「精進料理は縛りプレイの極意」 料理僧の青江覚峰さんが実感した精進料理の楽しさと奥深さ

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2025年07月23日 22:00  クックパッドニュース

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クックパッドのポッドキャスト番組「ぼくらはみんな食べている」。食や料理に熱い思いを持ち活躍するゲストを迎え、さまざまな話を語ります。クックパッド初代編集長の小竹貴子がパーソナリティを務めます。第36回目・37回目のゲストは、浄土真宗東本願寺派湯島山緑泉寺住職・料理僧の青江覚峰さんです。

家を継ぎたくない…そんな思いから渡米してMBAを取得

小竹:今回のゲストは、浅草にある浄土真宗・緑泉寺の住職で料理僧の青江覚峰さんです。早速ですが、自己紹介をお願いできますでしょうか。


青江さん(以下、敬称略):青江覚峰と申します。1977年、浅草生まれでございます。浅草の寺で生まれまして、お檀家さんから「あなたたちが大きくなったら、私のお葬式をちゃんとやってくださいね」などと言われて、嫌だなと思いながら育ってきました。そんなこともあり、日本を抜け出してアメリカに行き、MBAを取得して日本に戻り、料理を中心に仏教を伝える“料理僧”の活動を始めました。現在は緑泉寺の住職をしながら、株式会社なか道という会社も経営し、そこでは食の企画やイベント、セミナーなどを行っております。

小竹:MBA取得というのは、すごい経歴ですよね。

青江:それだけ日本にいたくなかったんです。割と本当に継ぎたくないというのがあって…。家で何らかの事業をやっている方の息子さんやお嬢さんは、継ぎたくない病みたいにかかるものなんです。

小竹:うちもお米屋さんなので、弟がそんな感じでした。

青江:継ぎたくない、嫌だ、決められたレールは歩きたくないみたいな気持ちが中二病と相まって、どうやったら継がなくていいのかと考えたところ、日本にいなければいいんだと思い、アメリカに行こうという流れになりました。

小竹:うんうん。

青江:当時は今と違って、海外といったらアメリカくらいしか情報がない時代だったんです。それでMBAを持っていれば仕事をするのにも困らなそうだと思い、アメリカに行ってMBAを取って、向こうで暮らしていこうとなりました。

小竹:どういったMBAを取得したのですか?

青江:専門としては、アントレプレナーシップという、いわゆる起業ですね。僕がいた町がマクドナルドのフランチャイズ1号店ができたところで、起業などに対してすごく思いの強い町であり、学校だったんです。

小竹:なるほど。

青江:あと、私は寺に生まれているので、サラリーマンというのがよくわかっていないんです。だから、どこかに出かけて、決まった時間をそこで過ごすということができそうにないというのもあったので、それなら起業をしようという思いでした。MBAで起業の専門をやったのですが、すごく面白かったですね。

小竹:じゃあ、行ってよかったのですね。

青江:よかったですね。あるゼミの先生のもとで1年間学んだのですが、「MBAは強い武器なので、君たちはいろいろなところで活躍するでしょう。でも、強い武器を持つことには責任が伴う。どこを向いて、どんなことをするか、それを一生忘れないように、僕はこれをみんなに送ります」と言って、最後にコンパスをくれたんです。

小竹:素敵ですね。

青江:みんな感動していたのですが、僕のコンパスを見たら赤い針が南を向いていたんです。みんなのは北を向いているのに僕だけ南を向いていて、もう迷っちゃっていた(笑)。「そういうこともある。これが学びというものだよ」と先生にも言われて(笑)。でも、そうやっていろいろなことを学ばせていただけて、MBAをやってよかったなと思いましたね。

小竹:そこで、もう一度家を継ぐという選択をしたのですか?

青江:それが2001年で、アメリカ同時多発テロが起きた時期なんです。僕は学生で起業をして、いろいろな事業を行っていたのですが、ああいった事件が起こると、すごくいろいろなことを考えるんです。ビジネスは軌道に乗っていたのですが、これでいいのかとすごく考えて。

小竹:はいはい。

青江:お医者さんや看護師さんや消防士さんが、命がけでたくさんの人たちを救助しているところをテレビで見たときに、自分がやるべきことはこれでいいのかと悶々と考えて、気分的にも鬱になったりして…。

小竹:結構落ちてしまったのですね。

青江:何もかも嫌でやりたくなくなって、一旦全てやめてリセットしようと思ったんです。会社を辞めて、日本に帰って来て、自分が食わず嫌いをしていたお寺とか仏教とか、もっと言えば日本の文化や伝統とは何だろうということを学ぶタイミングなのかなと思って、修行に入ったんです。

小竹:それはいくつのときですか?

