Galaxy AIは7割が活用も、「Googleとの差別化」や「無料化の継続」が課題か 万博で語られた展望

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2025年07月23日 12:20  ITmedia Mobile

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Galaxy S25シリーズのユーザーの70%はAIを活用している

 7月18日、大阪・関西万博のテーマウィークスタジオで、韓国館とサムスン電子の共催によるAIについてのトークセッションが開催された。サムスン電子本社からソン・インガン常務(MX事業部技術戦略チーム長)が、Qualcomm Koreaからキム・サンピョ副社長が登壇し、両社の協業によるGalaxy AIの現状と今後の展望を語った。


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 万博という一般来場者も多く訪れる場で、「真のAIパートナーになるための人間中心AI」をテーマに、AIが日常生活にどう役立つかを分かりやすく説明する啓発的な内容となった。同社によると、Galaxy S25シリーズユーザーの70%以上がAI機能を積極的に活用しているという。


 講演後にはソン氏へのグループインタビューも実施され、より詳細な戦略について質疑を交わした。


●人気機能は編集と検索、日常生活を便利にする多彩な機能


 講演では、Galaxy AIの具体的な活用事例を多数紹介した。最も利用されているのは「AI編集機能」と「かこって検索」だ。AI編集機能では、写真から不要な被写体を自然に除去したり、服装やアクセサリーを変更したりできる。実演では、旅行写真に写り込んだ他の観光客を消去する様子を披露した。


 動画編集では「音声消しゴム」機能も紹介した。周囲の雑音を除去して必要な音声だけを残す機能で、SNS投稿やビジネスでの動画活用を身近にする。かこって検索は、画面上で気になるものを囲むだけで情報を検索できる直感的な機能。旅行先で見かけた鳥の名前を調べたり、外国語の案内板を翻訳したりと、実用性の高さを強調した。


 さらに、リアルタイム双方向通訳機能により、異なる言語を話す人同士でも自然な会話が可能になる。ボイスレコーダーの自動文字起こしと要約機能は、会議の議事録作成を大幅に効率化する。SNS投稿の文章作成支援では、キーワードを入力するだけで自然な文章を生成。これらの機能により、専門的なスキルがなくても高度な作業が可能になることを示した。


●Google Geminiとの差別化に苦心


 公演後のグループインタビューで、記者からGoogleのGeminiとの差別化について問われると、ソン氏は「GeminiはアプリだがGalaxyは統合している」と説明した。


 これは他社ユーザーがGeminiアプリを別途ダウンロードする必要があるのに対し、GalaxyではPixelと同様にシステムレベルで組み込まれていることを指す。Googleとの深い開発協力関係をアピールする狙いがあるが、裏を返せばGoogleのAI技術への依存度が高いということでもある。


 AIスマホ時代のインタフェースをGoogleに握られつつある中で、サイドキーの長押しという独自の起動方法を設けるなど、限られた範囲での差別化を図っているのが実情だ。


●オンデバイスとクラウドの方向性は「市場次第」


 講演では、人間中心のAIを実現するための重要な技術として「オンデバイスAI」と「マルチモーダルAI」が挙げられた。


 マルチモーダルAIについてソン氏は「視覚、聴覚、触覚など複数の感覚を通じて情報を理解し、人間のように自然なコミュニケーションを実現する」と説明。かこって検索(視覚+タッチ)、リアルタイム通訳(音声認識+翻訳)、カメラで見せて質問するGemini Liveなどは、このマルチモーダルAIの実例だという。


 AI処理の実行場所については、デバイス内で処理する「オンデバイスAI」と、クラウドサーバで処理する「クラウドAI」の2つの方式があると説明。オンデバイスAIは「ユーザーのデータを安全に保護できる」点を最大の利点として強調した。一方でクラウドAIは「より高度な処理が可能」とし、現在のGalaxyではこれらを組み合わせて提供している。


 キム副社長は、このオンデバイスAIとクラウドAIのトレードオフを技術面から解説。オンデバイスは高速な演算とプライバシー保護に優れる一方、モデルサイズに制約がある。対してクラウドは大規模モデルによる高精度な処理が可能だが、通信環境への依存とデータセンターの電力消費が課題となる。


 QualcommはAIに特化したNPU(ニューラル処理ユニット)を含むSnapdragonチップセットを提供しており、これがGalaxyのオンデバイスAI機能の基盤となっている。同社が2007年から開発してきたAI処理技術とサムスンのソフトウェア技術の融合により、AIモデルの軽量化も急速に進展。2023年3月の1750億パラメーターモデルが、2024年7月には80億パラメーターで同等の性能を実現。80億パラメーターなら現在のハイエンドスマートフォンでも動作可能で、オンデバイスAIの実用化が現実的になってきたという。


 しかし、グループインタビューでオンデバイスAIとクラウドAIの今後の割合について問われると、ソン氏は一転して「現時点で予測は難しい」と慎重な姿勢を見せた。


 この話は単なる技術論ではない。サムスンは「Galaxy AI機能は2025年末まで無料」と明記しており、その後については有料化を示唆する文言とも受け取れる。これについて過去の取材では「基本的なGalaxy AI機能の有料化計画はない」との回答を得ている。つまり、2026年以降も既存の基本機能は無料で提供され、新たなプレミアム機能が有料化される可能性が高い。


