大人になると不意に胸を打つ「懐かしさ」。それは希望であり、時に幻想にもなる。Xに投稿された漫画『追憶』は、限界集落という“終わりゆく風景”を舞台に、その感情を静かに揺さぶる作品だ。
参考:【漫画】『追憶』を読む
本作の作者・真さん(@W6TZsGJDnYulzGE)は、Xでアナログ作画の短編を発表し続ける漫画家。その1作である『追憶』は、読む人の記憶の奥をノックするような、不思議な読後感を残す。その制作裏について話を聞いた。(小池直也)
――Xに投稿した経緯は?
真:大手出版社の賞レースに応募して賞を獲りデビュー、というコースに興味が持てずXで漫画を発表しています。Xでの主な反響は、有名な漫画家や、ラッパーの方などにフォローしてもらえたことです。そして今回の取材は最も大きい反響だと思います。
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――本作の着想について教えてください。
真:最初は「限界集落を描いてみよう」と思ったんです。それで実際の地域を取材したら、小学校跡地の記念碑を見つけたんですよ。そこで自分が小学生だったときの記憶を描くことを決めました。
でも続きが浮かばなかったんです。自分の胸を強く打つ、感動させるものを出さなければならないのですが、それがまったく出なくて。限界集落はただ悲しげで、自分にはドラマを思わせるものはありませんでした。
――形にできたブレイクスルーは何でした?
真:世界の有史以来の全てが記録されている、コンピュータのようなシステムを物語に入れるアイデアが浮かんだことですね。2週間ほど考えて「もうこの先は何もない」とさえ思ったんですけど(笑)。
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あと同時に「限界集落にひとりで住んでいるおじいさんが、家族に囲まれて幸せだった頃に戻る」結末が浮かんで。この結末は自分でも感動してしまいました。
――なるほど。
真:自分は必ず「自分が感動するものを作る」と心がけていますが、この流れはいけると感じました。昔のことをみんな求めているし、自分も求めています。「求めるなら得られる」ということを確かめるようなで形でこのような作品になったんです。
――自然の風景も印象的だったのですが、モデルになったエリアなどはありますか?
真:石川県の海老坂という村をメインに、いくつかの村を取材してモデルにしています。
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――作画についてのこだわりを教えてください。
真:「ヘンじゃないこと」、「意味がわかること」、「あまりこだわらずスピードを重視する」ということを心掛けています。
――セリフが手書きなのはなぜでしょう?
真:オールアナログ制作でデジタルがほぼ使えないからです。
――アナログに何かこだわりが?
真:漫画を描き始めたばかりの頃、スクリーントーンを好きになれなかったんです。絵を描くなら紙とペンと絵の具だなと。それもあって今でもアナログで描いています。
ただ「慣れてる」というだけの理由なのですが、世の中では「アナログで描くのがカッコいい」、「アナログ正義」という空気があるようで……。それにあやかって行こうという感じです。
――アナログの利点は?
真:アナログの利点は「1回も失敗できない」という緊張感。ただ効率を考えたら、デジタルの方が有利だとは思いますね。
――今後の展望があればお願いします。
真:これからもスピード重視で2カ月に短編を1本描いて発表していく予定です。漫画を辞めようと思ったことは今までありません。一生続けると思います。
(文・取材=小池直也)
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