青江:26〜27歳くらいだったと思います。そこでいろいろなころを勉強してみたら、仏教というものがすごく面白かったんです。

小竹:それまでは勉強することがなかった?

青江:なかったですね。やってみて面白いと感じたので、これをもっともっといろいろな人に知ってもらいたいと思って、インターネット上に寺院を作りました。

小竹:インターネット上に?

青江:インターネット寺院・彼岸寺というものを作りました。当時はまだブログという言葉が一般的ではない頃です。ホリエモンさんが社長ブログというものを始めた時代で、まだオンザエッジという会社だった。

小竹:2002年くらいですかね。

青江:ブログというシステムが今後広がりつつあるかもみたいな頃で、インターネット寺院・彼岸寺では、宗派を超えていろいろなお坊さんが集まって、掛け算をするコラムを書いていたんです。例えば、ITに強いお坊さんがIT×仏教、妖怪に強いお坊さんが妖怪×仏教、僕は食×仏教という記事を書いていて、それが“料理僧”というものをやっていこうと思い始めたきっかけでした。

精進料理は究極の“縛りプレイ”

小竹:料理はもともと好きだったのですか?

青江:好きでした。小さい頃は田舎の寺に住んでいて、秋は栗がいっぱいとれたのですが、親に「イガイガは取っておいてあげたから、包丁で皮を割って中を取ってね」と言われて、よっぽどそっちのほうが難しいんですよ(笑)。だから、栗を割って栗ご飯や渋皮煮を作ったというのが最初の記憶ですね。

小竹:親に反抗をせず、料理は受け入れていたのですね。

青江:料理は受け入れていました。大好きでした。アメリカにいたときも毎日料理をしていました。アメリカでは毎日料理をしないと、学食にはピザとハンバーガーとサンドイッチのルーティンしかないんです。最初の1週間は楽しかったですけどね。

小竹:1週間を過ぎてからはずっと作っていたのですね。

青江:そうですね。そうこうしているうちに、アジア系の留学生が中心になって料理サークルを作ったんです。フレズノという町だったので、「フレズノカリナリークラブ(fcc)」というものを作って活動していました。

小竹:料理が詳しいから、仏教を学ぶ上でも食の部分の学びを中心に深めていった感じですか?

青江:どちらも本質的には同じところに行きつくかなと思っています。食事も突き詰めていけば、どう食べるか、どう生きるかになるわけです。どのようなものを食べて自分の力として生きていくかになるし、仏教も同じことになっていくので、そういった意味では根本的なところは近しいものがあると思っています。

小竹:青江さんにとって、精進料理とは何ですか?

青江:表向きは、お坊さんとして大切にするべき食の作法だと思います。リアルに言うと、最高のおもちゃです。例えば、YouTubeでゲーム実況というのがありますよね。普通のゲームよりも縛りプレイのほうが面白い。レベルを上げないでやるとか、アイテムを取らないでやるとか、一見できなさそうなことを知恵を振り絞りながらクリアしていくのが楽しいんです。精進料理は縛りプレイの極意なんです。

小竹:制限が多いですもんね。

青江:そうです。肉は使ません。魚は使えません。野菜もたまねぎや長ねぎやにんにくは使えない。どうやって出汁を取るのですかという話になりますよね。でも、その中で知恵を絞っておいしいものを作っていくというのは、究極の縛りプレイだと思いますね。

小竹:制限を楽しむという視点を持つと、精進料理もすごくポジティブに捉えることができますよね。

青江:おっしゃる通りだと思います。

出された場合は肉でも魚でも何でも食べます!

小竹:今日は精進料理を1品作っていただけるそうですが、何を作っていただけるのでしょうか?

青江:「ひりょうず」というお豆腐を揚げたものです。関東で言うとがんもどきです。それをとうもろこしのすり流しと一緒に召し上がっていただきます。

小竹:ひりょうずは「飛竜頭」と書きますが、これには何か意味があるのでしょうか?

