涙とともにスーパーフォーミュラ引退を発表した大嶋和也 2025スーパーフォーミュラ第6戦&第7戦富士 7月19日(土)、静岡県の富士スピードウェイで全日本スーパーフォーミュラ選手権第6戦の決勝レースが行われたが、レース後、今回の第6戦でスーパーフォーミュラ/フォーミュラ・ニッポンの参戦100戦を迎えた大嶋和也(docomo business ROOKIE)が、サプライズでスーパーフォーミュラからの2025年限りの引退を発表した。大嶋のスーパーフォーミュラへの熱い思い、そして最後に豊田章男会長からは記念品の贈呈とともに挨拶も行われた。記者会見の全文をご紹介する。
●フォーミュラは「わがままを貫く場所」
(冒頭、記者会見は上野禎久JRP社長からの花束贈呈から始まり、後方にはメディア向けミックスゾーンに出席したドライバーや石浦宏明監督も出席していた)
──ここからは代表質問というかたちで、改めて100戦を迎えての思いをうかがっていきたいと思います。改めてどういった思いがあるのか、心境を教えて下さい。大嶋和也(以下大嶋):特別こういった記録にはあまり興味はないのですが、本当に長くこのレースに参戦させていただいたんだな、と思います。僕は特別にフォーミュラで結果を出してこられませんでしたし、厳しい状況のなか、ずっとチャンスを与えてくれたオーナーにただただ感謝だな、と思っています。
──今週は大嶋選手の100レースを関係者の皆さん、ファンの皆さんが待ち望んでいて、笑顔も広がっていましたが、いかがでしたか?大嶋:こういう記者会見という場があると聞いていて『さすがにポイントも獲らずにここに来るのはしんどすぎるな』とかなりプレッシャーを感じていました(笑)。前回の公式テストではとにかくクルマが調子が悪くて『絶対に今週はダメだろうな』とちょっと諦めていたんですけど、走り出したら急にクルマが直っていて、非常に楽しくレースができて良かったと思います。
──もちろん目指すところはいちばん高いところというのは変わらないと思うのですが、それでも今日のレースでは、そういったファンの皆さん、応援してくれた皆さんに何か返せたかな、という感じはありますか?大嶋:そうですね。これまで僕が悔しいのと一緒に、応援してくださるファンの皆さんもずっと悔しかったと思います。またずっとトップチームで戦ってきたわけではなく、新しく立ち上げたチームのメンバーと一緒にちょっとずつ成長してきて、こういうレースができたことはすごく自信にもなりますし、僕自身すごく嬉しかったです。
──改めて、この100レースを振り返っていちばん思い出に残っているレースやシーズン、出来事などはありますか?大嶋:そんなにはないですけど(笑)。Team LeMans時代はけっこう長い時間を過ごして、健二さん(故山田健二エンジニア)と戦った時間をよく覚えていますし、ROOKIE Racingに来てからは、本当に苦しい思い出がほとんどでしたが、ところどころ良いレースができたときにチームのみんながものすごく喜んでくれましたし、すごくやり甲斐を感じていました。
──いろいろなモータースポーツカテゴリーがあるなかで、フォーミュラというレースは大嶋選手にとってどんなカテゴリーでしょうか。大嶋:チームのおかげで走ることができているので、こんなことを言って良いのか分かりませんが(笑)、わがままを貫く場所というか、自分のプライドを突き通すためにいろいろなわがままを言わせてもらったな、と思います。
──100レースを達成して、さっそく明日は101レース目が控えています、明日以降、そしてこれからの意気込みを教えて下さい。大嶋:今日は決勝に関してはすごく満足がいく走りができていましたけど、予選はまだまだ課題が残っていますし、今日のレース以上のことを明日はやらなきゃいけないな、とちょっとプレッシャーには感じているのと、せっかく100戦のお祝いの場を作ってもらったんですけど、僕自身今季限りで(スーパーフォーミュラ)を降りようかと思っています。応援してくれるファンの皆さんになるべく早めに伝えて、最後のレースまで観て欲しいと思っているので、この場でお伝えさせていただきます。
●大嶋和也、男泣き。「もう一年お願いして良かった」
(ここから場内のメディアからの質疑応答)Q:100戦おめでとうございます。『わがままを貫く場所』という言葉がありましたが、大嶋和也選手にとって、わがままを貫ける場所がある、というのはどんな意味があったんでしょうか。大嶋:そうですね……。もうちょっと早く(フォーミュラを)降りたいなというタイミングがあったんですけど、やはり結果が出ていなかったですし、いま降りたら一生後悔するという……気持ちが強かったので。本当は去年やめるつもりだったんですけど……
(涙に詰まる)
大嶋:チームオーナーにわがままを言って、もう一年だけ……お願いして、『納得がいくまでやっていいよ』と言ってもらいました……。すいません。……チームのみんなには、始まる前からそういうつもりで今年やると伝えて、本当にみんなすごく頑張ってくれました。辛い思い出ばかりでしたけど、今年のレースは今までぜんぶ楽しく走れていますし、わがまま言ってもう一年お願いして良かったな、と思います。
