シャープに聞く3万円台エントリースマホ「AQUOS wish5」の謎 小型化なぜやめた? senseとのすみ分けは?

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2025年07月23日 16:10  ITmedia Mobile

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3万円台のエントリースマートフォン「AQUOS wish5」

 「AQUOS wish5」は、シャープがグローバル市場を意識したエントリースマートフォンだ。約6.6型HD+(720×1612ピクセル)の液晶ディスプレイや、振動で発動する防犯アラート機能など、幅広い世代に向けたモデルに仕上げた。価格は3万円台前半を実現している。


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 AQUOS wish5の大画面ディスプレイが動画視聴を快適にするのは間違いない。一方、初期のwishシリーズ(1〜3)に比べると小型ではなくなったのも事実だ。これは、特に子ども向けの防犯機能などを考慮すると、小型モデルの方が適しているのではないかという疑問を生じさせる。この点を含め、AQUOS wish5の企画開発に関わった下記2人に話を伺った。


・通信事業本部 パーソナル通信事業部 商品企画部 係長 今井啓介氏


・通信事業本部 パーソナル通信事業部 第一ソフト開発部 技師 岩井亜里砂氏


●AQUOS wish5の反響は? 大型化は継続するのか


―― 6月26日に発売されたばかりですが、反響や売れ行きを教えてください(※取材は7月上旬に実施)。


今井氏 発売直後ということもあり、数値的な結果はこれからだと考えています。SNSやWeb上での反響を確認する限りは、おおむね良好な評価をいただいており、売れ行きも期待できます。順調な滑り出しを切ることができたと思います。


―― 先代のAQUOS wish4から方向転換している印象を受けましたが、やはり海外展開が大きく影響していますか。


今井氏 海外では大画面が好まれる傾向にあるのは事実です。そのため、全く影響がないとはいえず、多少の影響はあります。一方で、AQUOS wish4からディスプレイを大型化し、これがお客さまに非常に好意的に受け止められたという実績があります。そこでAQUOS wish5でも、引き続き6.6型の大画面を維持すること決めました。


―― 動画のコンテンツがスマートフォンとともに普及していることも、ディスプレイの大型化の背景ですか。


今井氏 そうですね。メインのユースケースの1つとして動画視聴が確実に挙げられます。大画面の方が映像をより見やすいという利点は少なからず影響しています。そのため、今回のAQUOS wish5のターゲットであるファーストスマホユーザー、具体的には小中学生のお子様やご年配の方々、そして法人のお客さまにも、大画面のメリットを感じていただけるのではないかと考えています。


―― 一方で、小型ディスプレイを求めるニーズがあります。初期モデルのような小型路線はやめたのでしょうか。


今井氏 判断が難しい点であることは推察いただけると思いますが、将来的に小型化するかと問われれば、現時点では「No」と回答します。しかし、市場の声を参考にし、小型モデルが適切であると判断した場合には、その検討を進めます。引き続き、市場の動向を注視します。


●本体を振れば通報や位置情報の共有 防犯機能はなぜ搭載?


―― 防犯機能はどのような狙いで搭載したのでしょうか。


今井氏 まず、お子様に初めてスマートフォンを持たせる親御さんに安心感を提供することが狙いです。お子様が万が一の事態に遭遇した際にも、この機能があれば居場所を知らせることができるため、親御さんはより安心してデバイスを持たせることができます。


 次に、地震などの災害時に活用できる点も重要な狙いです。あってはならないことですが、もし災害に巻き込まれてしまった場合でも、スマートフォンを振るだけでアラートが作動するというシンプルな操作で、自分の居場所を大切な人に伝えることが可能です。このシンプルなトリガーによって、お子様だけでなく、幅広い世代のお客さまに緊急時の連絡手段として活用いただけることを目指して開発を進めました。


―― 誤操作はしませんか。


岩井氏 さまざまなユーザーさんが振って使う機能のため、開発の初期段階において誤動作の懸念点に着目しました。実際に社員の皆さんの協力を得て、持ち歩いて振動のパターンを解析しました。どのような場面において誤動作につながるのかを徹底的に洗い出すことから始めました。


 具体的には、ジャンプ、走り回る、自転車に乗るといったさまざまなユースケースで実際にデータを取得し、検証を行いました。これらの検証を重ねることで、「誤動作がない」と判断できるまで緻密なチューニングを施しています。


 アプリの設定項目も工夫しており、誤動作を気にする人のためにも、感度を低く設定できるようにしました。逆にしっかりと動作しなければいけない場面もありますので、このUIにより、お客さまご自身でアラートが作動する感度を調整したり、事前に機能を試したりできるようにしました。これにより、「どのようなときにアラートが作動するのか」を事前に把握いただけるため、ご自身の使い方に合わせて設定を調整し、安心して本機能をお使いいただけると思います。


