分断が広がるこの社会で、私たちは何ができるか。CINRA Inspiring Awards授賞式にて表現者が語ったこと

0

2025年07月23日 20:10  CINRA.NET

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

CINRA.NET

写真
Text by タケシタトモヒロ
Text by 今川彩香

これからの時代を照らす作品の創造性や芸術性を讃える「CINRA Inspiring Awards」。「ソーシャル×カルチャー」をコンセプトに掲げるウェブメディアCINRAを運営するCINRA, Inc.(以下CINRA)が今年はじめて開催したアワードだ。

ジャンルを問わず、2024年に発表された作品が対象となるアワードで、今回は各界を代表する9名の審査員によって受賞作品が選出された。今回は、7月15日に渋谷で開かれた授賞式をレポートする。

授賞式は東京・渋谷パルコで行われ、まずCINRA創業者の杉浦太一が挨拶。CINRA Inspiring Awardsを企画した意図について説明した。

杉浦はいまの情報環境について「白か黒、敵か味方かで考え、分断が進み、わかりやすい言葉ばかりが広がっている」としたうえで、「この傾向が拡大していくと、課題をみんなで共有し、時間をかけて解決しようという流れが生まれなくなるのではないか」と危機感をあらわにした。

杉浦太一

そのうえで、「芸術作品は歴史的にさまざまな役割を担ってきたものであり、現代の情報社会においても芸術作品のもたらすパワーは大きい。一方で、作家が時間と体力を使ってつくった作品が、数か月や数日のあいだだけ話題になり、その後は忘れ去られてしまう状況にも危機感を持っている」とした。そんななか「メディアに何ができるんだろう」と考えたことが、CINRA Inspiring Awardsの出発点になっていると話した。

CINRA Inspiring Awardsの審査員は、エリイ(芸術家)、金原ひとみ(作家)、コムアイ(アーティスト・歌手)、岨手由貴子(映画監督)、遠山正道(株式会社スマイルズ 代表)、穂村弘(歌人)、真鍋大度(アーティスト、プログラマ、コンポーザ)、山戸結希(映画監督)、林士平(漫画編集者)の9人。それぞれが2024年にインスパイアされた作品を選出した。

授賞式では、審査員の挨拶ののち、それぞれ審査員から受賞者へトロフィーを手渡した。

穂村弘(左)と椛沢知世

歌人の穂村弘は、椛沢知世の歌集『あおむけの踊り場であおむけ』を選出。

穂村は、CINRA Inspiring Awardsについて「これまで依頼された審査では、複数人が会議室に集まって、それなりに話をまとめて受賞作品を決めていました。だから今回、1人で選んでいい、ジャンルも自由ということで、とてもドキドキして、密室で1人、頑張って選びました」と微笑んだ。

「どんなジャンルでもいいと言われたけれど、漫画や映画はみんなほっといても見るだろうって。ちょっと短歌を読んでくれよ、って気持ちがどうしてもありまして、この機会にぜひご紹介させてください」と『あおむけの踊り場であおむけ』に掲載された短歌を数首、紹介。最後に紹介したのが、この一首だ。

歩道橋は夢だから夜に駆け上がる冷えピタみたいにキラキラしてる - 椛沢知世「特別な夜って、あると思うんですよね。世界が特別に輝いているように感じる夜。それは夢のなかかもしれないし、恋愛が始まった初日かもしれないし、夢がかなった日かもしれない。

不思議に思ったのは『冷えピタみたいにキラキラしてる』。冷えピタはひんやりとピタピタはしてるけど、キラキラしてないよなって思う。このひんやりとピタピタは触覚ですよね。五感でいう触る感覚、キラキラは視覚で、その五感のあいだのシャッターをとっちゃった感じですよね。

でも、実際僕らが見る夢って五感が一つに溶けて混ざってるような感じがするし、リアルの世界でも、さっき言ったように一生に何度かあるような特別な夜は、その五感が溶けて混ざってしまったような気持ちになるんですよね。それがこの『冷えピタみたいにキラキラしてる』という表現に出ているのかなと思いました。ぜひ読んでください」(穂村)

