
東大合格者数が100名を突破し、躍進を遂げる聖光学院。
その校長である、工藤誠一先生の著書『VUCA時代を生き抜く力も学力も身に付く 男子が中高6年間でやっておきたいこと』では、学力だけでなく、VUCA(ブーカ ※不確実な)な時代でも生き抜いていける真の教育、思春期の男子との接し方など、家庭でも実践できるような参考になる話が収録されています。
今回は本書から一部抜粋し、子どもの夢を狭める親のNG言動と、夢を現実にするためのサポート方法について紹介します。
「将来お金が儲かる仕事に就きたい」のはダメなのか?
子どもが将来の夢を描くときネックになりがちな、親側の意外な価値観は何だと思いますか?それは、お金儲けを最優先に考えることをいけないこととする価値観だと、私は考えています。この価値観は学校の中に顕著であり、生徒が「将来お金が儲かる仕事に就きたい」と言うと、多くの教員が嫌な顔をします。
私が事業をやっている家に生まれたことや、本校の事務長、理事長として経営に携わってきたからこそ言えることかもしれませんが、何をするにしてもお金の問題は避けて通れません。
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そういう現実を直視せず、お金儲け第一主義はダメなことだと考えるのは、あまりにも視野が狭いと言わざるを得ません。
特に今は、働き手へのリターンが小さすぎるのが日本全体の課題であり、今の学生は「その仕事でどれだけ稼げるか」をかなり意識しているところがあります。
商売の原則、わかっていますか?
この状況では、チャレンジした分、稼ぎも増える外資系の企業に優秀な学生が流れてしまうのも無理はありません。自分にしかできないやり方で、多くの人が欲しいと思うものをつくり出せる人ほど儲かるというのが商売の原則です。つまり、自分の個性を知り、マーケットとなる社会を知ることが必要なのであり、そこにはやはり、学校での学びが活きてきます。
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中高生男子は、大人の社会に対する強い好奇心をもっています。知っていることはお金のことに限らず、隠さずにどんどん共有してあげましょう。
子どもの夢にどう向き合うか
子どもが夢を語り始めたら、それがどんなに漠然としていても、文字通りの夢物語としか思えなくても、茶化したり、否定したりは決してしないでください。「現実的じゃないよね」などと言うのは簡単ですが、それは子どもにとって、何のサポートにもなりません。
口出しをしたい気持ちをぐっと堪えながら、見守ってほしいのです。
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目指す夢に対し、今の実力や環境では難しいということはもちろんあるでしょう。そのときにするべきなのは、夢を諦めさせることではなく、子どもの夢の実現に至るルートを、できるだけたくさん親が知っておくことです。そして、子どもが相談してきたときに、示すことです。
本校の卒業生である宇宙飛行士の大西卓哉さんは、小さい頃から宇宙への夢を描き、東京大学の航空宇宙工学科へ進みました。しかし、大学を卒業して進んだのは航空業界。近いようで遠い世界です。
大西さんの宇宙への道の第一歩となったのは、社会人になってから偶然見つけた宇宙飛行士の募集広告だったそうです。そして、夢を実現した今、大学での学び、社会人としての経験が仕事に役立っていることは想像に難くありません。
夢を持ち続けている限り、どんなチャンスが転がっているかわかりません。そして、チャンスをものにした瞬間、今までの行動がムダではなかったことに気づくのです。
あなたは今、我が子に対して、「今は力が及ばなくても、またチャンスは必ず来るよ」とポジティブな声かけができるでしょうか?
また、その言葉が単なる気休めにならないよう、具体的に実現可能なルートを選択肢として想定できているでしょうか? 子どもが夢の前で立ち止まったときには、ぜひそんなふうに声をかけてください。
工藤誠一(くどう せいいち)プロフィール
1978年に母校の聖光学院中学校高等学校に奉職。事務長、教頭を経て2004年、校長就任、11年から理事長にも就任。さゆり幼稚園園長、静岡聖光学院理事長・校長を兼務。神奈川県私立中学高等学校協会、私学退職基金財団、神奈川県私立学校教育振興会、横浜YMCAの各理事長、日本私立中学高等学校連合会副会長などの要職を務める。2016年、藍綬褒章を受章。
(文:工藤 誠一(聖光学院校長))