日本有数の映画ガイド・高橋ヨシキが新作映画をレビューする『高橋ヨシキのニュー・シネマ・インフェルノ』。カンヌ映画祭グランプリ受賞、都市で生きる女性たちの光と影!
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『私たちが光と想うすべて』評点:★2点(5点満点)
「都会は冷たくて人間味に欠ける」がまたもや繰り返される
それぞれの事情で故郷を離れた人が密集する大都会ムンバイ。劇中の言葉を借りれば、そこは「人から〈時間〉を奪う町」であり、「契約書がなければ自分がそこに住んでいることすら誰も覚えていない」。
本作はそんなムンバイで医師や看護師として暮らす、年齢層の異なる3人の女性が「ままならない人生に葛藤しながらも、自由に生きたいと願い」、「互いを思いやり支え合っていく」物語である(カッコ内は公式資料の文言)。
これがまったく新味を欠くのは、農村から都市への人口の流入や、都市化に伴う人間関係の希薄化といったテーマがほとんど産業革命時代のそれと同じだからである。
また本作に限った話ではないが「都会の悪口はいくら言っても良い」という考えに首肯しかねるのは、都会だってそこに生まれた人間にとってはかけがえのない故郷であり、人情も温もりも縁もいくらでもあるからだ。
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ヒンドゥー教とイスラム教の宗教観の対立や、伝統的なインド社会の抱えるさまざまな問題をどこまでもふわっと「それなりに」投入しているところにもあざとさを感じてしまうが、それが作り手の意図どおりに機能したことは事実で、カンヌ映画祭ではグランプリを受賞した。
STORY:ムンバイで働く看護師プラバと、年下の同僚アヌはルームメイト。それぞれ夫と恋人との関係に問題を抱えるふたりは、高層ビル建築のために自宅から立ち退きを迫られて故郷である海辺の村へ帰ることにした女性に同行することに
監督・脚本:パヤル・カパーリヤー
出演:カニ・クスルティ、ディヴィヤ・プラバ、チャヤ・カダムほか
上映時間:118分
7月25日(金)よりBunkamuraル・シネマ 渋谷宮下ほかにて全国公開予定
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