青江:諸説あるのですが、僕が好きな説は、ポルトガル料理でフィロースというものがあるんです。ドーナツみたいな小麦粉を丸めて揚げたものなのですが、これが日本に来たときに訛って「ひりょうず」とか「ひりゅうず」になったと言われています。僕は「ひりゅうず」という響きが好きなのですが、フライングドラゴンズヘッドってかっこいいじゃないですか(笑)。

小竹:さすがMBA!英語ですね(笑)。では、今日使う材料を教えてください。

青江:まずは豆腐。今日は水切りをして、少し水分を少なくしてあります。あとは長芋。山芋とかつくね芋とかでも結構です。野菜は、椎茸、人参、セロリなどを今日は使いますが、普段使っている料理の中で余った端材や皮などでも結構です。

小竹:この前、昆布を入れたらおいしかったです。

青江:いいですね。干し椎茸を刻んだものや、大豆で出汁を取った後に大豆を刻んで入れることもあります。今日はとうもろこしのすり流しを先に作っておいたのですが、皮やひげなどのとうもろこしの繊維があるので、これも捨てずに後で入れていきます。


とうもろこしのすり流しと一緒にゆでたひげ。捨てずに料理に加えていく。

小竹:もったいない精神ですね。

青江:あとは、お味噌とお砂糖、お塩ですね。この辺で味をつけて、おそらく豆腐の水分が残っているので、薄力粉で水分をまとめていこうと思っています。

小竹:それでは早速始めていきたいと思います。

青江:まずはお豆腐をボールの中に入れます。ある程度潰れたら、ここに長芋をすっていきます。

小竹:精進料理はどこで習ったのですか?

青江:精進料理というより、和食をうちの師匠に習っていたんです。うちの師匠が和の料理人で、湯島でお店をやっていたので、そこでお世話になって習いました。そしたら、和食を教えてほしいというお坊さんがやってきて、その彼が永平寺でずっと料理を担当していた人だったんです。なので、僕が和食を教えて、僕は彼に永平寺の精進料理を教えてもらうみたいなことをした辺りからですね。

小竹:去年の出版イベントで、「お肉とかお魚は本当に食べではいけないのですか?」とお客さんに質問されたときの青江さんの回答がすごく面白かったんです。

青江:「基本的に家では精進料理を作るのでお肉やお魚は食べないのですが、出された場合はなんでも食べます」という答えですよね。だから、今日もこの収録時にお昼ごはんにビッグマックを持って来られたら、いただきますと言って食べます(笑)。

小竹:食べる行為自体が仏の道で、何を食べないとか、そういうことではないというお話をされていたのを覚えています。

青江:そうですね。お釈迦様が最後に召し上がったのは、スーカラ・マッダヴァという料理だと言われています。スーカラは豚肉で、マッダヴァは柔らかいという意味なので、ラフテーとか角煮とか、トンポーローみたいなものに近いのかなと想像しています。

小竹:そうなのですね。

青江:お釈迦様は、肉を食べてはいけないとは一言も言っていないんです。出されたものは何でもいただく。ただ、自分のために奪われた命であることを見たり聞いたり、その恐れがあったりするものは一切食べなかったんです。余ったものとしてたまたま自分のところに回ってきたお肉とかお魚であればいただいていたということです。

精進料理が「肉や魚を食べなくなった」理由とは?

小竹:料理のほうですが、刻んだ野菜と味噌を入れました。

青江:お砂糖も加えます。飛竜頭自体の味がおいしいように作っておいて、とうもろこしのすり流しは薄味に仕立てるというのが緑泉寺流です。このままだと油の中に入れたときに破裂しちゃうので、薄力粉を大さ2杯くらい入れます。これで生地が仕上がりましたので、揚げていきたいと思います。


小竹:お釈迦様は豚肉を食べていたということですが、精進料理が肉や魚を食べなくなったのはどこからなのでしょうか?

青江:これは僕の想像になるのですが、仏教がインドから中国に行ったときにいろいろと変わったと思うんです。というのは、インドはすごく豊かなんです。暖かいところなので、冬でも「お腹が空いたので何かください」と言ったら、その辺からマンゴーとかバナナとかをもいでくれる。だから、お坊さんは働かないし、物を所持しないけど、その代わり、お坊さんがお腹が空いたと言ったら、周りの人は食べ物をあげないといけないという文化があったんです。

小竹:はいはい。

青江:ところが、中国や日本には冬がある。お腹が空いたと言っても、うちも食べるものがないとなってしまうわけです。そうすると、仏教は冬を越せなくなってしまう。そのときに、もともとあった、働いてはいけないとか所持をしてはいけないといった戒律を捨てざるを得なかったのではないかなと思うんです。その代わりに新たに作ったのが、肉や魚を食べないという戒律なのではないかと想像しています。

小竹:あるものを上手に使うという料理をするのもそこから始まった?

青江:ですかね。だから、お坊さんの名前が付いた料理がたくさんあるんです。たくあんとかいんげん豆とか。ぜんざいという言葉も、一休さんが食べたときに「良きかな」と言ったんです。ぜんざいの「善」は良いという意味で、「哉」はかなと読むので、良きかなで善哉なのです。

小竹:「良きかな」からきていたのですね。

青江:この辺りは、お坊さんが働いてはいけないとか所持をしてはいけないという戒律があったら出てこなかった発想だと思うんです。ところが、冬を越えるためにそういった戒律を捨て、その代わりに肉、魚をやめたという中国から日本に来た変化した仏教の考え方によって、また新しいものが生まれてきたのではないかと思います。

小竹:ネギとか生姜とかを食べてはいけないというのはどういうところから?