椛沢知世

穂村から紹介を受けて、椛沢がスピーチした。

切り株の上に木があるように抱く 望まなくても夕暮れる空 - 椛沢知世「歌集『あおむけの踊り場であおむけ』はこの一首から始まります。切り株の上には何もない、そのぽっかりと空いた空間に木があるように手を回す。もし一言で言うなら、喪失感と言えるのかもしれない。でも私は、そういう言葉を使いたくなかった。そこから抜け落ちることこそ見せたいと思う。そこから抜け落ちたものは、あるのにないみたいになるから」。

一方で、穂村が自身の作品を評した言葉などに触れながら「端的な言葉が人、場所、物をつなげる、私はそういう恩恵を受けているはずなのに、あんまり見ていなかったんだなっていうのも、今回すごく思いました」と語った。

それでも、「何かを当てはめる言葉とかを使わずに存在させたいということをすごく思っていて。自分の理解とか想像とか、自分だけでなく集団のそういうところが、本当に目の前の小さなことから社会的なことまであると思うんですけれど、『これ』って決めて自分を安心させたりとか、SNSのような即時的な反射的な反応で終わったりとか、これは複雑だし難しいからとか、投げ出さずに、あるいは『ある』にするばかりじゃなくって、『ない』ものはないままに、存在させたいなってことをすごく思っています」とした。

エリイ(左端)とヒロセガイら京島駅に参加しているメンバー

芸術家のエリイは、ヒロセガイ / 京島駅の『生まれる部屋』を選出。

「生まれる部屋」は、東京都墨田区京島の、元米屋を改修したアートスペースであり、共同体である「京島駅」にある。「京島駅」は、展示や居住、レストランといった複合的な機能を備え、アーティストのヒロセガイを中心に多様な人々が関わり合いながら、地域に根ざした「まちの駅」として機能している。

まず「Chim↑Pomを始めて今年8月で20年」と語ったエリイは、「始める前も後も、現代アートってずっと流行らないよなって、誰が見てんだろうってずっと思っていて。そんななかで曳舟に銭湯に入りにいったとき、ヒロセさんの京島駅に行かせていただいて。たとえば、お金持ちたちのあいだで変な壁画のアートみたいなのが流行ったりとか、『知ってるぜ』みたいな感じでいたりとかは見かけるけど、真の現代アートみたいなのが全然浸透しないなか、ずっと穴を掘ったり、壊したり、つくっている人がいるな、と思って」と『生まれる部屋』を選出した思いを話した。

ヒロセガイ

ヒロセガイは、京島駅が生まれたきっかけについてスピーチで語った。

「僕もちょうど、20年ほど前から東京でアーティストとして活動していて。生きていくためギャラリーやアーティストのサポートなどをしながら、そのギャラリーの屋上で生活するなど、普段から家というところで生活していなかったんです。

そんななかでコロナ禍、墨田区の立派な公民館を借りることになって。コロナで人が誰もいないなか、仲間のアーティストたちと一緒に縁側でお茶したり、ご飯を食べたりしていると、町の人たちから『コロナでみんなが集まったらいけないのに、こいつら何してるんやろ』みたいな感じで見られて。本来は普通だったその日常生活を、みなさんが特別な感じで見るっていう状況に、面白いことができそうだなと思って、5年ぐらい活動しています。

また5年前からは下町の芸術祭、『すみだ向島EXPO』をやっています。それとともに京島駅にもまたお越しください」(ヒロセガイ)

アーティスト、プログラマ、コンポーザの真鍋大度は、展覧会『ETERNAL Art Space Exhibition』を選出。

真鍋大度のビデオメッセージ

ビデオメッセージを寄せた真鍋は、『ETERNAL Art Space Exhibition』を選出した理由について、「僕自身、非常にインスピレーションを受けていることもありますし、僕は(展覧会を)海外で見ることができたのですが、それを日本で、素晴らしい環境で展示をしてくれて、感謝しています」と語った。

