
日本人メジャーリーガー後半戦の焦点【4】
巻き返し投手編(ダルビッシュ有・佐々木朗希・小笠原慎之介・前田健太)
ダルビッシュ有(サンディエゴ・パドレス)と佐々木朗希(ロサンゼルス・ドジャース)は、シーズン前半のほとんどを負傷者リストに入って過ごした。
右ひじを痛めたダルビッシュがメジャーリーグ13年目を迎えたのは、2週間前の7月7日だ。ダルビッシュが復帰してくるまでに、パドレスはレギュラーシーズン89試合を消化した。
一方、3月19日に行なわれた日本開幕シリーズ2試合目でメジャーデビューを果たした佐々木は、右肩のインピンジメントによって5月中旬に離脱。そして現在も復帰していない。
ダルビッシュの前半戦2登板と後半戦最初の登板は、3.2イニング2失点(自責点2)、4.2イニング4失点(自責点4)、5イニング3失点(自責点3)という成績。それぞれ63球、83球、69球を投げた。
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ここまでは「試運転」といったところだろうか。MLB解析システム「スタットキャスト」によると、この3登板で投げた球種は9つ。多彩な球種は過去2シーズンと比べても変わらず、シンカーとフォーシームの平均球速はどちらも94マイル台なので、クオリティも落ちていない。
開幕42試合で27勝15敗と好調だったパドレスは、そこからの58試合で28勝30敗と負け越し、ポストシーズン進出のボーダーライン上で前半戦を折り返した。ナ・リーグ西地区首位のロサンゼルス・ドジャースとは3.5ゲーム差の2位、ワイルドカードレースでは4位のサンフランシスコ・ジャイアンツ、シンシナティ・レッズ、セントルイス・カージナルスと3.5ゲーム差の3位(7月22日時点)。地区優勝以外でポストシーズンに進むのは、ワイルドカードレースの上位3チームだ。
シーズン後半戦、ダルビッシュの投球がパドレスの浮沈を左右する大きな要素であることは間違いない。肩を痛めた昨季13勝のマイケル・キングがローテーションに戻ってくるのは、順調にいっても8月なかばと予想される。月末のトレードデッドラインまでに先発投手を手に入れたいところだが、実現するかどうかはわからない。
パドレスの補強ポイントは、ローテーションにとどまらず、レフトを守る外野手と捕手も必要ではないだろうか。昨オフにジュリクソン・プロファー(現アトランタ・ブレーブス)とカイル・ヒガシオカ(現テキサス・レンジャーズ)が退団した両ポジションの穴は、いまだ埋まりきっていない。
【与四球率は先発投手でワースト】
健康を保つことができれば、8月16日に39歳となるダルビッシュの年齢は問題にならないはずだ。昨シーズンは16登板の81.2イニングで防御率3.31を記録している。また、ドジャースを相手に投げたポストシーズンの2登板は、7イニング1失点(自責点1)、6.2イニング2失点(自責点2)だった。
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ポストシーズンでパドレスとドジャースがぶつかった場合、日本ではダルビッシュと大谷翔平の投げ合いや、投打の対戦が話題になるだろう。個人的にはかつてチームメイトだったダルビッシュとクレイトン・カーショウ、ベテランのふたりによる技巧を凝らした投げ合いも見たい気がするのだが......。
ちなみにパドレスは、ワールドシリーズで優勝したことがない5チームのひとつだ。あとの4チームは、ミルウォーキー・ブルワーズ、シアトル・マリナーズ、コロラド・ロッキーズ、タンパベイ・レイズ。ダルビッシュは2017年の夏にレンジャーズからドジャースへ移籍し、その年のワールドシリーズに出場したが、ヒューストン・アストロズに敗れた。
一方、ドジャースは13年連続ポストシーズン進出と地区4連覇に向けて、後半戦の視界も良好だ。前半戦は97試合58勝39敗で、ナ・リーグ最高勝率.598を記録した。前半戦の勝率は過去2シーズンを上回っている。
その好調ドジャースにあって、ルーキーの佐々木が貢献したとは言いがたい。これまでの成績は8登板34.1イニングで防御率4.72だった。
また、ケガに見舞われただけでなく、マウンド上では制球難も露呈した。前半に30イニング以上の347人中、与四球率5.77は4番目に高く、先発投手ではワースト。奪三振も6.29と低く、347人中313位だ。
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佐々木は7月中旬からブルペンで投球を開始しており、順調にいけば8月が終わるまでに復帰できると思われる。もっとも、帰ってきて居場所があるのかどうかは不透明だ。復帰後の投球次第では、ポストシーズンのロースターに入れないこともあり得る。
【FAになるのは2030年のオフ】
山本由伸とタイラー・グラスノーとカーショウに加え、大谷が長いイニングを投げられるようになり、ブレイク・スネルが復帰すると、先発投手は5人揃う。ドジャースの場合、中4日で投げたことのない山本がいるため、ポストシーズンのローテーションを何人とするのかの見通しは立てにくいが、一般的には5人ではなく4人だ。
スネルは7月10日・15日にマイナーリーグでリハビリ登板を果たした。さらにはエメット・シーハンやダスティン・メイが戻り、離脱中のトニー・ゴンソリンも控えている。佐々木が制球難を解消できない場合、ロングリリーフとしても使いにくいだろう。
もっとも、重要なのは早く復帰することではなく、状態を万全とすることだろう。佐々木はまだ23歳だ。仮に復帰が来シーズンになっても、そこからキャリアを築いていく時間は十分にある。FAになるのは2030年のオフということを踏まえると、ドジャースも復帰を急がせることはないはずだ。
100マイルに達するフォーシームや、回転量が少なく落差の大きいスプリッターなど、佐々木の資質自体に疑問の余地はまったくない。「まだ磨かれきっていない原石」といったところだろうか。メジャーリーグ1年目だけで佐々木を評価するのは早すぎる。
一方、小笠原慎之介(ワシントン・ナショナルズ)と前田健太(シカゴ・カブス)はシーズン前半戦の多くをマイナーリーグで過ごした。
中日ドラゴンズからポスティングシステムを利用し、ナショナルズと2年350万ドルの契約を交わした小笠原は、7月6日に先発投手としてメジャーデビューを果たす。しかし、2登板目の翌日、スリーAに戻されることになった。
昨シーズンに続いてデトロイト・タイガースで開幕を迎えた前田は、5月初旬に40人ロースターから外されたあとに退団。同月中旬にマイナーリーグ契約でカブスに入団し、スリーAで投げている。
【再びメジャー昇格の可能性】
ナショナルズとカブスのチーム状況からすると、メジャー昇格の可能性は小笠原のほうが高いと思われる。大きく負け越しているナショナルズは、夏のトレード市場で売り手に回る。加えて、先発のマイケル・ソロカ、リリーフのカイル・フィネガンとアンドリュー・チェイフィンらは今オフにFAとなり、選手層が薄くなると予想されるからだ。
ただ、前田の場合もスリーAで復活の兆しを示せば、来シーズンにつながるのではないだろうか。登板機会を求めるなら、日本に戻ったほうが可能性は高そうではある。だが、個人的にはまだメジャーリーグで投げるところを見てみたい。
ちなみに、前田はメジャーリーグであと13.1イニングを投げれば通算1000イニング。一方、日本プロ野球の通算勝利は、あと3勝で100に達する。後半戦の動向に注目したい。