 ただし、ボイスレコーダーの文字起こしなどのクラウドAI機能は、サーバコストがサムスンの負担となっている。オンデバイスAIへの移行が進めば、この負担が軽減され、基本機能の無料提供を継続しやすくなる。それにもかかわらず、「それぞれにメリットがある。ユーザーに100%選択権を与える」という回答にとどまり、具体的な技術ロードマップは示されなかった。


●過去6カ月で利用者は2倍、でも3割は未使用


 講演で示されたサムスンの調査によると、Galaxy S25シリーズユーザーの70%以上がAI機能を活用しているという。過去6カ月でAIを頻繁に使うユーザー数は約2倍に増加し、急速な普及が進んでいることが明らかになった。


 利用者の内訳を見ると、回答者の50%以上が「生産性向上」を最重要機能として評価。具体的には、議事録の自動作成、翻訳機能、文章の要約などを業務効率化のために活用しているという。


 さらに40%のユーザーは「クリエイティブな活動」にAIを活用。写真編集の「消しゴム機能」で不要な被写体を除去したり、動画から雑音を取り除く「音声消しゴム」を使ったりと、専門的なスキルがなくても高度な編集作業を楽しんでいる。SNS投稿の文章作成支援も人気で、キーワードを入力するだけで自然な文章を生成してくれる機能は、若い世代を中心に支持を集めている。


 一方で、約30%のユーザーはまだAIを使っていない。この「AI未体験層」の存在は、サムスンにとって大きな課題だ。講演でソン氏は、彼らがAIに距離を置く理由を3つに分析した。


 第1が「実用性への疑問」。AIが本当に自分の役に立つのか、単なる技術デモンストレーションではないかという懸念だ。第2が「使いやすさへの不安」。複雑な設定や操作が必要ではないか、技術に詳しくない自分でも使いこなせるかという心配。第3が「安全性への懸念」。個人情報やプライベートなデータがAIに渡ることへの抵抗感だ。


 これらの懸念に対し、ソン氏は「AIを機能ではなく体験として提供する」というアプローチを強調した。例えば、サイドキーの長押しという簡単な操作でAIを起動できるようにしたり、音声で自然に対話できるインタフェースを開発したりと、技術的なハードルを下げる工夫を重ねている。また、オンデバイスAIの推進により、データがデバイスから出ないことをアピールし、プライバシーへの懸念にも応えようとしている。


 しかし、70%の利用率を誇る一方で、30%が未使用という現実は、AI普及の難しさを物語っている。2026年以降も基本機能は無料継続の見込みだが、新たなプレミアム機能については有料化の可能性もあり、この未体験層をどう取り込むかが課題となる。


●日本研究所の貢献「記憶にない」


 講演後のグループインタビューでは、日本での開催ということもあり、記者から日本市場に関する質問が出た。


 日本市場について「重要視している」と述べた一方で、サムスンリサーチジャパンで開発されGalaxyに搭載された機能について問われると、ソン氏は「記憶にない」と回答。同研究所では言語対応を中心とした研究開発を行っているとのことだが、グローバル展開における日本独自の貢献や、日本ユーザー向けの特別な機能開発については言及されなかった。「全世界でワンチームとして開発している」という説明にとどまった。


●ユーザーの生活に「静かに浸透する」AIを目指す


 両社が描く将来像について、ソン氏は「アンビエントAI」というコンセプトを提示した。これは、スマートフォンを中心にPC、ウェアラブルデバイス、IoT家電が有機的に連携し、ユーザーの生活に「静かに浸透する」AIを目指すものだ。


 具体的には、ユーザーが明示的に指示しなくても、AIが状況を理解して必要な情報や機能を提供する世界を想定している。例えば、朝起きたときにその日の予定と天気に基づいた服装の提案、移動中の交通情報の自動通知、会議前の関連資料の自動準備などを挙げた。「AIがユーザーに反応するレベルを超えて、ユーザーが反応しなくても実生活の中に溶け込む」というのがソン氏の展望だ。


 キム副社長も同様のビジョンを共有し、「スマートフォンは世界人口の71%が保有し、1日の使用時間は4.5時間に達する。この最も個人的なデバイスが、AI体験の中心的なハブとして機能し続ける」と強調。その上で、ウォッチ、リング、自動車、ロボットまで、あらゆるデバイスにAIが搭載され、統合的な体験を提供する未来を描いた。


 ただし、その実現時期や具体的な製品展開については言及がなかった。技術的なブレークスルーや新機能の予告はなく、現状の延長線上にある改善にとどまった印象だ。サムスンは確かにモバイルAIで先行しているが、GoogleやAppleとの競争が激化する中、AIインタフェースの主導権をプラットフォーマーに握られれば、スマホメーカーは「土管化」するリスクがある。70%という高い利用率に安住することなく、ハードウェアメーカーならではの真の独自性を示す必要があるだろう。



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