中国で「小型ハイエンドスマホ」が人気の理由、火付け役はあのメーカー 日本で新たな選択肢になるか

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2025年07月24日 06:11  ITmedia Mobile

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Xiaomiの小型ハイエンド「Xiaomi 15」は日本のXiaomi Storeでも注目を集めていた

 2025年に入り、中国メーカーから6.3型前後の画面サイズを持つ高性能なスマートフォンが続々と登場している。長らく大画面でコンテンツの視聴に優れる機種が主流だった中国でも、少しずつ変化が起こっているようだ。今回は中国市場で存在感を見せる「コンパクトハイエンドスマホ」についてチェックしていこう。


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●理想のサイズは6〜6.5型 きっかけは中国でヒットしたXiaomi 14


 そもそも海外では、コンパクト(小型)とは、どれほどのサイズを指すのか。国や地域によってばらつきがあるものの、今回参照した中国でのアンケート調査では、6.1型前後の画面サイズを求める声が多い。


 調査では6.1型と回答した人が26%と最も多く、次いで6型以下、6.5型と続く。理想的な画面サイズでは「6.5型以下」のサイズを求める声が半数以上を占めるなど、6.5型を超える大画面が主流だった中国市場にも変化が見られる。


 また、表題の調査では画面サイズを指標としつつも、ソニーのXperiaのような21:9比率の機種は画面サイズが大きくても横幅を抑えられることから、調査では名指しで例外とされている。


 理想的なスマートフォンのサイズに6.5型以下を選ぶ理由として、バーコード決済を含む電子決済の普及、動画視聴スタイルが縦向きのものが増えたことが考えられる。


 中国は日本以上にスマホ決済が普及している地域だ。決済時はスマートフォンを用いてWeChat Payやアリペイといった手段で電子決済を行う場面が日常的に見られる。日常的にスマートフォンを持ってQRコードをかざしたり、カメラを使って読み取ったりする動作が必要になる。


 動画視聴では縦動画のコンテンツも多く、インフルエンサーによるライブ配信、ライブコマース実演販売も盛んだ。これらのコンテンツを日常的に視聴するとなれば、しっかり握れる手ごろなサイズ感が求められる。


 小型スマホの分野で口火を切ったのは、日本でも存在感を示すXiaomiだ。2021年末に発売された「Xiaomi 12」は6.28型の画面を備え、前作とは全く異なる路線に足を踏み入れた。これは中国国内の需要を拾うよりも、XiaomiのスマートフォンがiPhoneやGalaxyと並ぶラインアップをそろえ、グローバル展開を本格化するための製品だった。


 Xiaomiが中国で「コンパクトなハイエンドスマホ」という認識を高めた機種は、2023年の発売から2カ月で100万台以上を売り上げたヒット作「Xiaomi 14」シリーズだ。価格が安かったこともあり、上位のProよりもコンパクトな「無印」が飛ぶように売れた。


 ライカコラボの高いカメラ性能、小型でも大容量のバッテリーで電池持ちがよく、手ごろなサイズながらSnapdragon 8 Gen 3を世界初採用。このハイエンドスマホが市場で注目されたこともあり、以降、中国メーカー各社が続くことになる。


 日本ではどうだろうか。2020年にMMD研究所が行った調査では、片手に収まるサイズ感の機種を求める声が3割を占めている。片手に収まるサイズ感は明確に定義されていないものの、一般的に幅71mm(iPhone 16など)前後が多い。一方でソニーのXperia 10や5シリーズは幅60mm台のため、コンパクトで持ちやすい機種は幅70mm以下という認識も根強い。


 中国で小型とされるXiaomi 14は幅が71.5mmなので、これを小型と呼んでいいかは賛否が分かれる。中国市場の小型スマホが、日本では小型とはいえないケースは多そうだ。


●求められる小型スマホ 背景にはバッテリーの高密度化も


 Xiaomi 14の成功で、市場が求めるコンパクトなハイエンドスマホの姿が見えてきた。その要素は「上位機種譲りの高いカメラ性能」「小さくても妥協のないパフォーマンス」「大容量バッテリー」の3つだと考える。


