【MLB】山本由伸が絶対的エースと呼ばれるための課題は? キーワードは「ビッグイニング」と「中4日」

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2025年07月20日 17:20  webスポルティーバ

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日本人メジャーリーガー後半戦の焦点【2】
好調ピッチャー編(山本由伸・千賀滉大・今永昇太)

 今シーズンの前半戦にメジャーリーグで投げた日本人投手は、先発・リリーフを問わず11人を数えた。彼らのうち4人は、3.00未満の防御率を記録している。防御率1.00の大谷翔平(ロサンゼルス・ドジャース)は先発5登板で9イニングなのでサンプル数としてはわずかながら、あとの3人はいずれも10試合以上の先発マウンドに上がり、65イニング以上を投げている。

 防御率の低い順に、千賀滉大(ニューヨーク・メッツ)が14登板・77.2イニングで防御率1.39、山本由伸(ドジャース)が19登板・104.1イニングで防御率2.59、今永昇太(シカゴ・カブス)が12登板・68.0イニングで防御率2.65だ。ナ・リーグで前半戦60イニング以上を投げた68人中、彼らの防御率は1位、9位、10位タイに位置する。

 なかでも、山本は現時点の規定投球回(チームの試合数×1.0イニング以上)に達していて、こちらの防御率ランキングではナ・リーグ5位にランクインしている。奪三振率の数値も高く、1試合平均10.01個は7位だ。

 ここまでの山本は、ドジャースのエースとして投げてきたと言っていい。

 ドジャースの先発投手のうち、ダスティン・メイは17登板で94.1イニングを投げているが防御率4.96。山本とメイ以外の先発投手のイニングは、いずれも山本の半分に届いていない。しかも、タイラー・グラスノーは5月と6月の登板がまったくなく、開幕から2登板で負傷者リストに入ったブレイク・スネルはまだ復帰に至っていない。

 ちなみに、山本がシーズン全体の規定投球回(162イニング)に到達すると、ドジャースの投手では3年ぶりとなる。過去2シーズン、ドジャースには145イニング以上を投げた投手すらいなかった。

 後半の課題をふたつ挙げるなら、ひとつはたまに「ビッグイニング」を招いてしまうことがあることだろう。

 5月8日の4回裏と、6月13日の3回表は、どちらも1イニング4失点(自責点4)を記録。7月7日は1回裏に5点を取られ(自責点は3)、イニングを終わらせることなくマウンドを降りた。

 この3度のビッグイニングに共通するのは、塁上に複数の走者がいる場面でホームランを打たれていることだ。そこには、いずれも四球で出塁させた走者が含まれている。塁上に走者がいなければ、たとえホームランを喫しても失点は1で済む。具体的には3月28日のような、被本塁打2本ながら5イニング2失点(自責点2)とすることができる。

 昨シーズンの被本塁打は、ソロが5本と2ラン以上が2本。今シーズンはソロも2ラン以上も5本ずつ。ランナーのいる場面で打たれるケースを減らしたい。

【中4日の登板で結果を残せるか】

 そしてもうひとつの課題は、登板間隔だ。オリックス・バファローズ時代もそうだが、昨シーズンも今シーズンも山本は中5日未満で投げたことがない。昨年のポストシーズンも、すべて中5日以上の登板だった。

 ポストシーズンにおいて、ドジャースがディビジョンシリーズ5試合と、リーグチャンピオンシップシリーズ7試合をフルで戦うと仮定しよう。

 両シリーズ間のオフが昨年と同じ1日だけの場合、山本がディビジョンシリーズの第1戦に投げて、そこから中5日ずつだと、2シリーズで計3登板、中4日なら計4登板(2登板目は中5日)となる。つまり、ローテーションの順序を整えてポストシーズンを迎えるとして、中5日と中4日を比べると、後者のほうがエースは1試合多く登板できるということだ。

 勝ったほうがワールドシリーズに進み、負けたほうはオフを迎えるリーグチャンピオンシップシリーズの第7戦に、エースが登板できるかできないかは、そのチームの命運を握ることになりかねない。ポストシーズン後半のいずれかの時点で、山本は中4日の登板にトライすることになるだろう。

 前半戦フル回転した山本に対し、千賀と今永は前半戦、それぞれ1カ月と2カ月弱の離脱を余儀なくされた。それでも、防御率はともに優れた数字を残している。

 メッツで先発10登板以上の5人中、防御率1.39の千賀以外の4人は防御率3.05以上。カブスで先発10登板以上の6人のうち、今永の防御率2.65はマシュー・ボイドの防御率2.34に次ぐ数字で、あと4人の防御率は3.90を超えている。

【エースはローテを守る責務がある】

 シーズン後半戦、ふたりはどのような立場で臨むのか。まず、千賀はエースとして投げ続けることが求められる。

 千賀は6月12日の登板で右太もも裏を負傷。一塁のベースカバーに入って高い送球をジャンプして捕った直後、痛みを訴えて降板した。その翌日からメッツは7連敗を喫し、地区首位の座をフィラデルフィア・フィリーズに明け渡し、地区2位で前半戦を終えることになった。

 ケガの主な原因がこのプレーだったのかは不明だ。また、メッツが失速したのは千賀の離脱だけが要因とも言いきれないだろう。けれども、千賀の不在が大きかったのは間違いない。

 前半戦のメッツ先発投手陣はリーグ2位の防御率3.38を記録した。しかし、台所事情は厳しい。タイラー・メギルは6月中旬に右ひじを痛め、復帰は早くても8月なかば以降。グリフィン・カニングは6月下旬に左アキレス腱の断裂に見舞われ、シーズンを終えた。

 よって後半戦でローテーションの両輪を担うべきは、千賀とショーン・マネイアだろう。開幕前に故障者リストに入っていたマネイアは前半戦最後の試合で戻ってきた。2023年のエース(千賀)と2024年のエース(マネイア)が揃い踏みすれば、ワイルドカードにとどまらず地区優勝も狙える。

 一方、今永の立場も千賀と似ている。カブスは地区首位で前半戦を折り返した。だが、6月17日の時点で6.5ゲーム差をつけていたミルウォーキー・ブルワーズに1ゲーム差まで詰め寄られている。

 カブス先発陣の台所事情も厳しい。今永と両輪を形成する予定だったジャスティン・スティールは開幕早々に左ひじの手術を受け、ジェイムソン・タイヨンは7月初旬に右のふくらはぎを痛めた。しかも、カブスの先発投手陣の防御率はメッツほど低くない。リーグ8位の4.06だ。

 とはいえ、ドジャースもメッツもカブスも、ポストシーズン進出圏内の位置から後半戦を迎える。山本と千賀と今永に求められるのは、いずれも「エースとして」の活躍だ。彼らがチームを牽引すれば、「ナ・リーグの地区優勝はこの3チーム」ということも大いにあり得る。

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