【Jリーグ】今季J2の魅力的なクラブをサッカーマニア平畠啓史が語る 「中盤の3枚がやばい」チームは?

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2025年07月23日 17:30  webスポルティーバ

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平畠啓史の2025シーズンJ2中間報告 後編

 日本屈指のサッカーマニアで「J2ウォッチャー」として知られる平畠啓史さんが、2025年J2のここまでとここからを語る。読んだら思わず見に行きたくなる、魅力的なクラブの存在を明かしてくれた。

>>前編「昇格したらすごいドラマになるクラブ」

【動画】平畠啓史のJ2前半戦総括・徳島ヴォルティス編↓↓↓

【戦略を想像する楽しみ】

 徳島ヴォルティスは23試合を戦って13失点。守備が堅いですよね。ただ、ガチガチに後ろに引いて、絶対失点しないぞ、みたいな感じではないんですよ。それなのに失点が少ないところに、徳島のすごさがあると思います。

 増田功作監督は大好きな監督のひとりで、横浜FCのコーチをされていた時からけっこうお話をさせていただいたりしていました。「相手に勝つために、どうやったらこっちが優位になるか」をすごく考えている監督さんだと思いますし、戦術よりも戦略のほうをすごく考えていて、1週間の練習のなかでしっかりとチームに落とし込んで戦っているのが、失点の少なさにもつながっているのかなとも思っています。

 例えば、左ワイドの高木友也選手のポジションをすごく高めに置いてみたり、2トップのように見えるけどルーカス・バルセロス選手が下がってきたり、杉本太郎選手が中盤だけどトップ下に見えたり。絶妙のずれ具合というか、きれいなシステムに並んでいない。あれはたぶん、相手のストロングやウィークを考えてやっていると思っていて、それを想像する面白さを与えてくれます。

 でも増田監督は、そういうインテリジェンスな部分だけじゃなくて、試合を見ていたらすごくパッションなんですよね。そこのバランスがすごくいい。勝った時のガッツポーズなんかは本当に喜んでいて、この人も戦ってるな、戦う姿勢がちゃんと選手に乗り移ってるなというところが好きですね。

 チームは中盤の3枚がやばいですね。鹿沼直生選手、児玉駿斗選手、杉本選手が組むことが多いですが、鹿沼選手はハードワークできてカバーするエリアの広さもすごいけど、攻撃でも前線に行ってゴールを決めたりできる。児玉選手はテクニシャンでドリブラーだと思っていたけど、守備意識の高さも半端なくて、プレスバックもすごい勢いで戻ってきます。杉本選手はもともと技術の高い選手でしたが、狭いところでボール持ってスルーパスを通したり、いぶし銀の仕事もできて本当にいい働きをしています。

 この3枚はJ2でもトップレベルの域に達していると思いますし、ここが健在であれば徳島の強さは保てると思います。失点の少なさという部分では、もちろんセンターバックの強さやGKのよさもあるけど、この中盤3枚の攻守に渡っての働きぶりが今シーズンの徳島の象徴的なところだと思います。

 もうちょっと点が取れるとぐっと上に行きそうな感じもしますし、増田監督も考えてらっしゃると思うけど、そこが増えていけば順位は自ずと上がって、自動昇格権にも十分入っていけると思います。

 ここまで手も足も出ませんでしたっていう負けゲームは、たぶんなかったんじゃないかなと思いますし、自信を失うような負けをしていないと思います。

 J2は3週間くらいのインターバルを挟んで8月に再開しますけど、徳島は再開初戦が愛媛FC相手の四国ダービー、次がアウェーのベガルタ仙台戦、さらに次がアウェーの千葉戦です。この3試合がすごく大事になると思っていますし、3連勝か2勝1敗くらいで行けたら、終盤に向けていい流れになるかなと思っています。

【怖がらずにつなぐ面白さ】

 サガン鳥栖は、今季は久々にJ2で戦うことになって、小菊昭雄さんが監督になり新しい鳥栖を作っていきましょうみたいな感じだと思います。非常に丁寧にボールをつないでいて、若い選手も多いけど怖がらずにちゃんとつなぐことをやっています。

 引っかかって相手の大きなチャンスになったり、失点につながったりすると、だんだん怖くなってつなげなくなることもあると思うんですけど、鳥栖の選手は怖がらずにしっかりとパスを入れていく。その経験値みたいなのがだんだん積み重なってるなという印象です。

 いまのJリーグは「強度だ!」みたいな雰囲気になっているじゃないですか。それも大事なんですけど、サッカーの面白さってそれだけじゃないし、フットボールなんだからフットでボールを運んでほしいんですよ。もちろん、強度があるところを剥がした時の面白さもあるんですけど、そっちに寄りすぎてないかなと。鳥栖はそこをちゃんと剥がしていこうという姿勢がすごくいいなと個人的には思っています。