 動画視聴やSNSへの動画アップロードでは、高速なエンコード(動画の書き出し)が求められる。もちろん、動画の再生可能時間は長い方がいい。これには、従来よりも大容量のバッテリーを採用する必要がある。


 結果として、電池持ちがよくて「持ちやすい」「手になじむ」端末を求める人が多い。中国ではただ小さいだけのスマホではなく、小さくても高性能かつ大容量バッテリーを備えるハイエンド機が支持されているのだ。


 このカギを握るのがバッテリーの高密度化だ。高密度(=エネルギー保存密度が高い)バッテリーを採用すれば、同じ容量でもバッテリーの小型化や軽量化が可能となる。小さいために容積を稼げない小型スマホにとって、まさに渡りに船の技術といえる。


 現在の最新スマホには「シリコンカーボンバッテリー」と呼ばれる、負極にシリコンを含有させた高密度バッテリーが採用されている。これは、シリコンが現在主流のカーボン(炭素)に対し、重量あたり11倍も多くのエネルギーを保持できることに着目したものだ。


 カーボンにシリコンを安全な範囲でうまく配合することで、従来よりもバッテリーの高密度化、すなわち大容量化が可能になった。メーカーによっては電解液をゲル状にした「半固体電池」を採用するなど、安全性にも配慮したバッテリーを採用している。


 バッテリーの高密度化は端末の設計自由度を高めた。従来よりもバッテリーを小型化できれば、その空いたスペースに高性能なカメラ部品を搭載したり、より大型の冷却機構を採用したりできる。


 カメラ部品の観点では、大型のイメージセンサーやペリスコープ方式の望遠カメラを採用できる。大型の冷却機構は、長時間のゲームプレイや動画撮影、ライブストリーミングを可能にするだけでなく、急速充電時の放熱にも役立つ。


 マーケティング的な視点では、小型ハイエンドは注目を集めやすいというメリットもある。カメラ性能や充電ワット数といったスペック競争が行き着くところまで来た今、「ハイエンドなのに小さい」という切り口は目新しさもあり、メディアやSNSでも取り上げられやすい。


 価格帯も10万円以下で勝負し、AI機能の実装が遅れて中国市場で失速するiPhoneからの乗り換え需要も見込める。中国メーカーの機種は政府の補助金で割引対象になっている点も、後押し要素だ。


●折りたたみスマホの台頭も小型人気を後押し


 コンパクトなハイエンドスマホの登場の背景には、折りたたみスマホの台頭も要因として考えられる。フリップ型の折りたたみスマホ(ここではGalaxy Z Flipのようなスタイル)は、中国ではHuaweiが極めて強い市場だ。2024年はXiaomiとHONORが参入したものの、vivoとOPPOは新機種を見送っている。


 フリップ型の機種は、カバー画面の大画面化で「閉じても使える」ことをアピールしている。それでも使いやすいとは言い切れず、小さいならもっと軽く、大容量のバッテリーを積んだ機種を求める声は想像できる。


 小型スマホは、価格を抑えられるサブプレミアムな機種という立ち位置も担う。実際、Xiaomi、vivo、OPPO共にコンパクトなスマホで展開した機種は全てフラグシップラインから登場している。


●中国勢は小型スマホとして「iPhone 16 Pro」をライバル視


 最後に、中国で販売されている小型スマホと、世界で主流のiPhone、Galaxyを比較してみよう。中国で小型スマホは一般に幅71mm前後、画面サイズが6.3型クラスの機種を指す。日本では「コンパクト」とはいえないラインだが、長らく6.7型クラスが主流だった中国市場ではコンパクトな部類と評価する。


 そのような機種は2024年の秋ごろから各社製品を発売しており、時期的にもXiaomi 14の成功に続く形で各社市場投入を図っている。


 2024年は10月に先陣を切ってvivoが6.36型の「X200 Pro mini」を発売。次いでXiaomiが6.36型の「Xiaomi 15」を発売した。2025年に入ってOPPOから6.32型の「Find X8s」、傘下のOnePlusブランドでは日本円で6万円台にまでにコストを抑えた「OnePlus 13T 」を発売するなど矢次な製品投入が行われている。


