けてきた。下手をすれば4世代以上が彼女の作品と共に育っている計算になる。67歳にして現役の最前線に立ち続けているという事実は、まさしく恐ろしいほどである。


 特筆すべきは、デビュー以来、一度たりとも「不発」を出していないことだ。連載すれば全てがヒットし、全てがアニメやドラマなどメディアミックス化される。あの手塚治虫ですらヒット率は3割だったとも言われており、ネット上でも「ノンストップでホームラン飛ばし続けているのはさすがに化物すぎる」「間違いなく人間国宝」「高橋先生が漫画家にならなかったら漫画アニメ業界変わっていたと思う」「今は巨匠と言うか神」とその偉業を讃える声が数多く聞かれる。


 異常なまでの“ヒット率”の背景には、高橋留美子が日本の漫画文化に刻んできた、いくつもの革命的な変化があった。


 全ては語りつくせないが、大きなものを挙げるとすれば、まず彼女は70年代漫画に色濃く残っていた「根性」や「命がけ」という価値観をあっさりと終わらせた。デビュー作の「勝手なやつら」が初掲載された1978年、当時の「週刊少年サンデー」では『がんばれ元気』(小山ゆう)や『男組』(原作:雁屋哲・作画:池上遼一)など、男たちの汗と涙と拳で語る熱血ストーリーが主流だった。そんな中に、しれっと現れた“女子大生漫画家”が描くSFギャグ漫画が、読者の価値観をくるりとひっくり返したのだ。


■「るーみっくわーるど」を彩る“半人前”の男と誇らしく軽やかな女性たち


 彼女の作品に共通するのは、ヒーローではなく“半人前”の男たちが主役であること。『めぞん一刻』の五代裕作は浪人生、『らんま1/2』の早乙女乱馬は、男と女の“半分”、犬夜叉は半妖であり、『境界のRINNE』の六道りんねは半分死神だ。彼らは不完全で、どこか情けなく、物語の中でもしばしば迷い、立ち止まり、臆病になる。だが、そんな彼らのそばには必ず強い女性たちがおり、未熟な男を笑って、叱って、許して、時に背中を押していく。男が半人前であることを前提とした優しさと、突き放さない眼差しが物語に独特の奥行きを与えているのだ。


 そして、彼女の作品が示したもうひとつの革命は、ジェンダーの描き方そのものだった。まだ漫画界もバリバリの男性社会であった70年代。台頭してきたフェミニズムはどこか戦闘的な色合いを持っていたが、その中で高橋留美子は女性が女性であることをただ「素敵なもの」として描いてみせた。媚びず、誇らしく、そして軽やかに。それにより、どれほど多くの読者の心を解放してきたかは計り知れない。それは女性だけでなく、『うる星やつら』によって、後に“オタク”と呼ばれるジャンルが誕生したことでも明白だった。


 また、自然体で存在する女性キャラによって、たとえ肌露出があったとしても、それは「エロ」ではないという“ライン”が確立されたことも大きな“功績”と言っていいかもしれない。


 「MAO」がアニメ化された際、視聴者は過去の名作の“残り香”と共にきっとこう思うのだろう。「ああ、また新しい高橋留美子が始まった」と。


(文=蒼影コウ)



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  • 連載を全て当ててるあたりは、やはりすごい
    • イイネ!3
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