「分かりやすく説明しているつもりなのに、なぜこんなことを言われるんだ……」
データを使って論理的に説明したはずなのに、部下から「なんだか、AIと話しているみたいです」といわれてしまった。他の部下からも飲み会の席で、「課長には心を開くことが難しいです」と言われる始末だ。
なぜ、データを使って理路整然と話すことが、逆効果になるのか。
実のところ、コンサル出身者やロジカルシンキングを学んだマネジャーほど陥りやすいわながある。
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今回は、コンサル風の話し方がなぜ嫌われるのかについて解説する。部下とのコミュニケーションに悩んでいる上司は、ぜひ最後まで読んでほしい。
●AIと話しているようだと言われた上司の衝撃
その課長は、もともと大手コンサルティングファームで5年間働いていた。MBA取得後に事業会社へ転職し、念願だった管理職のポジションを手に入れた。
コンサル時代に培った分析力と論理的思考力を武器に、部下の指導に力を注いだ。定例会議では必ずデータを用意し、KPIの推移をグラフで可視化。商談の進捗も数値化し、成約確率を算出して優先順位を決めていた。
「このアプローチなら、部下も納得して動いてくれる」
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そう信じて疑わなかった。しかし、状況は一向に改善しなかった。「分かっているか?」と確認すると、部下たちは口をそろえて「分かっています」と答える。そう、課長の話す内容は、部下にはしっかり理解されていたのだ。
そして3カ月後、若手部下との1on1ミーティングで衝撃的な一言を聞くことになる。
「課長と話していると、まるでAIと対話しているようです」
最初は褒め言葉かと思った。論理的で効率的だという意味だろうと。しかし部下の表情は冴えなかった。詳しく聞いてみると、こう続けた。
「とても分かりやすいです。課長の話し方は……。ただ、それだけなんです」
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課長は困惑した。「分かりやすい」と感謝されているのに、だからといって行動は変えないというのだ。追い打ちをかけるように、飲み会の席で別の部下からも言われた。
「課長には、心を開くことが難しいです。お酒の力を借りないと……」
ショックだった。部下のためを思って、客観的なデータに基づき、論理的に説明していたつもりだった。それが、まさか逆効果だったとは。
コンサル時代は、クライアントから「分析が鋭い」「説得力がある」と高く評価されていた。しかし、部下との日常的なコミュニケーションでは、その強みがむしろ弱みになっていたのだ。
●相手の行動を変えられない話し方に価値はない
私自身、20年近くコンサルタントとして働いてきた。職業柄、客観的なデータを使い、ファクトベースで話すことを徹底的にたたき込まれてきた。その癖は簡単には抜けない。
「分かりにくい」と言われることはほとんどない。しかし、相手が本当に納得し、行動に移すかどうかは別問題だ。
例えば、ある営業部長に戦略を説明したときのこと。私はこう語った。
「こうした結論に至ったのは、次の3つの根拠があるからです。図表にもそれが表れています。ご納得いただけますか?」
「とても分かりやすく説明していただき、ありがとうございます」
「本当に……?」
「え?」
「いや、本当に、ご納得いただけたのかと……」
このように念を押したのには理由がある。ある課長に「部長は、横山さんの話を聞いても、まったく分かっていませんよ」と言われたからだ。
実際に本音を聞いてみると、部長は「分からない」と言うのが恥ずかしかったのだという。
一方、私の先輩コンサルタントは違った。
あるクライアント企業を訪問した際、ドラゴンズが好きな部長だと分かると、先輩は10分でも20分でも昨日の試合の話で盛り上がる。そして本題に入ると、「ま、こんな感じでやっていきましょう」と、図表を軽く見せるだけで終えてしまうのだ。
「あんな説明でいいんですか?」
私が尋ねると、先輩は軽く笑って言った。
「これまでと行動を変えてもらえるなら、それでいいんだよ」
そしてくぎを刺すようにこう続けた。
「目的は何だ? 俺たちが“正しい”話し方をすることか? それとも、経営のために“正しい”行動をしてもらうことか?」
その言葉は、私の胸に突き刺さった。私は自分の話し方に酔っていたのかもしれない。相手のためではなく、自分の満足のために話していたのではないか、と。
●なぜコンサル風の話し方は嫌われるのか
私の経験から断言できる。コンサル風の話し方は、多くの人に好かれない。好かれないどころか、相手の行動を変えることもできない。
根本的な原因は、「相手視点が足りない」からだ。
データや論理で武装した説明は、一見正しそうに見える。しかし、相手の感情や価値観を無視して正論を押し付けても、人の心は動かない。専門用語やグラフを次々と提示されても、相手が本当に理解しているとは限らない。
相手によって読解力や理解スピードは異なる。
それでも多くの人は、「分からない」と言うのが恥ずかしい。細かいデータを見せられると、反射的にうなずいてしまう。その様子を見て話し手は「理解された」と勘違いし、どんどん話を進めてしまう。これでは、独りよがりな説明になってしまう。
「AIと話している」と言われても仕方がない。人を動かすには、論理だけでなく感情に寄り添うことも必要なのだ。
●アリストテレスが教える説得の3要素
古代ギリシャの哲学者アリストテレスは、こう語った。
「人は論理的に話す者に従うが、感情に訴える者にはさらに心を開く」
彼は説得の3要素として、ロゴス(論理)、パトス(感情)、エトス(信頼)を挙げた。コンサル風の話し方は、ロゴスに偏りすぎている。
数字やデータで理路整然と説明するのは確かに有効だ。しかし、相手の心に訴えかけるパトスや、話し手への信頼感であるエトスが不足していると、相手は動かない。
例えば部下に新しい業務を依頼する場面。データだけで必要性を説明しても、部下の不安や期待には応えられない。「なぜこの仕事が大切なのか」「どんな成長につながるのか」など、感情面での配慮が求められる。
信頼関係も欠かせない。どれだけ論理的でも、信頼できない相手の話は受け入れがたい。日ごろから部下との関係を大切にし、人間味のあるコミュニケーションを心掛けることが重要だ。
ピラミッドストラクチャーのような構造的フレームワークを使えば、「分かりやすい」説明はできる。しかし、それで人は本当に正しい意思決定ができるのか。その人の行動を変えることができるのか。答えは「ノー」だ。
著者プロフィール・横山信弘(よこやまのぶひろ)
企業の現場に入り、営業目標を「絶対達成」させるコンサルタント。最低でも目標を達成させる「予材管理」の考案者として知られる。15年間で3000回以上のセミナーや書籍やコラムを通じ「予材管理」の普及に力を注いできた。現在YouTubeチャンネル「予材管理大学」が人気を博し、経営者、営業マネジャーが視聴する。『絶対達成バイブル』など「絶対達成」シリーズの著者であり、多くはアジアを中心に翻訳版が発売されている。
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