第6戦で優勝を果たし、ランキングトップに立ったトムスの坪井と小枝エンジニア スーパーフォーミュラ第6戦富士スピードウェイで予選2番手から逆転優勝を果たし、ドライバーズランキングトップに立った坪井翔(VANTELIN TEAM TOM’S)。全戦の第5戦オートポリスから2連勝を果たしただけでなく、昨年行われた3回の富士でのスーパーフォーミュラでも3連勝していることから、今回の第6戦の優勝で富士で4連勝となり、まごうことなき『富士マイスター』と言える立場となった。
この富士で、そして今年の坪井のパフォーマンスをトムスチームはどのように見ているのか。そして、なぜここまで富士で強いのか、第6戦のレース後に聞いた。
「スーパーGTを含めて、すごく今、乗れているんだろうなというのはひとつありますね」と話すのは坪井を二人三脚で支える担当エンジニアの小枝正樹氏。ドライバーとして30歳となった坪井の今が旬なのと同時に、小枝氏がさらに続ける。
「まずはクルマやコンディションの状況把握が正確だと思います。クルマを作るなり、ウチの今のセットアップに対してのリクエストと、彼がやろうとしてることとのすり合わせ、もちろんデータも重視しますが、最終的にはドライバーのコメントベースになるのですけど、そのフィードバックがしっかりしてる」と小枝エンジニア。
その正確なフィードバックに加え、坪井の中でエンジニア視点でのコメントが加わり、「こっちとしてはすごく『じゃあこうしよう』とやりやすい。こちらの動きをものすごく考えてくれている」と小枝エンジニアが続ける。
1秒以内に10台以上がひしめく僅差の現在のスーパーフォーミュラ(SF)は、セットアップのわずかな違いが致命傷になりやすい。そして、予選の前までの走行時間も多くはなく、フリー走行時間、そして予選のQ1からQ2のわずかな時間でのセットアップなどの判断が勝敗を分けることが多い。ドライバーとエンジニアの効率的で正確なコミュニケーションは、現在のスーパーフォーミュラでは勝つための必須の要素と言えるのだ。
「(クルマを速くするために、またはレースのロングランで安定性を上げるために)今、何が必要か、彼が何を欲しいと言うか『今一番問題としてるものはここ』、『じゃあ、ここを変えれるけど、別のここは当然こうなるよね』と伝えた時に、何がベストか彼に選択してもらうようにしています。その部分が2年目になって、去年の延長戦上でうまくいっているんだろうなとは思います」と小枝エンジニア。
⚫︎チームメイトであり、究極のライバルでもある37号車フェネストラズ側から見た坪井
一方、同じトムスでチームメイトのサッシャ・フェネストラズを担当する大立健太エンジニアも聞く。フェネストラズは第6戦の予選でQ1B組の7位でQ1敗退となり、決勝ではスタートで大きく順位を下げるも、そこから挽回して13番手に終わった。
「サッシャは『後ろ(のグリップ)がない』と言って、それを解消できずに終わりましたけど、予選はセクターベストをつなげると、そこまで大きく(坪井に)離されているわけではないと思っています。決勝に向けてはちょっと大きくセットアップを変えたことが奏功して、そんなに悪くはなかったかなと。スタートでホイールスピンしすぎたのもあって19番手まで落ちましたけど、そこから13番手までリカバリーできているので、もちろんクルマとしてもう少し詰めなきゃいけないところはありますけど、(1号車と)そこまで大きく駆け離れてはいないかなと思っています」と大立エンジニア。
今季のフェネストラズは、どのような部分で苦戦しているのだろう。
「まだ若干、FE(フォーミュラE)から帰ってきて、そのEVマシンのラフさ加減というのが少しまだ残ってるんじゃないのかなと思いますね。やっぱり繊細なSF車両をコントロールする上では、まだ少しクルマがピッチングしやすい感じもするし、本人からもそういうコメントが多い。でも、今回の決勝のペースは悪くなかったので、これまでとは違ってきていると思います」
チームメイトとして見る1号車、そして坪井の強さについて大立エンジニアに聞いてみる。
「(坪井は)どのような状況でも本当にうまくまとめきる、ということがありますよね。そして今日の決勝でも、ラップペースを見ていてもすごく安定していますよね」と大立エンジニア。
⚫︎トムス2年目の坪井のドライバーとしてのパフォーマンスアップ
昨年トムスに加入していきなりチャンピオンを獲得した坪井。トムス2年目のドライバーとしての進化を、山田淳テクニカルディレクターに聞く。
「本当に驚いてるのは、進化が止まらないんですよ。いや、本音ですよ。去年よりもさらに強くなって、スーパー GTもさらに強くなっているので、いつまで続くのかなというのはちょっと気になるところですけど、まあ本当に強くなったなという印象ですね」
近年ではニック・キャシディ、平川亮、宮田莉朋らがトムスで国内タイトルを獲得し、世界へ羽ばたいている。彼らを間近に見てきた山田淳テクニカルディレクターとして、坪井の強みはどこになるのか。
「謙虚ですよね。ただ、レースでいざ、行かなきゃいけないところはズバっと行く。ドライバーとして、その謙虚さとワイルドさのバランスがすごく取れてるのかなという気はしますよね」
トムスとしても近年の富士では無類の強さを発揮しているが、山田淳氏にとっては、実はそれほど得意な感じはないようだ。
「みんなは『たくさん走ってるから』と思っているのでしょうけど、いやいや(苦笑)。富士は我々チーム側にとってはホームコースで近いし勝ちたいサーキットではあるのですけど、今のこの富士のレイアウトになってから、すごく難しいんですよ。僕もエンジニアを長くやってましたけど、もう本当にこのレイアウトの富士が嫌い(笑)。これまで相当走り込んできましたけど、何十年も経っていますけど『これ』というのは特につかめていないんです。それくらい、コンディションで変わってしまう。昔のコースは自信がありましたけど、今のこのセクター3になってから、まあ悩ましいサーキットですね」
とは言いつつも、近年の富士で抜群の結果を残しているトムス、そして坪井。果たして日曜の第7戦で富士5連勝となるのか。坪井の富士での強さはまだまだ続きそうな気配だ。
[オートスポーツweb 2025年07月19日]