<寺尾で候>
日刊スポーツの名物編集委員、寺尾博和が幅広く語るコラム「寺尾で候」を随時お届けします。
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大ヒット上演中の映画「国宝」が社会現象になっている。歌舞伎界を舞台に女形を演じた人間ドラマ。歌舞伎ファンだけでなく、若い世代からも支持を集めるムーブメントが引きも切らない。
ちまたで映画のモデルとうわさされている希代の歌舞伎役者と会って、しばらく話し込んだ。歌舞伎の女形は「傾城(けいせい)」をつとめて、はじめて一人前といわれる。
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血縁をもって芸が継承される世界で、その流れをくまないにもかかわらず頂点に上り詰めた。その舞台が世界から認められるのは、世襲を疑わない梨園(りえん)では稀なことだった。
当世の名女形とは舞台に関してシリアスな会話を交わし、世間で盛り上がっている「国宝」についてしばらく語り合った。日本の伝統芸能が世代を超えて人気を博するのは望むところだろう。
さて野球界では、女性が活躍する舞台がスポットを集めている。今年3年目を迎えた「阪神タイガース Women(以下、阪神TW)」と「読売ジャイアンツ女子(同、読売女子)」の交流戦は盛況だった。
阪神、巨人両球団が運営する女子クラブチームの対戦は、阪神TWが第1戦(7月5日・甲子園)で2−1のサヨナラ勝ち、第2戦(20日・東京ドーム)も9−3で連勝した。
東京ドームでは1軍戦がデーゲームで行われ、続いて“オンナの戦い”がナイターで火花を散らした。1軍戦を取材した後だったが、上では見られないきびきびしたプレーもあって新鮮だった。
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阪神TWが日本一メンバーで正捕手の木戸克彦、読売女子は主戦のサウスポーだった宮本和知が監督を務める。いずれも1軍で実績を積んだ人材だから、両球団が女子野球に力を注ぐ本気度が伝わってくる。
当日は大型スクリーンの演出も1軍のゲームと同じ、イニングの合間にはイベントも開催された。応援団から「六甲おろし」「闘魂こめて」が鳴り響き、7000人を集客したファンは楽しんでいる様子だった。
阪神TWは関西を午前8時にバスで出発し、約8時間掛けて上京してきた。ほとんどの選手は仕事をしながら野球をしている状況だが、東西の伝統球団のユニホームをまとって躍動する。
実は日本女子野球の歴史は古い。ただそれを束ねるべき組織がシステムを確立できず、発足と消滅を繰り返した。最近では4年前の21年に「日本女子プロ野球リーグ」が無期限の活動休止に追い込まれた。
残念ながら観客動員の減少などがビハインドになって、経営の安定化が図れなかった経緯がある。しかしここにきて追い風なのは女子野球のチーム数とともに競技者人口が徐々に増加していることだ。
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現在は関東、関西を中心に、全国で高校、大学、クラブなど、各カテゴリー別に大会が開催され、女子野球人気に拍車がかかる。この現象は野球の底辺拡大の契機となるチャンスかもしれない。
NPBで女子野球チームを設立したのは、西武の「埼玉西武ライオンズ・レディース」が手始めで、阪神、巨人が続いて計3球団が運営している。これから各球団が新たに参画の動きを見せるだろうか。
また今後は女子野球をつかさどる、全日本女子野球連盟が、女子野球の広がりにいかなるビジョンを描き、束ねていくのか、そのリーダーシップにも注目したい。(敬称略)【寺尾博和】
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