岩波秀一郎

受賞した展覧会を日本で開いたMUTEK Japan 代表の岩波秀一郎が登壇し、展覧会について紹介した。カナダ・モントリオールのフェスティバルを日本で展開している団体であるMUTEK Japan。フェスティバルは現在、世界8カ国で開催されているという。『ETERNAL Art Space Exhibition』で展示された3作品について「混沌とした時代のなかで、どうやって生きていくのか。紛争や戦争が大きな問題として取り上げられている時代で、どういった価値を生み出せるのか——それを疑問符として、展示を提案しました」と振り返った。

漫画編集者の林士平は、世良田波波の漫画作品『恋とか夢とかてんてんてん』を選出。

林士平

まず林は「ふだん、おすすめを聞かれると自分の担当作品をあげるのですが、今回は賞ということで、広い視点で、漫画業界で若い才能が注目を浴びたり伸びたりしたらいいなと思って選びました。選びたい作品はいっぱいありましたが、この時代にはこの人かな、みたいな視点でも選ばさせていただきました」と話した。

『恋とか夢とかてんてんてん』については、「僕は、痛さや苦しみが伝わってくる漫画作品がすごく好きで。この作品は、痛すぎて目を背けたくなる瞬間が山ほどあるんですけど、同時に愛おしさも感じられる。全速力で落とし穴に飛び込んでいくような主人公が、僕は大好きです」と語ったうえで、「だいたいの人の人生って結構、思い出すと恥ずかしいような瞬間だけでできていると思っていて。僕自身、いまここで喋ってることを、あとから『なんてつまらない表現をしてしまったんだろう』って後悔すると思うんですけど、みんなそうなのかな? って思えるような作品で、勇気をもらえるんです」とした。

関谷武裕(左)と林士平

世良田波波の代理として、漫画のWebサイト「SHURO(シュロ)」編集長の関谷武裕が登壇。関谷は世良田の手紙を代読した。

手紙にて世良田は、受賞に感謝の言葉を述べたのち「私にとって、人に認められることは、生きるための漫画を描き続けるための、すごく大切なエネルギーです。自分で自分のことを認めてあげるのが難しい人間にとってすごく大きな力になります」と語り、作品について、以下のように続けた。

「この漫画は自分には何もないと思ってしまっている成人女性の物語です。自分には何もないと思うから、何かにすがったり執着したり、人に認められることで存在価値を感じてしまう人の話です。1人の女性が自立し、自己肯定感をちゃんと持って、この社会で強く生きていく姿や作品に元気づけられることは、私にもたくさんあるんですが、だけど、そうなりたいけどなれない人の物語がきっと必要な人もいると信じて書きました。

自分で自分のことをうまく愛せなくても、もがきながら、泣きながら、生きている人ってすごく強くて美しくて、かわいいはずです。読者の方がこの漫画の主人公を自分と重ねたり、結果的に、この世界で生きている自分の生活や人生を愛おしく思ってもらえたら、とお願いしながら書いています」(世良田波波)

作家の金原ひとみは、スリーピースバンド、さよならポエジーのアルバム『SUNG LEGACY』を選出。

金原ひとみ(左)とオサキアユ

金原は「いま、いろんなものがファスト化していて、本も売れなくなり、音楽もキャッチーなところがバズる、というかたちでしか広まらないような業界になってきたのがちょっと寂しいな、と思っていたところに、じっくりと向き合える作品を出してくれるバンドが現れたなと思っています」とさよならポエジーについて語り、「音源もずっと聴いていたんですが、ライブを生で3回くらい見てはじめてズドンと沼に落ちたんですよね。はまりかたもゆっくりだったんですけど、ずっと聴き続けるんだろうなと思える作品です」とした。

金原ひとみ(左)とオサキアユ

登壇したのは、さよならポエジーのボーカル、オサキアユ。受賞スピーチはまず、「自分が音楽をつくったり、歌詞を書いたりすることを芸術だと思ったことは一度もないです」という語りから始まった。

