
激戦区の福岡を勝ち上がり、創部5年目にしてベスト8入りを果たしたチームがある。八女学院(やめがくいん)は1923年創立と、100年を超える歴史のある高校だが、硬式野球部は2021年、もともとあった軟式野球部から転向して発足。早くも今夏、初めて4回戦を突破し、甲子園を狙える位置までたどり着いた。
【投打の大黒柱・石飛太基】
2022年からチームを率いるのは、74歳の末次敬典監督だ。県内では最年長、九州でも興南(沖縄)の我喜屋優監督の75歳に次ぐ年齢で、まだまだ現場の最前線からナインを鼓舞する。
「自分が(スカウトで)獲ってきた代が今の3年生なので、何とか結果を出してやりたいとは思っていました。(創部5年目でのベスト8は)順調に来ていると思います。まだ歴史は浅いですが、先輩たちの取り組む姿勢がよく、それを引き継いでくれているので、今の成績は先輩たちのおかげだと思っています。選手たちにはいつも『謙虚に』ということを言っています。自分が下手だと思っていたら努力するじゃないですか。それを徹底しながら、ここまできたという感じです」
西日本短大付OBの末次監督は、母校のコーチ時代に新庄剛志(現・日本ハム監督)や、監督を務めた城北(熊本)で牧原大成(現・ソフトバンク)らを指導。その城北を春夏4度の甲子園に導くなど、経験豊富な名伯楽だ。
「新庄や牧原には、指導してから1週間で『プロに行けるから頑張りなさい』と声をかけました。それだけモノは違っていましたね。そんな選手は何年かにひとりしかいません」
|
|
今夏は、その2人に匹敵する素材を持つ左腕の石飛太基(いしとび・たいき)が大黒柱としてチームを引っ張る。7月20日、九産大九州との5回戦では、8回途中に左足がつり、マウンドで倒れ込む場面もあったが、その後も続投。9回二死で降板となったが、141球の熱投で8回2/3を8奪三振無失点、4番としても2安打を放つなど存在感を示した。
「9回に降板した時は悔しかったですけど、監督さんから『よく頑張ったぞ』とも言われましたし、自信を持ってあとに託しました。自分はスライダーが得意で、それを軸に直球を見せ球にする投手を目指しているので、70点ぐらいの投球はできたかなと思います」
全国に石飛の名が知れ渡ったのは、一昨年の2023年だ。学校創立100周年記念事業の一環として行なわれた横浜(神奈川)との招待試合に1年生ながら先発し、3対4と好試合を演出。緒方漣(現・國學院大/侍ジャパン大学日本代表)や、同学年で現主将の阿部葉太(3年)ら強打者を相手に臆することなく140キロ近い直球を投げ込み、10安打を浴びながらも9回を投げ抜いた左腕の噂は瞬く間に拡散された。
ただ、その後は腰椎分離症などケガに見舞われ、体に負担のかかりにくい投球スタイルに変更。130キロ台前半に抑えた直球を見せ球に、得意のスライダーを武器に要所で三振を狙いにいく。今年6月の練習試合では横浜と2年ぶりに再戦。試合には負けたが6回1失点と手応えをつかんで夏に臨んだ。
「最速は138キロですが、思い切り投げると力んでしまう癖があるので、抑えながらやっています。横浜とは2回とも負けているので、次は3度目の正直ということで、甲子園で当たったら勝ちたいなと思っています」
|
|
【グラウンドを拡張しブルペンも新設】
石飛は北九州市出身。中学時代は硬式クラブのダイナマイトボーイズで活躍し、甲子園常連校からも誘いがあったという。しかし、その素材に惚れ込んだ末次監督が何度もグラウンドに足を運ぶ姿に心が傾き、八女学院へと入学した。
八女学院はこの石飛らが3年生となる2025年に上位へと進出すべく、設備面の強化にも力を入れてきた。他クラブと共用のグラウンドは左翼、右翼ともに約10メートル拡張。昨年6月には、一度に6人が投げられる屋根付きのブルペンが新設されたことで、投手力の育成に力を入れられるようになった。石飛は「グラウンドも広げてもらったので、外野ノックが増え、実戦練習が増えました。バックが守ってくれて、本当にうれしかったです」とナインに感謝する。
ベスト8には3季連続甲子園出場を狙う西日本短大付、公立の福島、そして八女学院と、茶の産地で名高い八女市から3校が進出した。毎年、新チーム結成後に行なう八女地区リーグ戦や、筑後地区高等学校野球大会などでしのぎを削る近隣の高校同士が、福岡の頂点をかけ、準々決勝に臨む。石飛が続ける。
「切磋琢磨して八女の野球を活性化させたいというのはありますが、ほかの2校には負けられないという強い気持ちはあります」
末次監督は「西短効果だよ」と母校を持ち上げるが、新庄監督と同期だった西日本短大付の西村慎太郎監督も教え子とあって、決勝まで進めば師弟対決となる可能性がある。その前に、23日は2年ぶり夏の甲子園出場を狙う強豪の九州国際大付戦に臨む。
「意識しても勝てる相手ではないので、自分たちの力がどれだけ出せるか。3点以内の接戦になったらチャンスはあるかな」
|
|
石飛も自らを熱心に誘ってくれた末次監督に恩返しするべく、連投も辞さない構えだ。「自分は北九州市出身なので、地元のチームには負けられないかなと思っています」と、九州国際大付へのライバル心をあらわにする。
帽子のつばには、人気ロックバンド「ONE OK ROCK(ワンオクロック)」の『未完成交響曲』にちなみ、「未完成」の文字を記している。
「決勝まで行けば、『未』を消して『完成』と書こうかなと思っています」
未完成の左腕が完成へと近づいた時、八女から現れた新興勢力が福岡の歴史を変えるかもしれない。