
六平直政
「べらぼう」で、蔦屋重三郎が通う蕎麦屋「つるべ蕎麦」の主人半次郎役をつとめている六平直政。この「六平」は芸名ではなく本名で、「六平」と書いて「むさか」と読む。
「六」を「む」と読むのはわかるが、「平」に「さか」という読み方はなく、かなりの難読名字といえる。
では、なぜ「六平」を「むさか」と読むのだろうか。
実は、六平家は平家の落人の末裔と伝えられている。源平合戦で敗れた平家の武者達は各地に落ちていった。秋田県にかほ市にも6人の平家の武者が落ち、そこで平家の旗である赤い旗を6本立てて「六平」を名字とし、読み方は「6つの赤」→「むつあか」→「むさか」と変化したという伝承がある。
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秋田県由利本荘市にある真宗大谷派の超光寺は、室町時代に蓮如に学んだ六平政吉を初代としている。六平直政は祖父が超光寺住職で、この子孫にあたる。現在も、六平姓はにかほ市と由利本荘市に集中している。
尾美としのり
一方、秋田藩の留守居役という重職の傍ら、戯作者朋誠堂喜三二としても活躍している平沢常富を演じているのが、尾美としのりである。こちらも本名で、「尾美」という名字は名字ランキング1万位以下の珍しい名字である。
さて、「おみ」と読む名字にはいろいろな書き方があり、関東甲信越地方に集中している。そして、漢字によってその集中地域が異なっている。
最も多いのが「小見」で、群馬県を中心に新潟県にかけて多い。なお、この名字は「こみ」とも読む。次いで「尾身」が多く、こちらは逆に新潟県を中心に群馬県にかけて集中している。この2つは名字ランキング5000位以内の普通の名字である。
3番目に多いのが「尾見」で、こちらは1万位に近く、茨城県に集中している。
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そして4番目が「尾美」。1万位以下と少なく、長野県に多い他、「おみ」名字の中では珍しく広島県にも多い。
この他、新潟県に「麻績」、富山県に「淤見」という珍しい書き方もある。
ルーツは地名で、平安時代中期に書かれた『和名抄』に「麻績」として登場する長野県麻績(おみ)村をはじめ、関東甲信越地区にはいろいろな漢字をあてた「おみ」地名が多数ある。これから生まれた「おみ」という名字に、さらに様々な漢字を当てるようになったものだろう。
◆森岡 浩 姓氏研究家。1961年高知県生まれ。早稲田大学政経学部卒。学生時代から独学で名字を研究、文献だけにとらわれず、地名学、民俗学などを幅広く取り入れながら研究を続ける。2017年から5年間NHK「日本人のおなまえっ!」のコメンテーターを務めた。著書は「47都道府県名字百科」「全国名字大事典」「日本名門名家大事典」など多数。
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