 ワイドの選手がかなり高い位置取っていて、右には長澤シヴァタファリ選手、左には新井晴樹選手が入っています。どちらも去年は水戸ホーリーホックでプレーしていた選手ですが、特に左の新井選手の仕掛けが面白いです。

 もうキレキレで負けん気みたいなのもすごく出ていて、「行ってやんぞ」みたいな感じがすごい。新井選手までボールが行ったら周りも「おっしゃ、仕掛けんぞ」みたいな空気感になるのも面白いですし、トップやいろんなポジションで仕事ができるヴィキンタス・スリヴカ選手の存在も大きいなと思います。

 23試合で25点(リーグ14位)しか取れていないのは課題ですけど、試合の内容を見ていたら全然悪くないんですよ。相手を崩してちゃんとゴール前まで行けているので、あとは本当にゴールだけというか、最後の局面がうまくいけば、さらに上に行くんじゃないかなと思います。

 鳥栖は、若い選手が育成組織からどんどん上がってくるのが特徴ですけど、18歳の鈴木大馳選手や17歳の新川志音選手もけっこう面白い選手なので、夏場の早いうちにこの選手たちが連続ゴールなどで乗ってきたら、もっと面白くなっていくのかなと。

 GKの泉森涼太選手もすごくいい選手。「これはできます。これはちょっと苦手です」じゃなくて、トータルのプレーレベルが高い。現役時代に鳥栖でプレーしていたGKコーチの室拓哉さんに話を聞いたんですけど。「泉森は人間的にもすばらしい」とおっしゃってました。J2を見てない人、鳥栖を見てないという人も、GKの泉森選手には注目していただきたいですね。

【エンターテイメントを貫く】

 藤枝MYFCは現在13位で、得失点差もマイナスになっていますが、5月の後半くらいから面白くなってきたというか、エンターテイメント性が出てきています。右の川上エドオジョン智慧選手、左のシマブク・カズヨシ選手、このふたりの突破力がいいですね。ガンガン仕掛けていきますし、右サイドは3バックの久富良輔選手も前に出て、ここの崩しのところはすごく面白いです。

 シャドーの浅倉廉選手もキレが半端なくて、たぶんサッカーを初めて見た人でも「こいつすげえなって」感じると思います。ドリブルでもガンガン抜いていって、90分ずっとキレまくってるっていうか。別に怒ってるわけじゃないですよ(笑)。

 FWは千葉寛汰太選手が清水エスパルスに戻ってしまいましたが、松木駿之介選手がいる。シャドーの朝倉選手と中川風希選手と、この3人のトライアングルでボールが動いている時はエンターテイメントサッカーがずっと続いている感じです。もともと藤枝はそういうチームでしたが、2025年バージョンのエンターテイメント性が出てきたなと思っていますね。

 僕が藤枝を面白いなと感じるのは、そういうエンターテイメント性がぶわっと出まくる時があるからなんですよ。試合によっては全然出ない時もあるんですけど、それも人間っぽいなと。60%の時もあるけど120%の時もあるみたいなライブ感というか、「今日の藤枝はやばいな」みたいな時の面白さ、人間っぽさが僕はすごく好きですね。

 成績的にはこのあとどうなっていくかわかりませんが、見ていてハラハラドキドキするのは間違いない。今日はどんな藤枝が出てくるんだろうと思っていたら、前半と後半でもガラッと変わったりしますから。

 スタジアムに行く時って、そういうところを観に行ってるんじゃないかとも思うんですよね。綺麗な音を聞きたかったらCDを聞いたらいいわけで、ライブに行くのはその日にしかない曲だったり、ギターの弦が切れていたのを何とかしたとか、歌詞を間違えたけどパッションでなんとかしたとか、そういうのを聴きに行ってるわけじゃないですか。

 藤枝って本当に、その日にしかない藤枝が見られるんですよ。もちろん上位に行って昇格争いや優勝争いすることも大事だけど、お客さんにお金を払って見に来てもらう仕事だと考えたら、すごく大事なことをやってるんじゃないかなと思いますね。

 GKの北村海チディ選手は足元があって、ビルドアップに加わって前に出てくるから、たまにロングシュートをスコーンと入れられたりするんですけど、最初からそのリスクを承知でやっている。お客さんはお金を払って見に行くなかで、やっぱりプロの選手には目の前でリスク追ってほしいんじゃないかと思います。普段の生活でリスクは追えないですから。

 車を買いたいけど高いからやめておこう、仕事を変えたいけどいまの生活があるからやめておこうってなる人が、お金を払って試合を見に行く。それは、ピッチ上で選手たちが自分たちできないことをリスク取ってやっているところが見たいわけなんですよ。

 藤枝はまさしく、須藤大輔監督が言ってるとおりのエンターテイメントだなって。リスクと背中合わせだけど、それこそがエンターテイメントでしょっていう感じはしますね。

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