「かわいいの殻を破る」“モルカー”監督によるマイメロディ&クロミ、サンリオが感じた課題に新たな可能性を提示

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2025年07月24日 08:40  ORICON NEWS

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(左から)見里朝希監督、サンリオ・山田周平氏(撮影:片山よしお)(C)’25 SANRIO 著作(株)サンリオ
 いよいよ、マイメロディとクロミを主人公にしたNetflixシリーズ『My Melody & Kuromi』が世界で配信開始(7月24日 後4:00〜)。『PUI PUI モルカー』を手掛けた見里朝希氏が監督を務めるとあって、どんなシナジーが生まれるのかと注目を集めていた本作。ストップモーションアニメで「かわいいだけではない」一面を描いた本作に、サンリオが抱いた期待とは? 見里監督と、サンリオのクリエイション全般を統括する執行役員・山田周平氏の本音対談で、制作の裏側、サンリオキャラクターの造形の妙に迫る。

【画像】これはカワイイ!羊毛フェルトのマイメロ&クロミ、闇落ちシーンも…

■「マイメロディとクロミの新しい魅力を…」サンリオが感じていた課題

 『My Melody & Kuromi』は、今年50周年を迎えたマイメロディと、20周年を迎えたクロミを主人公にしたストップモーションアニメ作品。監督は、『PUI PUI モルカー』を手掛けた見里朝希氏、脚本は数々の舞台・映画・テレビ作品で注目される根本宗子氏が担当。マイメロディとクロミが住むマリーランドを舞台に、ふたりが街の運命を揺るがす大事件に立ち向かっていく、1話約13分、全12話のオリジナルストーリーとなっている。

――まず、出来上がった作品を観た感想を教えてください。

【見里朝希】クロミがマイメロディに手を差し伸べたり、手を取り合って協力していく内容に、制作者の自分ですらウルッとしてしまいました。キャラクターをリスペクトしている脚本家・根本宗子さんによる説得力のあるセリフ、これまでにない展開もあって。新しい一面をお見せできた気がします。

【山田周平】私は本来、台詞や造形物を確認しなければいけない立場なんですが、観た時には「あっ、動いた! 遂にできた!」っていう感動が大きくて。完全にお客さんとして観てしまいました(笑)。そこから2回、3回と観ていくと、背景でもいろんなキャラクターたちが動いていて、画面の隅々まで一切妥協せずに作ってくださったことを実感しました。

――そもそも、本作はどのような経緯で制作されることに?

【山田周平】Netflixからお声がけいただいたのですが、当社としても「マイメロディとクロミの新しい魅力をどれだけ引き出せるか」という課題は感じていたところで。お話を聞いた際、かわいいだけではない、新しい魅力をもっと引き出せたらいいな、と思いました。

――見里監督が手掛けると聞いた時、どのように感じましたか?

【山田周平】「『PUI PUI モルカー』の監督さんだ!」と驚きました。当時まだ小さかったうちの子どもが、モルカーが大好きで。きっと、言葉だけに頼らない演出ができる技術や知識をお持ちの監督なのだと感じていました。さらに、監督の他の作品にはダークな一面もある。それがマイメロディとクロミに付与されることで、どんなシナジーが生まれるのか期待感がありましたね。

――見里監督はいかがですか? 世界中で愛される有名キャラクターの作品ですが。

【見里朝希】そのプレッシャーも大いに感じていましたし、まずはファンの方に納得いただけるようにと考えました。最初、場面をイメージしたイラストを何枚か描いたのですが、中にはマイメロディたちのピンチや挫折、アクションシーンもあって。でも、サンリオさんにお見せしたら意外と好評で、「思った以上にやりたい放題やっていいんだ!」と(笑)。Netflixの企画として、普段できないようなことにも挑戦できる楽しみもありました。

【山田周平】めちゃめちゃ良いものが来た!と、すごくワクワクしたのを覚えています。

【見里朝希】その時、「かわいい印象が強いからこそ、あえてその殻を破ってほしい」とおっしゃっていて。

【山田周平】そうなんです。ただ、新しい一面を…と期待もありながら、ファンの方を裏切ってしまわないかと最初は不安もありました。しかし、監督や脚本家の方をはじめ、クリエイターのみなさんがキャラクターを理解しようと非常に努力してくださっているのが伝わってきて。その中から、「こういう一面を出すのはどうか」と提案してくださったので、とてもありがたかったです。

【見里朝希】演出に関しては、好きなようにやらせていただきながらも、キャラクターのイメージを変えてしまうような、今後に影響する内容はあえて入れず。内面の魅力を探る作品にしようと挑みましたね。

――本作は、キャラクターの解像度が非常に高いと感じました。相当、研究されたのでは?

【見里朝希】自分がやりたい演出をお渡しして脚本を作っていただいたのですが、根本さんならではの少し毒のあるセリフ作りと今回の世界観がすごくマッチしていて。根本さん自身がマイメロディたちのファンなので、キャラクター性を保って解像度を深めつつ、新しいことに挑戦してくれたと思います。単なる正反対の存在ではない絆の描き方が、より深いものになったなと。

【山田周平】「キャラものってこういう感じだよね」という先入観を良い意味で裏切っていて。ドラマ性があるストーリーだなと思いました。

――物語やキャラクターの性格でこだわった部分は?

【見里朝希】昨今はコンテンツの消費速度が加速しているので、とにかく視聴者を飽きさせないために、話数ごとにバリエーションを用意しました。また、サンリオの強みは“かわいい”ことだとは思うのですが、それだけでなく、お互いをリスペクトしあう関係性もいいなと思っていて。クロミにとってマイメロディはライバルだとしても、ちゃんとマイメロディのことを尊重している。そんなところに、今作のテーマの一つである“優しさ”が出ているのではないかと思います。

――造形の点ではいかがですか?

