電動キックボードといえば「LUUP」が代表的だが、最近ではシリコンバレー発の「Lime」も見かけるようになった。欧米を中心に展開し、2024年8月に日本へ上陸した。日本進出時点で世界280以上の都市に展開してしたが、国内ではLUUPが台頭しており、既に地方の大都市圏も押さえている。
【画像】「LUUP」は知ってるけど、「Lime」ってどんな乗り物を提供してる?(計2枚)
忌避感や安全性への懸念を訴える声も広がる昨今、LUUPとLimeの違いを明らかにしたうえで、電動キックボードの将来性を分析する。
●2024年にサービス開始したLime
Limeは2017年、自転車のシェアリングサービスを展開するLimeBikeとして創業した。米ノースカロライナ大学でサービスを開始し、シアトルなど米国の他都市にも進出。翌年に電動キックボードのレンタルサービスに転換し、海外にも進出した。
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現在では欧州や南米などにも拠点を構え、日本では2019年9月に福岡市で実証実験を行い、2024年8月から新宿・渋谷など都内6エリアでサービスを開始した。11月には国内2都市目として沖縄県那覇市に進出している。
車両は電動キックボード、電動シートボード、電動アシスト自転車の3種類がある。スマホアプリで車両を探し、車両のQRコードをスキャンしてロックを解除する仕組みだ。電動シートボードはキックボードの派生型で、座りながら乗れ、椅子の下には収納がある。
料金は最初の15分が90円、以降1分おきに20円を加算する設定で、20分乗ると190円となる。専用ポートであればどこでも返却可能だ。
電動キックボードは原動機付き自転車や普通自動二輪車として扱われ、運転免許が必要だったが、2023年に改正道交法が施行されて免許は不要となった。
最高時速20キロ以下など一定の基準を満たすものは「特定小型原動機付自転車」と定義され、16歳以上であれば誰でも運転できる。Limeのキックボードとシートボードはいずれも最高速度を20キロに設定してある。
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●迎え撃つLUUP
LUUPを手掛けるLuupは2018年創業で、国内の各都市圏に進出しており、拠点数はLimeを大きく上回る。
車両は電動キックボードと電動アシスト自転車の2種類。電動キックボードの最高速度は20キロで、Limeと同じく免許なしで乗れる。アプリを使って乗り、専用ポートで返却する仕組みも同じだ。
料金は基本料金50円に加え、東京・大阪では1分あたり20円、その他地域では15円加算される仕組みだ。以前はLimeが割高だったが、値下げにより逆転している。もっとも、Limeは普及を優先するべく、現段階では投資期間として採算性を度外視している可能性が高い。
LUUPやLimeのようなシェアリングサービスは、普及させたい企業と、空地を活用したいオーナーの意向が一致し、設置場所が増えている。
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ビルオーナーや土地所有者はポートを設置するだけでよく、電池交換などの作業は運営側が行う。LUUPの場合、10台前後の設置で数千円程度の収入が相場とみられる。額面の収入ではなく、LUUPの設置による集客効果を期待するアパート経営者や飲食店も多いのだろう。
●消費者の間では一定の忌避感も
Agooraが2024年に実施した調査結果によると、電動キックボードの将来的な利用意向がない人は6割強で、一定の拒否感があるのも事実だろう。特に危険性を懸念する意見が多い。危険性は単なるイメージではなく、実際に数値にも現れている。
警察庁によると、改正道交法が施行された2023年7月〜2024年6月の1年間で、特定小型原動機付自転車の検挙件数は約2万5000件、交通事故も200件超となった。2022年と比較すると、事故件数は5.3倍に膨らんでいる。検挙件数では通行区分違反が最も多く、次点が信号無視だ。移動手段というより、娯楽目的で使用する若年層も多く、利用者のマナーに問題があるようだ。
前述の法改正にはLuupやLimeが参画する業界団体「マイクロモビリティ推進協議会」が関わっており、ロビイングを通じて法改正に至ったと言われる。Luupは元警視総監を監査役に迎え入れたことや法改正の背景もあり、また無免許運転可能な点からも電動キックボードを批判する意見は多く、一部からの忌避感にもつながっている。
業界各社は新たなモビリティとしての普及を目指すが、日常的な交通手段として定着するかは不透明だ。
さまざまなアンケートで見られる電動キックボードの利用目的で最も多いのが散歩や観光などの娯楽的な手段である。移動手段として考えた場合、20分で200〜300円台であれば、電車やバスの方が遠くまで行けるため、交通網の発達した日本の大都市圏で優位性は低いのではないか。
また、カバンなどを持ちながら乗るのは危険であり、会社員や買い物客が利用する場面は想像しにくい。危険性を指摘されながらも娯楽客が多い、都内を走るインバウンド向けゴーカートのような存在に落ち着くのではないだろうか。
【お詫びと訂正:2025年7月23日午前5時の初出で、Luupの社名が間違っている箇所がありました。7月23日午前11時20分、該当箇所を修正いたしました。お詫びして訂正いたします。】
●著者プロフィール:山口伸
経済・テクノロジー・不動産分野のライター。企業分析や都市開発の記事を執筆する。取得した資格は簿記、ファイナンシャルプランナー。趣味は経済関係の本や決算書を読むこと。
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