「自分が音楽をするのは、音楽に出会って、もうそうするしかなかった、ただそれだけなんです。だから目的もマニフェストもないし、孤独とか、自分の『何か埋まらないな』みたいな空白を、バンドの3人で集まって燃やし続けてるだけには、なります。

芸術って、もっと素晴らしいものであるべきだと思うんですけど、でも今回選んでいただいて、壁だと思っていたものがもしかしたら、扉だったのかな……みたいな、そういう可能性を体験する1日になりました」(オサキアユ)

株式会社スマイルズ代表の遠山正道は、立石従寛のソロプロジェクト「.jvkn」の2ndシングル『集合論』を選出。

遠山正道(左)と立石従寛

CINRA Inspiring Awardsについて遠山は「これまでいろいろ審査してきましたけれど、1人で選ぶということで、いままでで一番悩んだかもしれない」と明かした。

選出した『集合論』については、まず「彼(立石従寛)は私の憧れなんですね。本当は.jvknというプロジェクトに賞を与えたかったんです」とし、「昔から立石従寛のことは知っていたのですが、はたから見ていると、.jvknという新しいプロジェクトは、『実験』ですよね」「これからは我々一人ひとりが何がしかの表現をしていかなければならない。アーティストはその先輩みたいなものですね。僕は、彼が.jvknという新しいプロジェクトを出発させたことに、非常に勇気づけられました」とした。

立石従寛

そのあと立石従寛は、『集合論』を制作していた当時を振り返りながら、作品について語った。

「10〜20年ほどがむしゃらに走ってみても、目指す自分にたどり着けないときが、たぶんみなさんにもあると思うんですが……。制作にはものすごい時間がかかるもんで、美術では頭でっかちな作品になりやすいし、音楽ではエモーショナルになりすぎやすいし、そういったバランスを取って、30回ぐらい違うアレンジでつくり直す、そういうつくり方をした曲でした。

歌ってる内容もいろいろあるんですが——普遍的な愛なんてね、あるんかないんか、ようわかりませんが、それよりも、大きな主語ではなくて小さな主語で見たときに……何ともないような無名の人生というか、そういったものを……何ともない、何でもないふりして、自分を受け入れてあげようっていうような曲です」(立石従寛)

映画監督の岨手由貴子は、五百旗頭幸男監督のドキュメンタリー映画『能登デモクラシー』を選出。

岨手由貴子(左)と五百旗頭幸男

審査に当たって「2024年から見てなかった映画を、いろんな人に電話して、おすすめ作品をかき集めて、全部見たんです。そのうえで映画的な技巧とかそういうことではなくて、インスパイアされるもの——この賞の条件に立ち返ったときに、これがベストだなって思うところを選出できました」と話した岨手。『能登デモクラシー』を選んだ理由について、こう語った。

「ここ近年、少し前だったら絶対に許されなかった、なぜまかり通っちゃうんだろうってことが、すごく増えたと思うんです。自分の賢さを証明するために、どんどん冷たくなっていって、どんどん人を切り捨てていく。優しさはいつから弱さだったんだろうって、すごく思うんですね。

私もフィクションの映画をつくっていますが、自分の企画を考えていても、ハッピーエンドが絵空事になっちゃうんじゃないかとか、自分がいま何をつくっていいのか、わからなくなってしまったんですね。そんなときに出会ったのがこの映画でした。

加えてこれは為政者の役割、有権者の役割、メディアの役割を深く問うている作品でもあるので、CINRAで選ぶ第1回の賞に、これほどふさわしい映画作品はないんじゃないかなと思い選出しました」(岨手由貴子)

五百旗頭幸男

五百旗頭幸男監督はスピーチで、「いろいろ大変な時代で、僕らはオールドメディアとひとくくりにされてメディア批判にさらされるなかで、市民の皆さんからの信頼がどんどん損なわれている。そのなかで、僕たちの役割……地域メディアだからこそできることや、失われかけている信頼をどう取り戻すか、ということを真剣に考えながらつくった作品です」と作品を紹介した。

