インタビューに答えるけいぴぃさんスクール水着姿でカメラの前に立つ熟女系YouTuberをご存じだろうか。その名は、けいぴぃさん(58歳)。‘23年に公開された「スクール水着着てみた」という動画が44万回を超える再生回数を記録、現在では、チャンネル登録者数が1万3000人を超える。
スクール水着にとどまらず、ビキニやブルマ、セーラー服などさまざまな衣装を身にまとい、カメラの前でまったりと語りかけるのが定番のスタイルだ。体勢によってはきわどいショットが映り込むこともあり、一部の愛好者層から熱心な支持を受けている。
支持を集める要因の一つは、夫と成人した娘を持つ58歳のリアルだ。自身のことを「ただの主婦」と称し、老後の不安や体の変化といった、年齢とともに直面する現実を赤裸々に語ることも少なくない。なぜそこまで自分をさらけ出すのか。水着動画がバズるまでの経緯、そして現在の胸中について聞いた。
◆「本当は、美容系ユーチューバーになりたかったんです」
けいぴぃさんがYouTubeを始めたのは、今からおよそ2年前のことだ。30代までエステの仕事をしていた経験を活かし、当初は顔の体操や足のマッサージといった、女性向けのセルフケア動画を投稿していた。
「美容系YouTuberとして、いずれは企業案件を受けたり、アフィリエイトで収益を得ながら、いろんな人と楽しくコラボして、最終的には本を出せたらいいなと思っていました」
しかし、現実は厳しかった。再生回数はせいぜい数十回程度。試行錯誤を重ねた末、ようやく目標としていた収益化ラインである登録者数1000人に手が届きそうになった頃、初めて視聴者データを確認し、愕然したという。
「視聴者の9割が男性だったんです。美容系で、しかもこんなおばちゃんの動画を男性が見てるなんてまったく想定していなかったので、とにかく恥ずかしかったです」
理想と現実のギャップに葛藤しながらも、けいぴぃさんは美容系動画の更新を続けていた。すると次第に、視聴者である男性たちから「水着でやってほしい」といったコメントが寄せられるようになっていったという。
「最初は迷いもありました。でも、女芸人さんがおもしろい格好で笑いを取るみたいに、私みたいなおばちゃんが水着を着たらウケるんじゃないかと思ったんです。それに……承認欲求? 正直、ちょっと見てもらいたい気持ちもありました。
それを夫に相談すると、『おばちゃんの水着なんて、お前は迷惑系ユーチューバーか!』ってツッコまれました」と笑う。
◆「絶対に見てはいけないYouTube」と名指しされ……
こうして「スクール水着」に挑戦することを決めたけいぴぃさんだったが、動画を出してすぐに話題を呼んだわけではない。注目を集めるきっかけとなったのは、YouTubeの有料会員サービス「メンバーシップ」を導入したことだった。
「相場がよく分からなかったのと、YouTubeに手数料を引かれることも考えて、月額500円、4000円、6000円の3段階に設定したんです。それが『強気すぎる値段設定のスク水のおばちゃん』としてSNSで軽く話題になり、あるYouTuberの方が私のことを『絶対に見てはいけないYouTube』って紹介したらしくて……。私の知らないところでそれが一気に拡散されたんです」
そもそも「メンバーシップ」を導入した背景には、YouTubeにおける収益化への“無知”があった。
「当時は、1再生=1円だと思い込んでいました。最初は主人も水着に反対していたのですが、若い女性が水着姿で再生数を稼いでいるのを見て、『この人、200万回も再生されてる。つまり200万円ってことか』と言い出したんです。私も『そうやで。だから私も着てみる価値あるやろ?』と説得しました。
しかし、実際には「1再生=1円」という単純な仕組みではなく、得られる収益はごくわずかだった。それどころか、水着姿がYouTubeのポリシーに抵触したと判断され、収益化が取り消された動画も存在した。そうした中でも何とか収益を上げようと模索した末に行きついたのが、「メンバーシップ」制度の導入だったのだという。
それまで視聴者の中心は、50〜70代のいわゆる「おじさま層」だった。しかし、水着動画が注目を集めたことで、10〜20代の若年層が突如として流入。「『絶対に見てはいけない〜』動画から来ました!」という投稿が、コメント欄を埋め尽くした。
「うれしいというよりは、正直、戸惑いのほうが大きかったです。何より、それに伴ってアンチコメントが一気に増えました。『お母さんがこんなんじゃなくてよかった』とか、シンプルに『気持ち悪い』とか、そういう言葉が平気で書き込まれていて……。たちが悪いのは、明らかに大人なのに子どものふりをして書いてくる人もたくさんいたんです」
それでも「再生回数が伸びるなら」と思い、動画投稿を続けていたけいぴぃさんだったが、YouTubeの収益はほとんど伸びなかった。
さらに「『強気すぎる価格設定』と言われてしまった以上、普通の動画では満足してもらえないのではないか」と無言のプレッシャーを感じ、メンバーシップの終了を決意。その思いをメンバー向けの動画で率直に伝えたところ——。
「誰も退会してくれなかったんです。むしろ『辞めないで』って言ってもらえて、それを見て思わず泣いてしまいました」
こうした声に励まされながらも、けいぴぃさんは悩んだ末にメンバーシップを終了。だがその後は、改めて前向きな気持ちで動画制作に取り組むようになった。夫も、日頃から寄せられる「旦那さんが羨ましい」といったコメントを喜んでおり、娘も最初こそ水着姿に驚いていたものの、「お母さんがやりたいことをやればいい」と背中を押してくれているという。
◆「明日死ぬかもしれない」。58歳のリアルな胸中
現在58歳のけいぴぃさんは、同年代の人々に向けて次のようなメッセージを寄せてくれた。
「私は5人家族の末っ子でした。母は私が20代の時に他界し、姉も40代で病気で亡くなりました。父は3年前に、兄は今年4月に亡くなって……今は家族が誰もいません。そうやって家族が次々といなくなると、『自分も明日死ぬかもしれない』って本気で思うようになった。これが、もうすぐ還暦を迎える私のリアルです。だからこそ、YouTubeも『今やらないと後悔する』と思ったんです。
思い描いていた未来とは、まったく違います。今でも、美容系YouTuberとして成功していた別の世界線の自分を空想することがあります。でも、YouTubeを始めたことに後悔はありません。70歳や80歳になって、顔もしわくちゃになって美容なんて言えないし、ましてやスク水なんて、それこそお笑いですから(笑)」
「有名になりすぎて、義父母に水着のことがバレるのはさすがに困る」と、けいぴぃさんは笑う。その一方で、「“スク水のおばちゃん”としてYouTubeで成功するには、もっともっと突き抜けないと難しい。それを自分が本当にやれるのか」という現実的な悩みも抱えている。
それでもけいぴぃさんは、今日も小さな部屋でカメラの前に立ち続けている。