●防水機能がIPX9にアップグレード より高い安心感を


―― 防水がIPX9に対応しましたが、80度の熱湯噴射を浴びるシーンはあまりないような気がします。どのような意図で対応したのでしょうか。


今井氏 wishシリーズは「つよかわ(タフなのにかわいらしさのある見た目)」というコンセプトで開発しています。このコンセプトのもと、特にタフネス性能においては、他社に引けを取らないという強い思いがありました。開発を進める中で、他社がIPX9等級(高温・高水圧への防水性能)を持つスマートフォンを投入している状況を認識しました。シャープとしても後れを取るわけにはいかないので、AQUOS wish5ではIPX9等級の取得を必須目標として開発を進めました。


 一方で、他社がIPX9に対応させているのは、エントリーモデルよりも上位の、どちらかといえばハイエンド寄りの機種が中心です。そのため、エントリークラスでIPX9等級に対応しているモデルはまだ少ないのが現状です。wish5が他社の同等端末に対して明確なアドバンテージとなっていると認識しています。


 IPX9等級の耐久性能は、80度の高温水流噴射にも耐えられるという非常に高い基準を満たしています。もちろん、日常生活で80度のお湯を直接スマートフォンにかけるような場面は珍しいでしょう。しかし、これは極めて過酷な環境下でも耐えうる堅牢性を持っていることを示すものです。


 例えば、ご家族でプールに行った際に、お子様がプールサイドで写真を撮りたいとスマートフォンを渡されても、水没を心配する必要はありません。シャワーがかかる程度であれば全く問題ありません。このように、IPX9対応は、日常生活で起こりうるさまざまなシーンにおいて、他社の端末では少し心配になるような場面でも「これなら大丈夫」と確信できるような安心感につなげられたらなという風に思っています。


―― タッチ時に誤動作をしないように工夫された点はありますか。


今井氏 この機能はAQUOS wish5に限らず、シャープのスマートフォン全般に共通している特徴です。ソフトウェア制御により、画面に水滴がついた状態でもタッチパネルの操作が可能です。弊社の全ラインアップでこの機能に対応しており、水辺などでの使用時にも安心して操作いただけるよう配慮しています。


●カラバリが豊富なAQUOS wish5、ランドセルの買い方に通じる面も


―― カラーバリエーションが豊富ですが、これも意図した展開でしょうか。


今井氏 今回のカラーバリエーションは、お客さまに楽しく選んでいただくことを念頭に置いて5色展開としています。


 特に、小中学生のお子様に初めてスマートフォンを持たせる親御さんを想定しています。例えば、親御さんが「このAQUOS wish5にしよう」と機種を決めたとしても、お子さん自身が選んだわけではないと感じてしまうこともあるでしょう。


 そこで、親御さんがwish5を選びつつも、「色は好きなものを選んでいいよ」というように、お子さんに選ぶ楽しさを提供できると考えています。これは、ランドセルの選び方に少し通ずるものがあります。親御さんがランドセルを買い与える際に、お子さんに色を選ばせるという傾向は、最近のランドセルの多様なカラー展開からも見て取れます。


―― カラー名を和名にした意図を教えてください。


今井氏 wish5のカラーバリエーション(ミソラ、ナデシコ、ワカバ、ユキ、スミ)の名称に和名を採用しました。これはグローバル展開も視野に入れた戦略の一環です。それぞれの色名から日本の伝統的な風景を連想していただき、それが購入のきっかけの1つになればと考えています。和名にすることで、お客さまにとって「これは何だろう?」「この色が気になるな」といった、少し記憶に残るフックとなればと考えます。


―― 電源キーが外側に出ている意図を教えてください。


今井氏 今回、電源キーの形状を、これまでのへこみ(ザグリ)があったデザインから、少し突出した形状に変更しました。この変更は、まさに「押しやすさ」を追求した結果です。技術チームと協議を行い、「押しやすいこの形状でいこう」という結論に至りました。


 実際に、発表会でもこの電源キーの押しやすさについて好意的なコメントをいただいており、これも改善して良かった点の1つだと感じています。


―― お子さんが使うことを考えると、持ちやすさは非常に重要ですよね。手になじむ質感もあらゆる方々に使ってほしいからこそ、こだわったポイントでしょうか。


今井氏 おっしゃる通り、wishシリーズでは持ちやすさを強く意識して開発しています。特に、その石こうのような手触りについては、SNSでも「質感がいい」といった好意的なコメントをいただいており、幅広い層の皆さんに「使いやすい」と感じていただける点だと考えています。


