暑さがまとわりつくような日々。高温多湿で、家のあちこちにカビが発生しやすい時期が続いているが、カビが好む環境は、人の体のこんなところにもあるという――。
「耳の中にカビが発生する『外耳道真菌症』という疾患の患者さんが、この時期増えています」
こう話すのは、耳鼻咽喉科専門医でさいたま市のおくクリニック院長の奥雄介先生だ。
耳の穴にカビが生える! 症例写真を見せてもらったところ、黒色のカビや白くふわふわした“カビ”が耳穴を覆うように広がっていた。おぞましさすらおぼえるが、一体どんな疾患なのだろうか。
「耳の入口から鼓膜までの穴を、外耳道といいます。この外耳道にカビが繁殖し、炎症を起こしてしまっている状態が外耳道真菌症です。症状としては、かゆみや、耳が詰まったように感じる違和感などがあります。ひどくなれば痛みを伴うほか、『伝音難聴』といって、音が聞こえにくくなることもあるんです」(奥先生、以下同)
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ほかにも通常とは違う色の耳アカが出たり、不快な臭いがあるなども症状の一つだ。
一体どんなことをすればカビが生えるのか。気になるのは、その原因だが……。
「代表的な要因は、『耳掃除のしすぎ』です。耳の皮膚にはもともと自浄作用があって、特にお手入れしなくても、ある程度きれいにキープできるもの。しかし、耳かきや綿棒で耳の皮膚を触りすぎると、皮膚に傷がつき、そこからカビ(真菌)や細菌が侵入してしまうのです」
耳の手入れを心がけている人が多いためか、外耳道真菌症の患者の多くが女性だという。
ほかの要因としては、「イヤホン等を長時間着用すること」がある。カビ(真菌)が繁殖しやすい環境は、高い湿度に加えて35℃ほどの温度だ。7月に入り、連日、真夏日並みとなっているこの気温で長時間耳を塞げば、カビにとって、格好の環境を作り出すことになってしまう――。
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外耳道真菌症は、専門医のもとで適切な治療を受ければ、通常は「2週間程度でよくなる」という。しかし、厄介なのは「再発が多いこと」だと奥先生は続ける。
「治療中や治りかけの状況で、また外耳道を触ってしまったりすると、悪化して再発するというケースは少なくありません」
さらに、放置したり、再発を繰り返したりしていると、最悪のケースに発展してしまうことも。
「『鼓膜穿孔』という鼓膜に穴が開いてしまう症状や、『悪性外耳道炎』といって、耳の骨が溶けてしまう症状が出ることもありえます。特にご高齢の方や、特定の疾患の治療で免疫が低下している方などは、なりやすいといえます」
どちらの場合も、進行すれば手術が必要な状態となる。チェックリストにあるような習慣・症状がある場合は早めに耳鼻科を受診することだ。
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絶対にやめたほうがよいのは、“自己流”での対処だ。ときに、前述したかゆみや痛みなどの症状は、外耳道真菌症に限らず、広く外耳道炎全般で見られる。実際、外耳道炎の多くは「細菌性外耳道炎」であり、「外耳道真菌症」は全体の10%ほどというデータもある。どちらも同じ外耳炎だが、治療法は大きく異なるのだ。
■「ステロイド塗布」はむしろカビを増殖させる
「細菌性の外耳道炎は、いわゆる“抗生物質”を使って治します。いっぽう、外耳道真菌症には“抗真菌薬”を処方します。これらは似て非なるもので、抗生物質は、外耳道真菌症の真菌には効きません。つまり『外耳道炎っぽいから』といって、以前に処方してもらった使い残しの抗生物質などを使っても無意味。症状が進行してしまう可能性があります。また、かゆいからといって市販のステロイド薬などを塗った場合、かえってカビを増やして悪化させてしまう恐れもあります」
似たような炎症が起きていても、原因の特定はやはり専門医にしてもらうのが安全だ。
では、改めて外耳道真菌症や外耳炎を防ぐために意識したい対策はあるのだろうか。
「やはり、毎日綿棒を使う習慣は危ないので避けましょう。お風呂上がりでも綿棒は使わず、耳の外側をタオルでクリッとひと拭きするくらいで、お手入れとしては十分です。綿棒で掃除するくらいなら、外耳道(耳の穴)をゆるいシャワーで洗うほうが、よほどいいといえます。イヤホンのしすぎも、外耳道を高温、多湿の状態にしてしまいやすいので、こまめに外すなどを心がけてください」
対策は図表を参照してほしい。また、耳を触りたくなった場合については、「もしも耳がかゆいときは、綿棒や耳かきを使わず、耳の外から軽く押すように、指の腹でかきましょう」とのことだ。
奥先生が教える危険習慣は、さぞ“寝耳に水”だったのでは?
夏の湿気から耳を守るためにも、さっそく、あなたの習慣を見直してみよう。
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