限定公開( 1 )
『チ。-地球の運動について-』『ようこそ!FACT(東京S区第二支部)へ』といった社会へのメッセージ性の強い作品で知られる魚豊のデビュー作『ひゃくえむ。』(魚豊/講談社)。
参考:【画像】『ひゃくえむ。』入魂の劇場アニメ公式ビジュアル
陸上競技の花形「短距離走」をテーマに描かれた本作は2025年9月19日に劇場版アニメが全国公開される。全力疾走で競う姿が目に鮮やかなキービジュアルも先日公開され、反響を読んでいる。
主題歌はOfficial 髭男dism の書き下ろし最新曲「らしさ」になることが発表され、俳優の松坂桃李が主人公のトガシ、さらには染谷将太がトガシのライバルである小宮の声優を担当することでも話題の本作。荒削りながら脳髄に突き刺さる熱量が魅力の原作『ひゃくえむ。』が放つ魅力について触れていきたい。
■天才と呼ばれた男とやがて天才を超える男
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100メートル走で1回も負けたことがなく、「神童」と呼ばれ周囲から羨望の目を向けられて何不自由なく生きてきた小学生のトガシ。ある日同じクラスに転校してきた、何を言っているのかもよく聞き取れないような内気でうだつのあがらない日々を過ごす男、小宮と出会う。
現実より辛いことをして気を紛らわすために走っていると言う小宮に対してトガシは「大抵のことは、100mを誰よりも速く走れば、全部解決する」と告げる。そのメッセージは、陰鬱な日々を送っていた小宮に強く刺さったのだ。
この日から小宮はトガシから走りの技術を教えてもらうことになる。トガシのアドバイスを受け、着実に走りの才能を開花させていく小宮。トガシは最初は相手にもしていなかった小宮が、やがて自分を脅かすほどの存在に成長していることに気づき、焦る。
突如、自我が芽生えたように鋭い眼光をトガシに向ける小宮はトガシに1VS1の勝負を申し込む。ここから2人の物語が本当の意味でスタートすることになるのだ。
■絶望と希望ーー短距離走こそが人生の縮図
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原作では小学生時代のトガシが高校に進学し、やがてプロ選手になる姿までが描かれているが、それは決して順風満帆な陸上人生ではない。むしろ小学生時代がピークで、年齢を重ねるにつれ段々と凡庸さがチラついてくるトガシを見ているのは、中々に辛い。
そして時間にして僅か10数秒の勝負を何度となく繰り返すたびに募る疑念。一体、自分は何のために走っているのだろうか。たびたび絶望にも似た感情に支配されるトガシ。そして小宮もまた、100メートルの世界で生き抜きながらも迷い葛藤している様が描かれる。
やがて大人になり再び対峙するトガシと小宮。研ぎ澄まされた魂同士がぶつかり合う刹那のやり取りが映画ではどう展開されるのか。原作を予習しておくことでさらに物語を深く楽しむことが出来るだろう。是非ともウォーミングアップ代わりに手にとって気持ちを高めておくことをお勧めしたい。
制作陣には、長編デビュー作であり7年超に及ぶ製作期間をかけて作成された映画『音楽』で大反響を呼んだ岩井澤健治が監督を務める。さらには大ベテランであり長年陸上界のトップ戦線で活躍する海棠役の声を人気声優の津田健次郎が演じるなど、期待感に溢れた陣容でお届けされる『劇場版 ひゃくえむ。』。
一瞬に人生の全てを賭けて挑む尊さと美しさ、そして儚さが入り混じった傑作だ。魚豊の原点にして1つの到達点ともいえる本作を劇場で楽しまない手はないだろう。2025年9月19日の号砲が鳴る瞬間が楽しみでしかない。
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日常で起こる様々な悩みや不安や憤りは、一旦隅に置いてこのレースの行方に注目しよう。そう、大抵のことは、100メートルを速く走れれば解決するのだから。
(文=もり氏)
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