『なぜ酔っ払うと酒がうまいのか』(日経BP)葉石かおり(著)、 浅部伸一(監修)ひと仕事終えたあとの一杯、雑事から解放された週末のひと時。「このために生きていた!」と気持ちを分かち合うのは、恋人でも家族でも友達でもない。お酒です。
でもなぜお酒を飲むとハイになるのか、考えたことありますか。
◆お酒と体の深い関係
『なぜ酔っぱらうと酒がうまいのか』(日経BP)は、お酒のおいしさに隠された秘密と、健康的にお酒を嗜む秘策を綴った一冊。著者は酒ジャーナリストの葉石かおりさん。監修は肝臓専門医の浅部伸一先生です。
止め時を理解していても、体に響くのを気にしていても、あと一杯に手が伸びてしまう。この不可抗力を、本書が科学的に証明してくれました。
◆なぜ「うまい」と感じるのか
「人が『おいしい』と感じる味覚には、五味といわれる甘味、酸味、塩味、うま味、苦みのほか、渋味と辛味も関わってくると考えられます」とは、本書に登場する、食品の味を科学的に解析する企業のマネージャー氏の弁。
この味覚が複雑に絡み合って存在するのが、各種お酒です。
加えて、「食品の味は、それに含まれる成分に加え、その食品を味わう時の『条件』にも影響を受けます」。条件とは「生理的な条件」「精神的な条件」「習慣的な条件」この3つ。
これらを踏まえると、私達が無意識に欲しているお酒にも根拠が見えてきます。疲れた時のレモンサワーや梅干しサワー。ストレスが蓄積した時のビール。やはり疲れには酸味を、ストレスには苦みを、脳が欲するようにできているのです。
逆にいえば、無性(むしょう)にビールが飲みたい!という体の声を聞いたら、敵はストレスにあり!と気づけますよね。ここで自制できればいいのですが……。お酒と人の欲望は、それほど単純な関係ではないようです。
◆お酒を飲むと脳が変化する
「脳とアルコールは、不思議なほど相性が良い」とは、本書に登場する医学博士の弁。
医学博士が断言するのですから、お酒に手が伸びるのはもう避けようがありません。脳に逆らえるはずはないのですから。個人的にも、脳が求めているのだからしかたないじゃないか、飲めや歌えやの人生でいいじゃないか、と思わなくもないです。
その証拠に医学博士の言葉も、「アルコールを飲むと、快楽を司る脳内ホルモンである『ドーパミン』が多量に分泌され、リラックスした時に出る脳波の『アルファ波』が多く出ます。だから適度に酔っ払うと気持ちがいいし、疲れも取れる。これは脳にとっても心地よい状態なのかもしれません」と続いています。
ちなみに医学博士も「ひとりの酒好き」だそうです。専門家が酒好きだと安心しませんか。
ますます飲めや歌えやの人生万歳!と、お酒を爆買いしてしまいそうです。が、欲望のまま突っ走ると、健康から病への橋を渡りかねないのです。
◆「健康に配慮した飲酒」を目指す
2024年2月に厚生労働省が策定したのが、「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」です。
このガイドラインが作成された背景には、「日本における飲み過ぎによる病気や事故、職場での労働損失などの社会的損失は、年間4兆1483億円になるという推計があります(厚生労働省研究班2011年)」というデータがあるのです。
たかが飲みすぎ、されど飲みすぎ、想像をはるかに超えた金額ですよね。
とはいえ、メンタルや脳がお酒の味や効果を必要とし、実際に明日への活力にもなっています。どうにかうまい飲み方を探りたいではありませんか。
はい、大丈夫です。「生活習慣病のリスクを高める飲酒量」を守ればいいのです。
◆酒好きなら筋トレをしよう
「1日当たりの純アルコール摂取量が男性40g以上、女性20g以上」。これが、「生活習慣病のリスクを高める飲酒量」です。
ただし、「飲酒量はなるべく少ないほうがいい」という注釈付き。
具体的に「純アルコール量は、20gだとビールだと中ジョッキ1杯、ワインだと2杯程度、日本酒だと1合に相当する」とのことで、人によっては「少ない」と落胆する量かもしれません。
「病気ごとに示されたリスクの上がる飲酒量」のガイドラインもありますので、詳細は本書を参考にしていただきたいです。
お酒をやめるか人生をやめるか、とヤケ気味に考えてしまったあなた。抜け道も用意してあります。筋トレです。
◆お酒のための筋トレルール
本書に登場するフィジカルトレーナーの弁は、「お酒を飲む習慣があると、オーバーカロリーになりやすいので、摂取したカロリーを運動で消費することは理にかなっています」。
自身も酒好きの「酒アスリート」というフィジカルトレーナーの言葉に、「やったるで」と高揚する方も、「面倒くさい」と不貞腐(ふてくさ)れる方もいるでしょう。しかし、運動の恩恵はカロリー消費だけではありません。
「筋トレをして達成感が得られるようになると、お酒を飲んだ時と同じように、“快楽ホルモン”と呼ばれるドーパミンが分泌されます。筋トレが習慣化すれば、日常的にドーパミンが分泌されやすくなるので、ノンアルコール飲料でも満足できるようになるでしょう」
つまり、脳の満足度としてはお酒を飲んだ時と同等になる可能性がある、と伝えているのです。
◆「お酒が好き」だからこそ「健康に配慮」
“筋トレすれば好きにお酒を飲んでもいい。お酒のために筋トレしよう。”と「酒アスリート」への道をたどるのは、とても前向きな選択です。
そこで注意していただきたいのが、「筋トレをした後にお酒を飲むのはNG」という点。
運動後のプハーッ!が最高なのに、とここでまた落胆したあなた。「お酒を飲むと筋肉の合成率が3割近く減る」というデータを知れば、お酒へ伸びた手が引っ込みませんか。
「月曜日は筋トレの日、火曜日はお酒を飲む日」というように、完全に分けたほうが筋肉をつけるためには有効だそうです。
結局、好きにお酒は飲めないのか、とたそがれてしまう人。あるいは、健康で長生きしたいから今のうちにいい飲み方を習慣化しよう、と決意する人、さまざまでしょう。
ただ、お酒をおいしく長く飲み続けるためには、健康を無視するわけにはいかないのです。
葉石さんをはじめとして、本書に携わっている方々は皆「酒好き」。お酒を愛するがゆえに、愛ある飲み方を提唱しているのです。
本書を読み、お酒と健康の知識をつけて、お酒を人生の味方にしませんか。お酒との関係が、今よりもっと深く濃くなるはずです。
<文/森美樹>
【森美樹】
小説家、タロット占い師。第12回「R-18文学賞」読者賞受賞。同作を含む『主婦病』(新潮社)、『私の裸』、『母親病』(新潮社)、『神様たち』(光文社)、『わたしのいけない世界』(祥伝社)を上梓。東京タワーにてタロット占い鑑定を行っている。X:@morimikixxx