「いまSNS空間やネットワークだけが強くなってきて、いかにバズらせるか、いかに拡散させるかが重視されていますが、この作品で手書き新聞を発行している男性(滝さん)がやっていることって、ネット空間にいる人からしたらすごく地味だし、ある種退屈な営みだと思うんです。それを、コツコツ、コツコツ、長年続けてこられて、それがあったからこその町民との深い、強い、温かい信頼関係が築かれていった。滝さんがされていることというのは、まさに僕らメディアにとっては、原点でもあるし、あらためて大事にしなければならない、そういうところを描いたつもりです。

人の人生や社会、何でもそうですけど、本当に何気ないささやかな出来事の積み重ねによって成り立っているはずなんです。しかし大胆な行動をする人だったり、強い言葉を書く人だったりが、いきなり世の中を劇的に変えてくれるんじゃないか、そんな幻想を抱いて、そこにすがってしまいがちなんですけど、地味で平凡で退屈なことを積み重ねてきた結果、本質的な変化が起こるんじゃないか。そんなことを、この映画は示すことができんじゃないかと思っています」(五百旗頭幸男)

アーティスト・歌手のコムアイは、空音央監督の映画作品『HAPPYEND』を選出。

コムアイ(左)と田尻恭子

コムアイは、『HAPPYEND』を選んだ理由について「いままでいろんな高校生活の映画を見てきたんですけど、共感できるものはこれだけだったかもしれないです。これを見てあまりリアリティがないって思う人もいると思うんですけど、私は政治運動や社会運動に青春をかけたタイプで、たぶん空監督も高校時代や大学時代、ちょっと珍しい体験をしてきた。その特殊な青春時代とか20代っていうのをリアリティがないからやめようっていうのではなくて、自分にしか描けない物語として、時間をかけてつくられた。今からどんどんどんどんちょっと恐ろしいことに何かこの映画で描かれたような社会になっていきそうだなっていうことを感じいていて。なので、今年この賞が始まるっていうのも含めて、『HAPPYEND』に受賞してもらえたらいいなと思いました」と語った。

田尻恭子

そののち、本作の配給を担当したビターズ・エンドの田尻恭子が空音央監督からのメッセージを代読した。以下に抜粋する。

「『HAPPYEND』をつくろうと思い立ったのは20代半ばの頃で、自分の幼少期から学生時代に感じ、思っていたことの総括として描き始めました。もう8年も前のことです。そのとき自分が一番気になっていたのは、関東大震災と朝鮮人虐殺の歴史についてでした。6000人以上の人が一般市民に残酷に虐殺され、そのなかには朝鮮人だけでなく、中国人、台湾人、標準語をうまく喋れない人、障害がある方、妊婦や胎児、そして治安を脅かすとされていた思想の持ち主も含まれていました。

なぜそのようなことが起こってしまったのか。やはり、調べていけば調べていくほど、日本の帝国時代に推進された植民地支配と、非人間化された人々に対する差別感情が根幹にありました。僕らはこの歴史を反省しているだろうか。反省していなければ、近い将来、同じように大きな地震が関東地域を襲ったとき、朝鮮人虐殺みたいなことが繰り返されてしまうのではないか。そんな危機をもって、近未来の日本を想像してみました。それを『HAPPYEND』というフィクションにしてみました。しかし、残念なことに僕らはまったくその歴史を反省していないという現実が、毎日突きつけられています。

僕らはこの100年間何をしてきたのでしょうか? なぜここまでの排外主義が横行する社会になってしまったのでしょうか? なぜここまで虐殺を黙認する社会になってしまったのでしょうか? それは僕ら自身が脱帝国化、脱植民地主義化できていないからでしょう。

