“青空文庫に特化したAIチャット”公開、文豪になりきっての回答も 「李徴が虎ではなく、ハムスターになっていたら?」と聞いてみたら……

0

2025年07月24日 07:31  ITmedia NEWS

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

ITmedia NEWS

Humanitextの公式Xより引用

 「『こころ』における先生の動機は?」「『羅生門』の続きを書いて」――そんなリクエストに応えてくれる、“文学特化型”のAIチャットサービスが登場した。名古屋大学と桜美林大学、東京大学による研究グループは7月21日、LLM(大規模言語モデル)に青空文庫のデータを参照させて回答を得る、RAG(検索拡張生成)型のAIチャット「Humanitext Aozora(ヒューマニテクスト青空)」を公開。作品について質問したり、指定した作家の文体で物語を書いてもらったりできるという。


【画像】「走れメロス」「山月記」で試してみた その実力は?(計6枚)


 Humanitext Aozoraは、青空文庫の収録作品のうち、約1000人の著者による約1万7000作品を参照した回答が可能なAIチャット。対象の作品はいずれも著作権が失われている。


 用途ごとにモードを使い分けることが可能で、(1)作品に関する質問に対し、典拠と共に簡潔な回答を行える「Q&Aモード」、(2)専門家の視点で、時代背景も含めた多角的な分析を行う「詳細解説モード」、(3)指定した作家や登場人物になりきったAIと対話できる「対話モード」、(4)指定した著者や作品の文体などに基づき、物語の続編やパロディー作品などを出力できる「創作モード」──が利用できる。


 LLMは、23日時点でGoogleの「Gemini 2.5 Pro」の他、OpenAIの「GPT-4.1」「o4-mini」「o4 mini high」を選択可能。当面の間は無料で、ユーザー登録なども不要としている。ただし今後、複数のAIモデルに1つのAPIキーからアクセスできるプラットフォーム「OpenRouter」経由でユーザー自身がLLMの利用料を支払う形に切り替えるという。


 Humanitextの公式Xアカウントでは、「『人間失格』の語り口で、今日の満員電車の体験を短く描写してください」「蜘蛛の糸がゆで過ぎた揖保乃糸の場合、?陀多(かんだた)はどうしただろうか」といった、実験的な作例を紹介している。


 同研究グループは24年5月に、西洋古典に特化したAIチャット「Humanitext Antiqua(ヒューマニテクス・アンティクア)」を公開しており、Humanitext Aozoraはいわばその“日本版”に当たる。Humanitext Antiquaのリリース時には「古典原典へのアクセスのハードルを大幅に下げることで、専門家以外の研究者や学生、一般の人々も日本語で西洋古典のリソースを気軽に引用・参照・解釈できる環境を提供する」としており、Humanitext Aozoraも同様の目的で開発・提供に至ったとみられる。


●「走れメロス」「山月記」で試してみた


 Humanitext Aozoraの実力はいかなるものか。LLMにGemini 2.5 Proを指定し、太宰治の作品を参照の対象とした上で、詳細解説モードで「『走れメロス』において、王はなぜ最後にメロスを許したのでしょうか」と質問してみた。すると、「王の『人間不信』と『孤独』」「王の予測を覆したメロスの帰還」「王の心を打った真実の光景」という3つの観点が提示され、


王がメロスを許したのは、単なる温情や気まぐれではありません。それは、メロスとセリヌンティウスが命がけで示した「信実」によって自らの過ちを認め、人間不信という名の孤独から自らを救済しようとする、王自身の魂の叫びだったのです。


と締めくくられる、2000字超の詳細な解説が出力された。


 続いて、GPT-4.1を指定し、参照する著作として中島敦の「山月記」を設定。創作モードで「李徴が虎ではなく、ハムスターになっていたら、そのいきさつをどのように語っただろうか」と聞いてみたところ、


己が、かくも小さき獣となり果てた経緯を、君は問うのか。


という語りから始まり、


暁の気配が忍び寄った頃、己は近くの水面に姿を映してみた。そこにあったのは、ふくよかな頬袋と、小さき前歯、小豆色の瞳を持つ、一匹のハムスターであった。己は、初めそれを夢と思いたかった。しかし、幾度も身を振り、水面を叩いても、現実は変わらなかった。


(中略)己にも、はっきりしたことは分からぬ。ただ、思い当たるのは、己が世と人との交わりを厭い、ひたすら己の小さき自尊心と、卑しい羞恥心とを膨らませてきたことだ。人と交わることを恐れ、詩を磨くことにすら臆して、ただ己の内なる思いだけを、頬袋の中に蓄えるばかりであった。


 と続く作品が出力された。この他、対話モードに切り替えて話しかければ「李徴との会話」なども行える。想像力次第で、使い方はさらに広がりそうだ。


 開発に携わった名古屋大学の岩田直也准教授は、自身のXで「大量のデータから適切な文脈を抽出するため、クエリ拡張やハイブリッド検索、リランキングなどを工夫した。ぜひ試してみて、面白い生成を共有してほしい」と呼び掛けている。



    ランキングIT・インターネット

    前日のランキングへ

    ニュース設定