
福岡県北九州市の住宅街にある猫雑貨とギャラリーの店「ハイツくろねこ」。アットホームな雰囲気の店内には、全国の猫作家によるオリジナル猫雑貨や本などが並ぶ。店主で猫作家の山根史江さんは現在、8匹の猫(すべて保護猫)とともに2階の自宅で暮らしている。1階の店舗にはそのうちの何匹かが気ままに顔を出す。「カギ」(メス、5歳)もその中の1匹。山根さんに「幸せをもたらしてくれた」という黒猫だ。出会いは突然だった。山根さんに話を聞いた。
【写真】保護3日目(左)、保護14日目(右)。本当に小さな体でした
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山根さん カギと出会ったのは2020年8月。東京から北九州に移住し、店を開いて1年が経った頃でした。朝、自転車に乗って家を出て、近くの駐車場を通ったとき、カラスが4、5羽、いっせいに飛び立ったので、なんだろうとカラスたちがいた場所を見たら、地面に黒いものが2匹、もぞもぞと動いていて。よく見ると生後まだ1週間くらいの赤ちゃん猫2匹だったんです。
なぜそこに赤ちゃん猫がいたのかわかりません。幸いけがはしていませんでしたが、もし私が通るのがもう少し遅かったらカラスの餌食になってしまっていたところでした。すぐに助けて家に連れて帰ったものの、どうしたらいいのかわからず、幸い猫のペットシッターさんの知人がいたので電話し、赤ちゃん猫の世話の仕方などを教えてもらいました。
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1匹は助けることができず3日後に亡くなってしまったのですが、もう1匹は3時間に1回のミルクと排泄を主人と一緒に続け、元気に育ってくれました。それがカギです。名前の由来はしっぽの先端が曲がった「カギしっぽ」だったから。カギを救出したとき、店ではちょうど黒猫をテーマにした作品の企画展「黒猫展」を開催していたため、「『ハイツくろねこ』さんが黒猫展の最中に、本物の黒猫を拾った」と友人たちの間で話題になりました。
当時、東京から一緒に連れてきた子に長毛の黒猫「ナツ」(メス)がいました。この子は当時住んでいたアパート近くで誰かから水をかけられびちょびちょに濡れていたところを保護した子。私が初めて「猫を飼いたい」と思い、ずっと寄り添ってきた子です。カギがやってくると、同じ黒猫同士、気が合うのか、ナツはお姉さんのようにカギを可愛がってくれました。
ナツは私が寝ていると必ず私の左腕を枕にして寝るのが好きな子でした。23年に15歳で亡くなりましたが、ナツがいなくなると、今度はカギが同じ場所で腕枕するようになり、ナツのいない空間を埋めてくれるようになったんです。
カギはやんちゃでツンデレ、だけど甘えん坊でもあります。小さいころから店ではお客さんの足音が聞こえると、ドアが開く前にタタタと走っていき、お出迎えをよくしていました。それで人気の看板猫になり、「カギに会いたい」とお客さんがたくさん来てくれるようになりました。
その後の4年間で、野良の子が産んだキジトラ兄妹の「まる男」「まる子」(ともに4歳)、保護猫活動をしている友人から引き取った白猫の「しろゑ」(メス、3歳)、夜、草むらで鳴いてさまよっていたキジトラの「キオ」(オス、2歳)を保護し、東京から連れてきた子を含めて全部で8匹に。みんな家の近くなどで縁のあった子たちです。いま、カギは看板猫の座を後から来た子たちに譲り、ふだんは2階の家で自由気ままに過ごしています。
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北九州に移住してきたとき、知り合いはほとんどいませんでしたが、カギがいてくれたおかげで、猫作家さんやお客さんなどいろんな方々との縁や交流の輪が広がって、こうして店を続けられ、年に数回の企画展も開催できています。「黒猫は幸運を招く」といいますがまさにそう。猫がカラスに襲われたという話は聞いたことがありましたが、実際、自分がそういう状況の赤ちゃん猫を助けるなんて夢にも思いませんでした。私と主人には子どもがいないので、カギは大切な娘です。これからも「カギしっぽ」で幸運をひっかけてきてほしいです。
【店名】猫雑貨とギャラリーの店「ハイツくろねこ」
【住所】福岡県北九州市小倉北区篠崎2-25-1
【X,インスタグラム】@haitsukuroneko
(まいどなニュース特約・西松 宏)
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