―― AQUOS R10にはイヤフォン端子はありませんが、AQUOS wish5には搭載されていますね。


今井氏 wishシリーズでは、ターゲットとなるお客さま層を考慮した結果、3.5mmイヤフォンジャックの搭載を継続するべきだという結論に至りました。


 一方、Rシリーズのお客さまは、デジタルリテラシーが高い方が多いと認識しています。そうしたお客さまは、コードレスの完全ワイヤレスイヤフォンをご利用になるケースが多いと思います。そのため、有線イヤフォンジャックがなくても、ご使用への影響は限定的であると判断しました。


●senseとのすみ分けは? wishはAndroidスマートフォンの入り口に


―― スペックや付加機能の向上が目を引きますが、AQUOS senseとはどうすみ分けを図っていくのかを教えてください。


今井氏 wishシリーズは、小中学生のファーストスマホユーザーの方々、ご年配の方々、そして法人のお客さまといった幅広い層のお客さまに手に取っていただくことを目指しています。シャープでは、このシリーズがAndroidスマートフォンの最初の入り口となるような存在であってほしいという強い思いを持って開発を進めてきました。そして、このシリーズは今後も継続していきたいと考えています。


 一方で、senseシリーズは、スマートフォンをより深く楽しみたい方や、活用に興味のあるお客さまに訴求していくモデルとして位置付けています。senseとwishのSoCに違いがあることや、インカメラの画素数が異なることなどの点でお客さまに魅力を感じていただけるよう、wishシリーズとのすみ分けを図っています。


―― 低価格で大丈夫なのか心配になりますが、これは部材調達のスケールメリットが大きかったのでしょうか。


今井氏 具体的な調達経路についてはお答えを控えさせていただきますが、弊社の調達面での工夫が貢献しているのは間違いありません。全ての部品を自社で調達しているわけではありませんが、そこはまさにシャープの調達力が発揮された部分だと自負しています。wishシリーズは販売台数が見込めるモデルですので、最適な部品を大量に仕入れるという点には特に力を入れました。


●AQUOS wish5はAI機能を搭載も、R10と違いアリ 伝え方に難しさも


―― AI 機能がどの程度搭載されているのかというのと、オンデバイス処理なのかクラウド処理なのかをお聞きしたいです。


今井氏 シャープのスマートフォンでは、AQUOS R9から「電話アシスタント」機能を搭載しており、一部機能をAQUOS wish5にも搭載しました。


 具体的には、機械音声のガイダンスによって、詐欺電話のような不審な電話を検知し、警告表示でお知らせします。この機能は、デバイス内部に保存されている「詐欺電話音声データベース」を参照することで実現しており、生成AIがリアルタイムで動作しているわけではありませんが、オンデバイスで処理を行います。


 一方で、AQUOS R10に搭載されている電話アシスタント機能は、AQUOS wish5の機能に加え、通話内容の文字起こし、通話内容の要約、そして通話内容のハイライト表示にも対応しています。


―― AQUOS R10に搭載されている留守録の用件の要約機能をAQUOS wish5に搭載できないのは、やはりプロセッサに依存している部分が大きいですか。


今井氏 そうです。AIをオンデバイスで動作させることは、このクラスのプロセッサでは現時点では難しいのが実情です。そのため、AI機能の本格的な搭載は、もう少し上位レンジの機種からとしています。


―― クラウドでカバーすることは考えていますか。


今井氏 現時点では、プライバシー保護の観点から、AI機能の処理をクラウドでカバーすることは考えていません。


―― 初めてスマートフォンを使う人、特にITリテラシーの低い方々に対して、AIを訴求することは難しいですか。


今井氏 他社さんが行っているようなセンセーショナルなアプローチとは異なり、私たちのAI機能の訴求は、一見すると派手さに欠けるかもしれません。しかし、シャープではお客さまの日常生活に自然に溶け込むというスタンスで、その価値を伝えていきたいです。お客さまが日々の生活の中で「こんなことができるんだ」と体験した際に、実はその裏でAIが動いている、という形で魅力を伝えるのが理想的だと考えています。


●取材を終えて:幅広い層にとって魅力的な一台に


 AQUOS wish5は、おおむね良好な評価がシャープに寄せられているとのことで、今後のシャープの売れ筋のエントリースマホになりそうだ。ディスプレイサイズは小型ではないものの、グローバル市場での販売を考えると、妥当な判断なのかもしれない。また、防犯機能は子どもだけでなく、行方不明になってしまう高齢者にも適しており、幅広い層にとって魅力的な一台となるだろう。



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