青江:これはインド由来ではないかと思っています。インドの古いものをいろいろと見てみると、ネギやニラ、ニンニクなどを食べないというのが出てくるんです。ただ、その理由に関しては、あまり書かれていない。

小竹:精がつくからあまり食べではいけないと聞いたことがあるのですが…。

青江:それは諸説あるのですが、1つには体臭が臭くなるからと言われています。お坊さんは集団生活をするので、隣で寝ていて「すごくニンニク臭いな」となったら萎えてしまうじゃないですか(笑)。臭いがつくというのは、実は文献にも載っています。

小竹:そうなんですね。

青江:あとは、これは文献には載っていないのですが、精がつくからだという方も結構いらっしゃいます。ただ、原則なので、具合悪くなったときなどには、ネギなどを薬として食べていいとは、昔のお寺でも今のお寺でも言われています。

小竹:では、料理の続きをお願いします。

青江:これを揚げていきます。油が温まったら、先ほど作った飛竜頭の種を丸めて入れていきます。

小竹:手にくっついてしまうのですが、水をつければいいですよね。

青江:そうですね。水をつけてやっていくと、きれいにまとまっていきます。大体お椀の2〜3回りくらい小さくして、丸く成形したら入れていきます。豆腐を揚げるときに気をつけてほしいのが、あまり触るとすぐ破裂してしまうので、しばらくほったらかしにしておいてください。

小竹:青江さんは、普段お子さんのお弁当も作っているのですよね?

青江:はい、3人分作っています。今7年目ですね。

小竹:精進弁当ではないですよね?

青江:精進弁当にいつも1つ2つお肉とかお魚を入れています。子どもたちの成長を妨げないように、例えばお魚だったら、幽庵焼きか西京焼きをつけているので、それを朝焼いて、お弁当の中にポンと入れると1品になりますよね。飛竜頭を入れるときは、お弁当用にわざと一回り二回り小さく作っておきます。

小竹:料理ですが、きつね色になってきましたね。

青江:1分から2分であげていただければ大丈夫です。


小竹:次はとうもろこしのすり流しですが、これはとうもろこし以外の食材でもできますよね?

青江:冬はさつまいもとかもいいですね。この間までは、新じゃがいもと春キャベツのすり流しを作っていましたね。秋はカボチャで作ったりもします。

小竹:温まってきましたね。

青江:温まったら、まずお椀にお汁を張ります。で、真ん中に飛竜頭を入れます。浮島のように見えますよね。あとは、余すところなく使うとうもろこしのひげとミキサーにかけなかった分を入れます。これで、とうもろこしのすり流し飛竜頭椀の完成です!

小竹:おいしそうですね!早速いただきたいと思います。見た目が美しいですね。お汁はやさしい味で最高です。飛竜頭は柔らかくて表面はパリッとしていて、すごくおいしいです。


青江:よかったです。結構油も入っているから、しっかりとお腹にも溜まりますしね。

小竹:なおかつおしゃれ!

青江:とうもろこしのひげの部分も含めて、余すところなく全ていただくことができるので最高ですよね。

(TEXT:山田周平)

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【ゲスト】

第36回・第37回(7月4日・11日配信) 青江覚峰さん


浄土真宗東本願寺派湯島山緑泉寺住職・株式会社なか道代表取締役・料理僧/1977年生まれ、東京都出身。米国カリフォルニア州立大学フレズノ校にてMBA取得。料理僧として料理、食育に取り組む。日本初・お寺発のブラインドレストラン「暗闇ごはん」主宰。超宗派の僧侶によるウェブサイト「彼岸寺」創設メンバー。著書に『お寺ごはん』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『ほとけごはん』(中公新書ラクレ)など。海外での精進料理公演などの実績も多い。『世界一受けたい授業』をはじめ、テレビ・ラジオ、Webなどメディア出演多数。2023年5月に開催されたG7広島サミットにおいて精進料理のプレゼンテーションを行う。

HP: 緑泉寺
Instagram: @kakuhoaoe_nakamichi0316

【パーソナリティ】 

クックパッド株式会社 小竹 貴子


クックパッド社員/初代編集長/料理愛好家。 趣味は料理🍳仕事も料理。著書『ちょっとの丸暗記で外食レベルのごはんになる』『時間があっても、ごはん作りはしんどい』(日経BP社)など。

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