「住宅ローンの返済に行き詰まったという相談件数が増加傾向にあります。とりわけ、この物価高が続くなか、収入が減った50代の方、退職後も返済し続けるシニア層からの問い合わせが急増しています」
そう語るのは、住宅ローン問題の全国ネットの相談センター「任意売却119番」代表の富永順三さん。年間3千件ほどの問い合わせの多くを占めるのが50代以上からの相談だという。
「住宅ローンを組んだのは、新築の場合35〜38歳、中古で40歳前後が多く、返済期間は35年がほとんど。ローンの返済額は家計が苦しくなっても小遣いや食費のように抑えるわけにはいかず、払い続ける必要があります。
いっぽう、住宅ローンを組んだ当時は、働き続けていれば収入は右肩上がり、終身雇用も約束され、退職金も年金も十分もらえる、と思っていた方々が、想定外の事態が次々起こり、ローン返済が困難になってしまうケースが目立ちます」(富永さん)
4つの実例をもとに、住宅ローン破綻の実態を探ってみた――。
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【case1:役職定年で年収減も残高は2千200万円】
大阪府に住むAさん(58)は、36歳のときに約5千万円で新築戸建てを購入。毎月のローン返済額は約12万円だった。
ところが55歳のときに、一定の年齢になると役職が自動的に外れる制度「役職定年」に。管理職手当がなくなり、基本給、ボーナスも減少。700万円あった年収が約3割減の500万円まで下がった。
ローン残高は2千200万円だが、大学生と高校生の子供がいるAさんは、生活費と学費を払うのに精いっぱい。住宅ローンの返済は3カ月滞り、金融機関から督促状が届いた。
「大手企業を中心に導入され、55歳前後でそれまでのポストから外れる役職定年制度。ローンを組んだ後にこの制度ができたため、想定外だったというケースも。50代半ばでの収入減は教育費負担のピークを迎えていることもあるため、死活問題です」(富永さん)
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金融広報中央委員会の調査によると、50代の住宅ローン残高は平均で約1千万円。原則として、住宅ローンが残っている家やマンションは、完済しなければ売却できない。このままでは家は差し押さえされ競売に。Aさんは金融機関に同意を得て、任意売却を検討中だ。
「ローン残高以上の金額で自宅が売れる見込みがあれば、ローンを完済して一般売却できますが、実際は残債よりも低い価格でしか売れないことがほとんど。
競売にかけられる前であれば、金融機関の同意を得て売却を成立させる任意売却が圧倒的に有利です。競売では市場価値の5〜7割でしか売れませんが、任意売却では、ほぼ通常の不動産取引価格で売却できることも。手続きに時間がかかるため、収入減があっても自宅を手放さないためには早めの手立てが必要です」
【case2:退職金が想定以下で一括返済ができず】
中小企業に勤務していたBさん(63)は妻と2人暮らし。25年前にローンを組んで新築戸建てを購入。退職金で一括返済を計画していたが、想定していた額より1千万円以上低いため断念。ローン残高は1千800万円。現在、非正規の仕事をしているが、生活が苦しいためローン返済はカードローンを借りて補てん。銀行に相談したところ、支払いを続けるか、売却をするか決めるよう話が……。
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退職金は、企業年金の運用難などを背景に減少傾向に。厚生労働省によると、大卒の定年退職者の退職金平均額は’97年時点の2千871万円から’22年には1千896万円と、約1千万円も減少している。
『住宅ローンはこうして借りなさい』(ダイヤモンド社)の著書があるファイナンシャルプランナーで生活設計塾クルー取締役の深田晶恵さんが語る。
「いくらもらえるかわからない退職金を頼りに、定年後も返済が続くプランで住宅ローンを組む人が多くいます。退職金で一括返済すると老後資金に支障が出る問題も。返済に困って別の借金をすると多重債務に陥る恐れもあります。
安心のためには、夫婦ともに長く働き、世帯年収を少しでもアップさせること。これから退職を迎える人は退職金がいくらになるか確認し、実情をしっかり把握したうえで家計を見直したり、返済計画を立て直すなどしましょう」
【case3:年金生活が苦しく滞納が4カ月にも】
茨城県在住のCさん(68)の自宅は築28年。残ったローンは約1千万円だが、両親の介護費用もあり、退職金で繰り上げ返済ができず。高齢のため再就職ができずにアルバイト生活をしている。
Cさんが受け取る年金は1カ月19万円ほど。そのうち9万円をローン返済に充てていたが、年金とアルバイトの収入だけでは生活が苦しく4カ月分を滞納……。
Cさんの相談にのった富永さんがこう語る。
「自宅を売却し現金化したうえで、毎月家賃を支払うことで売った自宅に賃貸の形で住み続けられる『リースバック』を提案しました。
現在は物価高に加え、年金を実質目減りさせるマクロ経済スライドが導入されており、年金額の上昇は物価上昇より低く抑えられます。これがシニア層の住宅ローン破綻につながっているのでしょう」
【case4:離婚で返済計画が立ち行かなくなって…】
D子さん(52)は、結婚後、15年前に夫と共同名義で4千800万円のマンションを購入。だが、3年前に離婚し、元夫は別の賃貸住宅に。D子さんは来春社会人になる子供といまもマンションに住み続けている。
離婚する際、養育費の代わりに住宅ローン(毎月の管理費を含めて約15万円)の半額を夫が払う約束だったが、3カ月前から返済が滞って、金融機関からD子さんのもとに督促状が。前夫に連絡したが「転職して収入減になり、支払いは難しい」と言われた。年収400万円のD子さんは完済できないと判断し、住み慣れたマンションを売る決断をしたという。
最後に深田さんが語る。
「今後の金利上昇は要注意。住宅ローンを組む人の7割を占める変動型は、金利が上がっても返済額が5年間変わりません。
しかし、返済額のうち利息に回る額が増え、そのぶん元金の返済に充てられる額が減少。金利が急上昇すれば、返済していても元金が減らずに、利息ばかり支払う状況になることも。
固定型でも、物価高、定年後の収入ダウンなどにより返済が滞るリスクがあります。住宅ローンの問題に直面する人は今後さらに増えることが懸念されます。
破綻を防ぐには、まずは現状への危機感を持つこと。リストラ、介護など想定外の事態が起こることも考慮したうえで、日々ムダな支出がないか、家計の見直しにいますぐ着手することが大切です」
愛着のある家やマンションを手放さないためにも、「うちは大丈夫」という油断や過信は禁物だ。
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