Q:このトップフォーミュラの世界で100戦を重ねてきた大嶋選手だからこそ見える、モータースポーツを日本の文化にというメッセージがあったと聞いていますが、その思いはいかがですか?大嶋:僕だけじゃなくて、ドライバーはすごく辛い思いをして頑張っていると思うので、もっとある意味で認めてもらえるように、みんなで頑張っていきたいと思っています。今年でドライバーとしては降りますけど、一生懸命チームを作り上げてきたので、次の若手がこのチームで走るときに苦労しないように、裏でサポートしながらROOKIE Racingが活躍するところを観たいな、と思っています。
Q:会見冒頭ですごく飄々と答えていらっしゃった大嶋選手が、ご自身が引退されるという話をするにあたり号泣されていますが、その涙の理由というのは引退する寂しさなのか、わがままを言ってもう一年乗ったことへの感謝なのでしょうか。大嶋:降りることに対する未練のようなものは特になくて。でもやっぱり、本当に結果が出ないなか、ずっと支えてくれたことには本当に感謝しています。今日、なんとか良いレースができましたし、本来はもっと上を目指さなきゃいけないですけど、今の僕たちにできる最高のレースができたので、ちょっとホッとした気持ちもあります。今まで本当に結果が出ないなか、悔しい思いをしてきたのですが『それが終わるんだな』と思ったら、なんだかいろいろと気持ちが出てきちゃいましたね。
Q:フォーミュラを降りるということですが、他のカテゴリーは継続参戦されますでしょうか。大嶋:他のカテゴリーはちゃんと乗ります。ただフォーミュラで戦うということは、かなり自分の生活のなかでもプレッシャーが大きいというか、けっこうな“重り”にもなっていました。他にもいろいろなやりたいことがありますし、モリゾウさんが僕にやってくれたように、いろいろな仕事をしていくなか、すごく頑張っているけど器用じゃない、うまくできていない人がいっぱいいるので、そういう人たちの支えになれるよう時間を使いたいな、と思います。
Q:大嶋選手が初優勝を飾ったコースがスポーツランドSUGOで、ROOKIE Racingにとっても今までの最上位がSUGOでの4位です。102戦目にはSUGOのレースがやってきますが、それも含めて残り6戦、ROOKIE Racingのドライバーとしてどのような結果を残して最後に締めくくりたいと思っていますでしょうか。大嶋:僕としては正直、今年はある程度満足がいく走りができているので、降りるのにそれほど悔いはないのですが、オーナーが『どうしても表彰台が観たい』というので(笑)、もうひと踏ん張りしたいですし、SUGOがいちばんのチャンスかな、と思っているので、もう一度気を引き締めて最後に頑張りたいですね。
●『自分の実力を本当に示す場所』豊田章男オーナーが共感した言葉
(質疑応答が終わり、ここでサプライズとして、ROOKIE Racingのオーナーで、日本自動車会議所の豊田章男会長から記念品の贈呈と、メッセージが寄せられた)
豊田章男会長:いま、僕は日本自動車会議所の会長としてここへ来ましたが、ROOKIE Racingのオーナーとしては、あと6戦……奥にライバルたちが座っていますが(笑)、なんとか表彰台を狙おうと思っています。チームとして全力でサポートしたいと思っています。
このスーパーフォーミュラという日本のトップドライバーたちが集まっているレースで、100戦出場するということはドライバー自身の努力もありますし、チーム、観客の皆さん、メーカー、いろんな方々のサポートがあったからだと思います。その戦いのなかで、ずっと続けられたことはぜひ褒めてあげて欲しいと思います。
『わがまま』と大嶋選手は言っていました。ここに(JRP)上野社長もいる中ですが、私はハコ車の方が興味がありまして(笑)。トヨタ自動車の社長として、F1を止めた男なんですよね。だから『なんでフォーミュラが楽しいの?』と本人に聞いたこともあります。
そうしたら『これだけは、自分ひとりの勝負なんです』と大嶋選手は語りました。スーパーGTは人気はありますが、ふたりで戦い、3大メーカーが勝負をしていますよね。『自分の実力を本当に示すにはスーパーフォーミュラなんです』と言ってくれました。私もアスリートの端くれとしては、その気持ちにすごく共感しました。
今年スーパーフォーミュラで活躍する日本人選手の皆さん、先輩たちも含めて、このレースは本当に素晴らしいレースだと思っています。これまで、なんでこんなに素晴らしいレースなのに観客が少ないのか、追い抜きが少ないのかなどありましたが、本当にこの数年間、改善、改革をいただいたと思っています。
その中で、大嶋和也はチームの7割がモータースポーツの経験がないような新参者のチームで戦ってきました。本当によく我慢してくれたと思います。でも今日は、予選Q1こそ突破できませんでしたが、その後については、本当によく頑張ってくれたと思います。
明日、ROOKIE Racingのチームオーナーとしては、期待はさらに高まっていますが、今日は日本自動車会議所の会長としての仕事をさせていただきます。
(豊田章男オーナー/会長から大嶋に記念品を贈呈)
[オートスポーツweb 2025年07月19日]