鹿島GK早川友基 [写真]=J.LEAGUE 東アジアE-1サッカー選手権2025で韓国代表に1-0で勝ち切り、日本代表は大会連覇を飾った。この大一番をベンチから見守り、大迫敬介のスーパーセーブを含めた一挙手一投足に大きな刺激を受けたのが、鹿島アントラーズの守護神・早川友基だった。
「(日韓戦では)みんなの献身性とか体を張る部分を目の当たりにしましたし、サコ(大迫)もここ一番で止めていた。試合には必ず勝負どころがいくつかあるので、そこをモノにするのは絶対に大事だと思いました。今回E-1に行って高みも見えたし、またそこに選ばれるためにチームでの結果が一番だというのも再認識した。本気でワールドカップに行きたいと感じました」と心境著しい26歳のGKは新たな気持ちでJリーグの舞台に向かった。
7月20日。J1リーグ再開一発目の相手は、この時点で首位に立つ柏レイソル。早川にとってはE-1で共闘した古賀太陽、久保藤次郎、垣田裕暉、細谷真大がいる強敵だ。細谷だけはベンチ外となったが、他の3人は堂々とスタメンに名を連ねていた。それだけに、絶対に勝って首位奪還への布石を打とうと燃えていたに違いない。
命名権の導入で“メルカリスタジアム”に変わって最初のホームゲーム。しかも、クラブアドバイザーのジーコ氏を筆頭にレジェンドが数多く集結した大一番ということで、鹿島の面々は気迫あふれる入りを見せた。開始早々の6分にはエースFWレオ・セアラが目の覚めるようなロングシュートが決まり、いち早く先制する。さらに40分には植田直通が打点の高いヘッドで追加点。前半のうちに2−0とリードを広げ、理想的な展開に持ち込んだかと思われた。
だが、前半終了間際に小屋松智哉に1点を返されると迎えた後半は柏の攻撃のギアが一気に上がった。度重なる猛攻で鹿島は守勢に回る時間が長くなったが、早川を中心に何とかしのぎ続ける。彼自身も後半10分の中川敦瑛の強烈シュートをセーブするなど、窮地を救っていたが、6月に古巣復帰した瀬川祐輔が入るや否や、一気に抜け出され、2−2の同点に追いつかれてしまったのだ。
そこに追い打ちをかけるように、鹿島は後半37分にPKを献上してしまう。キッカーはすでに1点を奪っていた小屋松。早川は相手の心理状態を混乱に陥れようと、さまざまな駆け引きを試みたという。
「ああいう時間帯だったんで、なかなか蹴らせないように時間かけて、まずはレフェリーと喋って。もちろんデータとか、相手の特徴も入ってたので、うまく駆け引きしながら、外させようと仕向けました。自分の間合いに持っていくというか『相手がどこに蹴ってもこっちは止めれるぞ』というくらいのスタンスで、ドシっと構えるのが重要かなと思って向かいましたね」
創意工夫を凝らし、時間をかけて蹴らせたシュートはクロスバーの上。早川はシュートの方向に反応しており、もし枠に飛んでいたしても止めていた可能性も高かった。「枠に来てたら、止められた可能性も高かったかなっていう状態まで持っていけた。それは良かったと思います。あそこで失点して3−2になるのと、外させて逆転の機運を作るのとでは、全然違いますから」と本人も語気を強めたが、結果的にこのPKが本当に大きなターニングポイントになった。
最後まで諦めずに粘り続けた鹿島は後半アディショナルタイムに古賀のパスミスから松村優太が値千金の決勝弾をゲット。3−2の劇的な勝利を挙げ、順位を4位から2位に再び上げることに成功した。ヴィッセル神戸がファジアーノ岡山に勝利し、今季初の首位に浮上したため追走する格好にはなったが、3連敗を止めて夏のブレイクに突入することができたのは朗報と言えるはずだ。
「レイソルが首位で、自分たちが今まで首位だったとかは関係なく、常にチャレンジャーという姿勢を持って今後も戦わなければいけないなと改めて感じました。今日の試合ではこれだけやれるというのも示せたと思う。これをベースに、もっともっとレベルアップしていく必要がありますね。僕自身もこの前の代表活動を経験で終わらせるだけじゃダメ。海外組がいるA代表に入っていくためにも、鹿島でしっかりと積み上げを図って、結果を出していくことが大事。やっぱり鹿島は首位にいなければいけないと思っています」
改めて目を輝かせた早川。E-1選手権 中国代表戦での目覚ましいパフォーマンスを経て、彼は一段階飛躍した印象だ。9月以降は欧州組の鈴木彩艶らも入ってくるが、そこに名を連ねるためにも、柏戦で示したような堂々たる存在感、ここ一番の勝負強さ、高度なリーダーシップをを維持する必要がある。1年後のワールドカップを現実的な目標と捉え始めた男が、ここからどう変貌を遂げていくのか。今回の柏戦が前向きな契機になれば理想的だ。
取材・文=元川悦子
【ハイライト動画】鹿島vs柏