 変わり種だが、Huaweiは展開時に6.3型、16:10比率になる折りたたみスマホ「Pura X」を2025年3月に発売。全く新しい形のコンパクトスマホを提唱してきた。


 このセグメントはAppleのiPhoneやサムスンのGalaxy Sシリーズが強いが、ここにきて中国勢が一気に商品展開を行っている。コンパクトなハイエンドスマホも、中国国内では現時点で5社6ブランドが競合する激戦区になっている。


 中国勢は比較的廉価なOnePlus 13T 、折りたたみのPura Xを除いた全機種が「iPhone 16 Pro」をライバル視している。iPhone 16 Proはこの中ではかなり高価であり、カメラ性能を加味すると中国勢は軒並み10万円以下の設定で相対的に安く感じる。


 中でもXiaomi、OPPO、vivoの機種がサイズ感、性能、価格でかなりせめぎあっている。iPhoneだけでなく、互いをライバル視していることが伝わってくる。


 全体的に小型機種のバッテリー容量は従来の常識を超えてきた。中国勢の機種は小さくても5000mAh以上が当たり前であり、OnePlus 13Tのような6000mAhオーバーの機種まで登場した。


 どの機種もGalaxy S25よりも30%以上も大容量のバッテリーを備え、カメラ機能を強化しながら、重量増加は約20g程度に抑えている。小型スマホはバッテリー容量が少なく、電池が持たないという認識も過去のものになりそうだ。


 OnePlus 13Tはフラグシップのプロセッサを採用しながら6万円台の設定でコストパフォーマンスに優れている。カメラを2眼にしたり、OPPO Find X8sと一部設計の共通化を図ってコスト低減に努めたりするなど、どちらかといえばiPhone 16を意識した機種だ。


 この価格帯にはvivoが6500mAhのバッテリー容量を備えるS30 Pro miniの投入を予告している。このセグメントにXiaomiが加われば今後も競争が過熱していきそうだ。


 折りたたみスマホのPura Xはバッテリー容量こそ少ないものの、独自OSの「HarmonyOS 5.0」をプリインストールしており、省電力にも優れている。本OSはAndroidベースのころに比べて消費電力を20%削減できるとしているため、電池持ちでは上記のコンパクト機と十分勝負できるものと考えられる。


●日本の小型スマホは減少も、中国勢の小型ハイエンドが新たな選択肢に


 小型ハイエンドスマホは、日本では減少の一途をたどり、気が付けばニッチなジャンルの機種と化していた。手になじむハイエンド機としてファンも多いソニーのXperia 5シリーズがなくなり、ASUSのZenfoneもプラットフォーム共通化から大型化してしまった。2024年は日本で買える小型ハイエンドは、実質iPhoneかGalaxyの二択だったのだ。


 そんな中、大画面モデルが強いシェアを持つ中国で、「小型ハイエンド」スマホが200万台以上のヒットを飛ばし、市場競争が繰り広げられている現実には正直驚きを隠せない。これらの機種よりはやや小ぶりとはいえ、ソニーやASUSもあと2年、小型をやめるという方向転換をしなければ、国内外の市場で受け入れられる可能性があったのではと感じてしまう。やるせない思いだ。


 日本でも中国勢の小型スマホへの関心は高い。2025年4月にXiaomi 15が日本でも発売され、コンパクトなボディーに5240mAhの大容量のバッテリー、ライカコラボの高い性能を持つカメラを特徴としている。リキッドシルバーという独特なカラーも注目を集めた。


 中国メーカーの小型ハイエンドスマホは、バッテリー容量や冷却機構などの技術的課題を克服し、かねて市場ニーズに応えた商品たちだ。日本でも支持の強いコンパクトなハイエンド機種がこれを機に増えていけば、いち消費者の視点でも選択肢が与えられてうれしいものだ。


●著者プロフィール


佐藤颯


 生まれはギリギリ平成ひと桁のスマホ世代。3度のメシよりスマホが好き。


 スマートフォンやイヤフォンを中心としたコラムや記事を執筆。 個人サイト「はやぽんログ!」では、スマホやイヤフォンのレビュー、取材の現地レポート、各種コラムなどを発信中。


・X:https://twitter.com/Hayaponlog


・Webサイト:https://www.hayaponlog.site/



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