【見里朝希】ほとんどが動物をモチーフにしたキャラクターなので、羊毛フェルトという素材で作りました。マイメロディとクロミのずきんの部分は、喜怒哀楽を表現するためにあえて柔らかいシリコンを使っていたり。かつ、マメロディのずきんは布っぽく、クロミはテカっとした質感を目指しました。ちなみに、クロミのずきんに描かれたドクロの表情も、クロミの感情とシンクロさせているんです。コマ撮りの際は、ちゃんと置き換えて撮影をしました。

【山田周平】シリコンの尖りが出ないように、いろんな素材や作り方を実験されていて。本当にすごいと思いました。

【見里朝希】ストップモーションアニメの魅力の一つは手作り感。噴水の水を全部ビーズで作ったり、煙は綿を使っていたりと、とことん手作り感のあるかわいい絵を目指しました。

――作りながら、サンリオキャラクターならではの造形の特徴を感じたことは?

【見里朝希】もともとのキャラクター自体、あまり感情が読み取れないのが、意外と魅力の一つなのでは?と思いまして。「かわいいけど、心の中でどう思っているんだろう?」というのが絶妙に読み取れない、これは動物に近いなと考えたんです。ハローキティやリトルツインスターズにも感じることなんですけど、あのシンプルさがなせる技なのではないかと思います。立体に限らず、2Dでも魅力的に見せられることがすごい。

【山田周平】サンリオのキャラクターは“相手に寄り添う”ことを大事にしているので、シンプルな造形なんです。キティに口が描かれていないのも、より相手の感情に近づけて、楽しいときには楽しく、悲しいときには悲しく見えるように。極限までシンプルに削っていくからこそ、本当に訴えたいことが強調されるのではないかと思います。シンプルだから、アレンジが豊富にできるのも魅力かなと。

【見里朝希】なるほど。とくにマリーランドの住人たちは、サンリオのHPでもプロフィール文が短いコもいますよね。そこが逆に想像の余地を与えてくれます(笑)。

【山田周平】そうですね。たぶん、文字で伝えるというよりは、ビジュアルで伝えることが多いんだと思います。それを皆さんが読み取ってくださるっていう。

――山田さんは以前、別のインタビューで「デジタルのかわいさを研究したい」とおっしゃっていました。今作はまさに、ぬいぐるみ的なアナログのかわいさと、デジタルのかわいさの融合ではないかと。今作でそのような可能性を感じましたか?

【山田周平】デジタルのかわいさというと、最初に思いつくのが3Dモデルだと思うのですが、今回の作品の中で、“手触り感をデジタルで表現する”ということを実践しているのを見て、「こういうやり方もあるな」と思いました。デジタルだろうがリアルだろうが、あえて表現を分ける必要はなくて。そのままの魅力を出すことが大切だと改めて勉強させてもらいました。

【山田周平】キャラクターの動きにとてもこだわっていた印象があるんですけど、いかがですか?

【見里朝希】そうですね。セリフだけでなく、動きもちゃんと差別化したくて。マイメロディはちょっとのんびり、クロミは速くてコミカルな動き。実はストップモーションアニメでゆっくりした動きを表現するのは難しく、苦労した部分でもあります。大勢のアニメーターに共有するために、最初に自分がマイメロディ、クロミ、フラットくんやピアノちゃんの動きをやってみせていました。

【山田周平】それ、すごく印象に残っていて。監督が自分で動いてみて、それを撮ったものを見ながらキャラクターを動かして…というのがすごく面白かった。

【見里朝希】最初は動きを探るために。ただ全部それだけになってしまうと、アニメ特有の「嘘をつく動き」ができなくなってしまう。アニメーターが慣れてからは、実写世界ではできないような動きもふんだんに取り込みました。

【山田周平】私たちがグラフィックのデザインをするときも、魅力的にするために、実際の見え方とは違う表現をすることがあります。同じように自分でポーズをしてみたり、どう動くのかを想定したりしながら、魅力的に見えるようデザインする。お話を聞いていて、映像でもグラフィックでも考え方は一緒なんだと思いました。

【見里朝希】たしかに、たとえばグラフィックデザインのマイメロディにしても、横顔では本来あるはずの口を描いていなかったりしますよね。コマ撮りでも同じで、仕組み上、横顔に口をつけると浮いてしまうので、ここは嘘をついて外そう、と。そういう嘘のつき方はけっこうありますね。

【山田周平】もう一回観たくなりましたね!

――最後に、お2人のお気に入りのシーンを教えてください。

【見里朝希】挑戦したかったアクションの面で言うと、第4話のカーチェイスのシーンですかね。ほかにも、単にエンタメとしての楽しさだけではなくて、キャラクター同士の絆がちゃんと描かれていて、終盤には胸を熱くさせられると思うので、ぜひとも最後まで観てほしいです。

【山田周平】私は、マイメロディが孤独になる瞬間が印象的でした。あのシーンには、私も見たことがない、想像したことのないマイメロディの一面が出てきていて。セリフや登場してくるキャラクターたちの表情もなんとも言えない切なさが渦巻いているので、とても好きですね。

【見里朝希】ファンの方にも喜んでいただけるようなサプライズがたくさん詰まっていると思いますので、画面の隅々まで観ていただけると嬉しいです。これからマイメロディやクロミを知る方にも、映像として楽しんでいただけるような内容なので、大勢の方に楽しんでいただけたらと思います。

(写真:片山よしお 文:於ありさ)

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