人類の歴史で何度か発生しているパンデミック。疫禍のなかでは迷信とともに何らかの買い占めが起きるもので、新型コロナではマスク、コレラのときはタバコが市場から姿を消した。そんな先入観と戦いコレラ禍を収めた男を主人公にした漫画が『スノウ』(講談社)だ。
参考:【漫画】『スノウ』を読む
この第1話が「病気の原因は悪臭だと言われていた時代の話」としてXに上がっている。約170年前のストーリーでありながら現代性を感じさせる本作について、作者・吉田優希さん(@roku12216)に話を聞いた。(小池直也)
――Xに投稿してみて反響などいかがですか?
吉田優希(以下、吉田):正直あまり手応えを感じません(笑)。まだ見つけられてない状態なのかなと思ってます。もっと伸びてほしいですね。
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――産業革命の時代を舞台にした理由を教えてください。
吉田:最初のきっかけは当時の担当編集さんから「ジョン・スノウという人がいますよ」というアドバイスをもらったことでした。興味を持って調べてみたら主人公のような生き様で。彼を主人公に漫画を描こうと決めました。
無痛分娩の先駆者のひとりであり、パンデミックを止めた人物。エグいですよ。これだけ面白い人が今までなぜ描かれなかったのかが不思議です。
――もともと西洋近代史や医療に興味があったり?
吉田:違います。ただ彼のミステリーっぽい人生から時代背景まで一気に興味を持ちました。ビクトリア朝は絵などの文化が盛んだったり、フェミニストが登場したり、子どもが「小さい大人」という概念で考えられていたりと非常に興味深い時代なんですよ。
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――実際に漫画に落とし込んでいく時に考えていたことは何でしょう。
吉田:とにかく「細菌の存在が発見される前にパンデミックを止めた」という偉業を描きたかったんですね。また彼が具体的に考えてパンデミックを止めるまでの期間が1週間なんですよ。だから短期戦の内容をサスペンス要素を盛り込んで面白くしたいと考えていました。
――制作にあたって参考にされた資料などがあれば教えてください。
吉田:「常識を壊す」という点で本作はアニメ『チ。 −地球の運動について−』(著:魚豊/小学館)に影響されていると思われることがあるのですが、僕が参考にしたのは浦沢直樹さんの『MONSTER』(小学館)でした。
前者は問題を解決していく、ある意味スポ根アニメだと思うんです。でも僕が書きたいのは群像劇。僕が『ジョン・スノウ』第1話を描く時に『MONSTER』第1巻分を圧縮させようと意識しましたね。
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――記録媒体のない時代を描かれていますが、作画に難しさはありませんか。
吉田:作画資料は少ないですね。写真が普及し始めたのも僕が描いている1840年代より少し後なんですよ。そこは仕方ないので、なるべく資料を探しつつ想像で描いています。
あとは藤田和日郎さんの『黒博物館 ゴーストアンドレディ』(講談社)も同じ時代の物語なので参考にさせてもらいました。実際に藤田さんにお会いした時にお話しして、先生がどうしても見つからなかったらしいのがカーテンレールの資料だったみたいですね。それを聞いて僕自身は救われました(笑)。
――「パンデミック」というテーマについては、どうしても近年のコロナ禍が連想されてリアリティを感じます。
吉田:それは意識しましたね。例えばコロナ禍のときに「マスクが売り切れた」と騒動になりましたが、カミュの『ペスト』には「ハッカ飴が病に効く」という記述があったりします。
そして本作で描いたようにコレラのときはタバコ(パイプ)が町中から消えた。人間の先入観は時代を問わないんですね。技術や外側は変わっても営みや感情自体は変わらないんだなと。
――スノウが陰謀論者扱いされる場面もどこか見覚えのあるような展開でした。
吉田:今もそうですよね。そういうことを経験している我々にとって、この物語は単なるファンタジーじゃないと思うんです。僕たちは歴史のなかに存在している。漫画を楽しむと同時に、約170年前にも似たことが起きていたことを考える機会にしてもらえたら。
――今後『スノウ』をどう描いていきますか。
吉田:物語の結末はもう考えています。そこに向かって中だるみしないように描けていけたら。本筋を早く読みたいという方もいるかもしれませんが(笑)、背景も込みで群像劇として描いた方が絶対に面白いので付いてきてもらいたいです。
(文・取材=小池直也)
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