スーパーフォーミュラ第7戦決勝。セーフティカー明けのトップ3台によるギリギリのバトルはこの週末最大の見せ場となった。 スーパーGT第7戦富士スピードウェイでの決勝レース、19周目にセーフティカーが入りコース上の全車のギャップがリセットされたことで、そこからチェッカーまでほぼ全域でバトルが繰り広げられる見どころの多いレース展開となった。そして、もっとも会場を湧かせたのは30周目、その時点でトップの岩佐歩夢(TEAM MUGEN)、2番手坪井翔(VANTELIN TEAM TOM’S)、3番手太田格之進(DOCOMO TEAM DANDELION RACING)の3台による直接バトルと、OT(オーバーテイクシステム)を使った心理戦だった。
5番手からスタートした岩佐は上位陣ではもっとも速いタイミングでピットインして、アンダーカットを狙い、幸運にもセーフティカーが入ったことでトップに立った。だが、2番手の坪井と3番手の太田はピットインを遅らせた分、岩佐より11周タイヤがフレッシュな状況で岩佐にとっては厳しい状況だった。
「やっぱりタイヤのデルタ(11周差)ができた状態で、真後ろにライバルが来たら絶対に抜かれてしまうだろうと最初は感じました。ただ、自分のペースはあんまり悪くないとフィーリングもありました」(岩佐)。
そして25周目にレースはリスタートとなるが、11周フレッシュな状況の坪井のペースがなかなか上がらなかった。
「やっぱり、セーフティカーが入ると(ペースが遅いので)どんどんタイヤの温度が下がってしまうので、11周分のアドバンテージではなくて、5周分ぐらいビハインドになっちゃうぐらい温度はやっぱり大事で、その温度が下げられるような状況になったので、やっぱりOTを使わないと(前の岩佐を)抜くのは厳しいかなと思っていました」(坪井)。
そして30周目、トップの岩佐の背後に迫った坪井は、OTを使用して岩佐を抜きにかかる。坪井はアウトから並びかかり、2台は1コーナー(TGRコーナー)で並走、そのままコカ・コーラコーナーから100Rコーナーでもサイド・バイ・サイドで、最後にヘアピン(アドバンコーナー)のイン側を奪った岩佐がトップを守った。そして、ここで坪井はOTをすべて使い切ってしまった。
「2位である以上、仕掛けたら後ろから仕掛けられるし、仕掛けなかったら抜けない。あのままで2位で終わっても面白くないので、やっぱり優勝を目指してやってる以上、2位である以上、リスクがあるのは承知の上でレースをしていた。まあ、そこで2位にいたっていうのは、逆に言うとアンラッキーだったかな」(坪井)
その2台がOTを使ってバトルをしていた後で、3番手の太田はOTを使わずに追走。虎視眈々とタイミングをみて、2台がOTを使い終えたところでOTを使用し、1台ずつオーバーテイクを決めてトップを奪った。
「たぶん、坪井選手からすると非常に嫌だっただろうなと思います。どこかのタイミングで絶対に坪井選手は相手(岩佐)の前に出るためにOTを使うというのは分かっていた。まずはそこのタイミングを待って、OTを使ったときに自分が使わないで、その次の周で確実に仕留める。そのタイミングを待っていましたし、そのためにタイヤマネジメントとのタイヤノ温度管理をしっかりしていました」(太田)
「前がOTを使ったら、前との加速感からなんとなく分かるので、チームからも(無線で)言われますけど『この周、使ったな』と思って『次の周だ!』と思ったときに、スイッチを入れて、その周は本当に集中しましたというか、しっかりまとめました。1コーナーのオーバーテイクはめちゃくちゃギリギリでした。坪井選手は本当にブレーキングがうまくて、『これはまずい』と思ったんですけど、なんとか前に出れた。1〜2コーナーはアウト側がダートになっているので、ちょっと行き過ぎると飛んじゃうから嫌だったのですけど、『ここで行くしかもう勝てない』と思ったので、立ち上がりでもアクセルを緩めずにいましたけど、踏んで行って前に出れたし、坪井選手もクリーンなバトルをしてくれて感謝しています」(太田)
トップの岩佐もすでにOTを使い切って追い上げる太田になす術なくトップを奪われ、太田は今季3勝目。岩佐は2位を死守、坪井は3位に終わった。上位3台によるクリーンな接近戦、そしてオーバーテイク、OTを駆使した攻防はまさに近年のベストバトルとも言える濃密な展開だった。
⚫︎三者の担当エンジニアが振り返る第7戦&トップバトル
⚫︎DOCOMO TEAM DANDELION RACING吉田則光監督兼エンジニア(6号車/太田格之進担当)「レースに入る前から、格之進からは前後のOTの残量を細かく教えてくれと言われていました。ですので、あの時(セーフティカー明け)も前の2台、そして格之進から『後ろも』と言われていたので、(佐藤)蓮(64号車PONOS NAKAJIMA RACING)のOT残量を伝えていました。使い方はこちらで指示していません。すべてドライバーの判断です。ああ見えて、意外と頭がいいんですよ(苦笑)」
⚫︎TEAM MUGEN小池智彦エンジニア(15号車/岩佐歩夢担当)「(上位勢で一番早い8周目にピットイン)ピットタイミングは、昨日のレースが最後にタイヤのデグラデーションが大きかったので引っ張りたかったのですけど、スタートからパックになっていて他チームのピットの動きが見られなかったので、抜け出すためにも早めに入るのがいいかなと。そこの判断は即決できたので良かったかなと思います。セーフティカーが出たタイミングで、トップに立てることはわかっていたのですけど、本来なら、もっとギャップを築いた状態で立ちたかったですね。ストレートスピードで坪井選手が若干、速い状況でしたけど昨日ほどのペースではなかったので、OTを合わせれば抑えられるかなと思っていました。ストレートの最高速を見たり、モニターを見たりしながら、坪井選手がOTを使った/使っていそうな時は無線で伝えていました。その後の太田格之進選手のことはその時はまったく考えていなかったですね。2台で使いきっちゃったので、太田選手に抜かれてしまいましたけど、そこはまあ、しょうがないですね」
⚫︎VANTELIN TEAM TOM’S小枝正樹エンジニア(1号車/坪井翔担当)「振り返れば、スタートの出遅れが大きかったですね。そこから(セクター3で太田)格之進選手を抜くのにOTを使うことになってしまった。あれは痛かったですね。その分が残っていたら、またその後の展開も変わっていたでしょうね。セカンドスティントでは特に内圧も変えていないのにグリップが良くなかった。原因はこれからですが、出したかったでペースが出なくて、それが一番大きかったですね」
[オートスポーツweb 2025年07月20日]