読みにくい字で書かれた遺言書 有効なの?【行政書士が解説】

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2025年07月20日 17:10  まいどなニュース

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遺言書の意外な落とし穴… ※画像はイメージです(mapo/stock.adobe.com)

先日、父親を亡くしたAさんは、通夜や葬儀を終えようやく落ち着きを取り戻しました。実家の片付けも開始し、父親の書斎の整理にも取り掛かりました。

作業を始めて数時間後、普段は目に触れない書棚の奥にAさんは桐の小箱を見つけます。埃を払いそっと蓋を開けると、中には古びた封筒が入っていました。封筒を裏返すと父親の独特の字で「遺言書」と記されていました。

正式な手続きを経て遺言書を開封すると、読みやすいとは言えない字で何かしらの文章が書かれていました。ただし、晩年は病の影響で手が思うように動かなかったため、父親の字は解読不能な暗号のようになっていたのです。

Aさんの父親のケースのように解読不可能な遺言書が見つかった場合、法的に有効なものとして認められるのでしょうか。北摂パートナーズ行政書士事務所の松尾武将さんに聞きました。

判読できないと遺言書の効力が認められない可能性が

ー文字が読みにくい、判読不能な場合でも遺言書の有効性は認められますか

自筆証書遺言は、原則、遺言者がその全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならないと法律で定められています(民法968条1項)。「自書」の理由は、筆跡によって本人が書いたものであるかが判定でき、遺言者の真意に出たものであることを書面自体から明らかにすることができるからとされています。

Aさんのケースのように、文字が著しく読みにくく、内容の解釈が相続人間で大きく分かれてしまう、あるいは全く判読できないという場合、遺言書としての効力が認められない可能性が高くなります。

一部の文字が不明瞭であっても、前後の文脈や他の証拠から合理的に遺言者の意思が推測できる場合には有効と判断されることもありますが、誰が読んでも客観的に内容を確定できないほど判読が困難な場合は、遺言者の真意を確認できません。

ー遺言書の一部が判読不能な場合、遺言書全体が無効になってしまうのですか?

原則として、遺言書の一部が判読不能であったり、形式的な不備があったりする場合でも、その部分だけが無効となり、他の有効に記載されている部分については効力が維持されると考えられます。

ただし、判読不能な部分が遺言全体の趣旨や、財産処分の核心部分(例えば、誰にどの財産を遺すかという指定が全体的に不明瞭であるなど)に関わる場合、遺言者の意思が全体として不明確であると判断され、遺言書全体が無効とされてしまうケースも考えられます。

裁判所も個々の事案において、それぞれの事情に応じて判断しています。遺言書の解釈にあたっては、遺言者の最終意思を尊重し、可能な限り実現する方向で判断する傾向にあるようです。

ー「読めない」というトラブルを防ぐためにはどうしたらいいでしょうか

最も確実なのは、公正証書遺言を作成することです。公正証書遺言は、公証人が遺言者の意思を確認しながら作成し、その内容も公証役場で保管されるため、文字が読めないといったトラブルはまず起こりません。

あるいは代筆やパソコンで遺言書を作成し、秘密証書遺言として作成する方法も考えられますが、成立のためには公証役場に出向き、公証人などへ申述する必要があります。

自筆証書遺言で作成する場合には、楷書で、丁寧に、読みやすい文字で書くことを心がけてください。改ざんなど防止のためにも、消えにくく、筆跡が安定する筆記用具を用いることも必要かと思います。

いずれにせよ遺言書を作成する際には、専門家にアドバイスを求めることをおすすめします。遺言書が無効となり、遺言者の最終意思が実現できないことのないよう、正しい手続きを行いましょう。

◆松尾武将(まつお・たけまさ)/行政書士
長崎県諫早市出身。大阪府茨木市にて開業。前職の信託銀行員時代に1,000件以上の遺言・相続手続きを担当し、3,000件以上の相談に携わる。2022年に北摂パートナーズ行政書士事務所を開所し、相続手続き、遺言支援、ペットの相続問題に携わるとともに、同じ道を目指す行政書士の指導にも尽力している。

(まいどなニュース特約・八幡 康二)

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