被差別人を作り出し、アイヌモシリを植民地化し、シオニズムを真似て朝鮮半島や満州を植民地化し、関東大震災で朝鮮人を虐殺し、沖縄を捨て石にしたのち、アメリカと日本を二重に占領し、入管でウィシュマさんを殺した日本は、私達の中にも存在します。それらを自分たちの中からなくし、排外主義、差別主義の煽動と真っ向から戦わない限り、これらの暴力や虐殺はまた繰り返されるどころか、どんどんひどくなってしまうでしょう。

アーティストは社会を反映する鏡だといい、ピカソは絵画は部屋を飾るためのものではない、敵を攻撃し、防衛するための武器だ、とも言いました。私達の表現は何のためにあるのでしょうか? 僕自身が実は芸術作品にメッセージや社会を変えるなどの責任を背負わせたくない人なのですが、その代わり、一個人としてしなければならないことが問われている時代に突入したと感じています」(空音央)

映画監督の山戸結希は、国立西洋美術館の展覧会『ここは未来のアーティストたちが眠る部屋となりえてきたか? —— 国立西洋美術館65年目の自問|現代美術家たちへの問いかけ』で発表された弓指寛治の作品群『You are Precious to me』を選出。

山戸結希のビデオメッセージ

弓指寛治

山戸結希はビデオメッセージを寄せた。「メッセージ」というよりは、山戸が『ここは未来のアーティストたちが眠る部屋となりえてきたか?ー』や弓指の展覧会を訪れた映像や、山戸が弓指の作品について語る声によって構成された、ひとつの短編作品のような映像だった。

なぜ国立西洋美術館なのか、なぜ山谷なのか、なぜ彼だったのか、その必然性が強靭に重なり合って、作品のその先にいる観客にとっても、なぜあなたなのか、なぜ私なのかと、鏡に問いかけるようなかたちで、受け取り手のなかに必然性を見出してくれる力強さがありました。展示が終わったいまも、多くの人を揺さぶり続ける、素晴らしい作品でした。 - 山戸結希弓指寛治

そのあと、弓指が『You are Precious to me』制作のきっかけや経緯、エピソードを振り返りながらスピーチ。

「はじめから僕自身が、ホームレスの問題や、日本の貧困化とか、孤独死に関することを考えとったわけじゃないんですよ。それにもともと関心があったのは国立西洋美術館の新藤淳さんで、新藤さんから受けるかたちで、最初は何も知らないまま、人当たりにたどっていってはじめて、山谷に行ったんです」

「なにか社会問題があってというよりは、たまたま見させてもらった人たちがすごい人たちで、すごい経験や仕事をしとるのを見てもらえたらいいんじゃないのかと思ってつくった展示でした。なので、これが多くの人に見てもらえてうれしいし、これ(作品)をきっかけにそのホームレスの人たちとの距離感みたいなのも、西洋美術館のスタッフの方たちも変わったと聞いたので、それもうれしいです」(弓指寛治)

審査員と受賞者のスピーチのあとには、式典参加者も交えて歓談の時間が設けられ、各々が自由に語りあった。

授賞式の最後は、CINRA編集長の生田綾がスピーチをした。

生田は冒頭の杉浦の挨拶にも触れつつ、社会で広がる分断を感じているとしたうえで「メディアとしていま、どんな言葉を紡ぐべきかということを、日々考えながら運営しています。そのなかで思うのは、作品(文化芸術)には、言葉を超えて、人と人を想像力でつなげたり、結び付けたりする力があるということです」。

生田綾

さらに、「個人的には作品や表現者の方々に社会的な責任を課すのは違うとも思っていて、私のようなメディアに所属する人間や、CINRAようなメディアがしっかり頑張って担っていくところだなだとあらためて感じました」として、「表現者の方々と、作品に込められた思いをメディアとしてしっかり受け取って、世の中にしっかり伝えていきます。たまに厳しい目も向けていただきながら、今後もご期待いただければうれしいです」と締め括った。

    アクセス数ランキング

    一覧へ

    話題数ランキング

    一覧へ

    前日のランキングへ

    ニュース設定