2006年の文化庁メディア芸術祭では、映像部門で審査委員会推薦作品となった『RULE of ROSE』―[絶対夢中★ゲーム&アプリ週報]―
◆口コミで広まるホラー系タイトルの魅力
2025年上半期に話題となったオカルティックなミステリーアドベンチャー『都市伝説解体センター』(Switch、PS5、Steam/集英社ゲームズ)のように、口コミでその怖さが伝播するホラー系タイトルは数知れず。
というわけで今回は、尖った個性がコアなファンに刺さった懐かしのホラー&サスペンスタイトルを7本ピックアップしました! みなさんの心を揺さぶった1本は何ですか?
◆ファミコン期の伝説のホラーゲーム
●スウィートホーム
ファミコン/カプコン/1989年
1989年に公開された「伊丹十三製作総指揮」の映画『スウィートホーム』のゲーム版。呪われた館に閉じ込められたテレビクルー5人が脱出を目指す、当時のファミコンソフトとしては珍しいホラー色濃厚なRPGでした。
館内には宿屋のような施設は一切なく、体力を回復できるのは限られた数の薬瓶のみ。5人のクルーは体力が0になると復活できないため、行動は常に緊張感を伴う……。物語を彩る不気味なフレスコ画に、8ビットのドット絵とは思えないグロテスクなモンスターたち。その雰囲気も最恐でした。版権もののためリメイクはされていませんが、同じカプコンの『バイオハザード』の原点となったとも言われています。
◆文字の恐ろしさを見せつけた元祖サウンドノベル
●弟切草
スーパーファミコン/チュンソフト(現:スパイク・チュンソフト)/1992年
『ドラゴンクエスト』シリーズの開発を担当していたチュンソフトが、初めてパブリッシャーとしてリリースしたタイトルが『弟切草』。テキストを読み進め、選択肢で物語が多様に変化する「サウンドノベル」の第1弾でもありました。シナリオ担当は脚本家・小説家の長坂秀佳さん。
庭に黄色い弟切草が咲き乱れる洋館に迷い込んだ主人公と恋人の奈美を見舞う怪現象。唐突に出現する顔半分のミイラや、軋むドアに書かれた「奈美」の赤い文字に震え上がったプレイヤーも多いはず。効果音で聴覚を、文字で想像力を刺激し、頭のなかに浸透してくるような怖さがありました。
◆3Dグラフィックが画期的だったインタラクティブシネマ
●Dの食卓
3DO・PS1・セガサターン/三栄書房(3DO)、アクレイムジャパン(SS/PS)/1995年
異彩を放つゲームクリエイターとして知られた飯野賢治さんが率いたワープの代表作で、不遇のハード・3DOの代名詞ともなったホラーアドベンチャー(その後セガサターン、PS1にも移植)。病院に立てこもり大量殺人を起こした父の真意を知るため、娘のローラが現場に潜入するも、謎の古城に飛ばされてしまう……。
フル3Dでゲームが作れるようになった時期に挑戦的なデザインを採用し、ゲーム史にその名を刻んだインタラクティブシネマ。2時間でクリアしなければならない緊迫感と猟奇的なストーリーはいまだに語り草。インタビューに関わったこともあり、個人的に強く印象に残っているタイトルです。
◆現実と怪異が重なる女子高生の心霊スポット探索
●トワイライトシンドローム(探索編/究明編)
PS1/ヒューマン/1996年
今はなきゲームメーカー・ヒューマンが生んだ学園ホラーアドベンチャー。ディレクターはのちにグラスホッパー・マニファクチュアを立ち上げた須田剛一さん。東京・吉祥寺をモデルにした雛城町を舞台に、クールな現実主義者のユカリ、古風な霊感少女のチサト、ミーハーな後輩のミカ、3人の女子高生が心霊スポットを巡ります。
女子高生3人のリアルな会話から見える、人間心理の闇……。ポップと恐怖が交錯する新鮮味あるホラーゲームでした。
また、『トワイライトシンドローム』の一部スタッフが参加している『夕闇通り探検隊』(PS1/スパイク/1999年)は、この境界線に立つ思春期の微妙な心理をさらに繊細に見つめた1本。都市開発の裏で消えゆく素朴な信仰という、ノスタルジーとの相性も抜群でした。
◆幽霊の無念を癒やす、哀しきゴーストストーリー
●エコーナイト
PS1/フロム・ソフトウェア/1998年
PS1からゲーム開発に参入したフロム・ソフトウェアの初期作品で、一人称の3Dホラーアドベンチャーが『エコーナイト』。プロデューサー&シナリオライターは『アーマード・コア』のクリエイター・鍋島俊文さん。
亡霊のみが彷徨う豪華客船・オルフェウス号に吸い込まれた青年となって、魂が抱える未練を解き明かしていきます。出港前に婚約者に逢えなかった船員、少年を待ちわびるシアターの技師、オウムの玩具を前に怯える召使の少女……。悪霊に対してこちらからの攻撃手段はなく、電気のスイッチを入れて身を守るという恐怖と安堵のメリハリがゲームの特徴。各エピソードも切なく、上品で哀しいゴーストストーリーが展開されます。
◆初期のインディー系サイコサスペンス
●Forget me not -パレット-
PS1/エンターブレイン/2001年
2000年の第4回アスキーエンタテインメントソフトウェアコンテストでグランプリを受賞した、『RPGツクール95』製のサイコサスペンスアドベンチャーのPS1版。
精神科医のシアンは、電話越しに記憶喪失の少女のカウンセリングを行うことに。「赤い色しか思い出せないんです」という少女にシアンは語りかける。「強くイメージするんだ」と……。
断片的な記憶のつながりで構成された精神世界を、ダンジョンのような形に落とし込んだのが巧み。血や花など赤い色だけがモノトーンの画面に表示される演出に、はっとさせられます。
『パレット』以外にも、『コープスパーティー』(1996年〜)や『ゆめにっき』(2004年〜)、『青鬼』(2004年〜)など、『RPGツクール』で制作されたホラー&サスペンス系フリーゲームも懐かしいですね。
◆カルト的な人気を誇る残酷な童話風ホラー
●RULE of ROSE
PS2/ソニー・コンピュータエンタテインメント/2006年
1930年、イギリスの孤児院を舞台にしたサイコミステリー・アドベンチャー。開発は『moon』のラブデリックの流れを汲むパンチライン。ムービー制作は『ALWAYS 三丁目の夕日』の白組。
孤児院に迷い込んだ19歳の少女ジェニファーは、少女たちの禁断の遊びに巻き込まれ、虐げられながら貢ぎ物を探す……。愛犬ブラウンとともに孤児院や飛行船でアイテム探索を行うジェニファー。残酷な童話風演出を枠組に、陰鬱で退廃的な空気が充満し、人間の歪みが露わになっていきます。ヨーロッパでは虐待やいじめ描写が問題視されたタイトル。現在ではカルト的な人気を誇っています。
以上、心に残るホラー&サスペンス7作品でした。蒸し暑い夏に背筋を凍らせてみては?
<文/卯月 鮎>
―[絶対夢中★ゲーム&アプリ週報]―
【卯月鮎】
ゲーム雑誌・アニメ雑誌の編集を経て独立。ゲーム紹介やコラム、書評を中心にフリーで活動している。雑誌連載をまとめた著作『はじめてのファミコン〜なつかしゲーム子ども実験室〜』(マイクロマガジン社)はゲーム実況の先駆けという声も