100万円近く払っても転職できない?「高額キャリアコーチング」は本当に有効なのか

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2025年07月24日 16:21  日刊SPA!

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シニア専門転職支援会社「シニアジョブ」代表の中島康恵氏
人生100年時代。「人生最後の職場を探そう」と、シニア転職に挑む50、60代が増えている。しかし、支援の現場ではシニア転職の成功事例だけでなく、失敗事例も目にする。シニア専門転職支援会社「シニアジョブ」代表の中島康恵氏が、今回は高額キャリアコーチングの有効性や注意点について解説する。
近年、急増するキャリアコーチングという名称のサービスをご存じだろうか? キャリアコンサルティングや人材紹介などとは違うサービスなので、どんな効果があるのかあまりわかっていない人も多いだろう。高額な料金を払うことに不安な人もいると思うので、その現状を解説する。

◆急増するキャリアコーチングとは?

現在、「キャリアコーチング」と呼ばれるサービスが急拡大している。

キャリアコーチングとは「働き手にとっての理想のキャリアが何であるのか」「その理想を実現するにはどうすればよいのか」といったことを、コーチが対話を通じて引き出し、理想のキャリア実現に導くサービスである。

この説明でも、実際にどんなサービスを受けられるのか、人材紹介など他のサービスとの違いは何なのか、これまでにキャリアコーチングを受けた人でなければわかりにくいことだろう。

そうしたわかりにくさも影響しているためか、キャリアコーチングの中には「高い料金の割に期待した効果が得られない」など、ネガティブな印象を持たれてしまうことや、実際に質の良くないサービスがあり、話題になることも増えている。

今回は、増加しているキャリアコーチングについてその実態と効果を考察する。

◆キャリアコーチングとキャリアコンサルティングの違いは?

まず、キャリアコーチングを説明することが、実は意外と難しい。

ちゃんとした、本来の意味でのキャリアコーチングは、冒頭でも述べたような、対話を通じてその人の理想のキャリアを導き、その道筋を目指すための支援を行うもので、長期的なキャリア目標やそのための成長の実現を目指すものだ。しかし、必ずしもそうとはいえない、他のサービスとの区別が曖昧なサービスも残念ながら存在している。

ちなみに、キャリアコーチングと別物であるキャリアコンサルティングは、厚生労働省の「キャリアコンサルティング・キャリアコンサルタント」の説明ページを見ると、「労働者の職業の選択、職業生活設計又は職業能力の開発及び向上に関する相談に応じ、助言及び指導を行うこと」とされ、そのキャリアコンサルティングを行う国家資格のキャリアコンサルタントは、「キャリアコンサルティングを行う専門家で、企業、需給調整機関(ハローワーク等)、教育機関、若者自立支援機関など幅広い分野で活躍」しているとされる。

キャリアコーチングの立場からはしばしば、キャリアコーチングが中長期的なキャリアの目標達成のための支援を提供するのに対して、キャリアコンサルティングでは短期的なキャリアの課題解決のための支援が提供されると言われるが、その境目は見えづらい。

また、キャリアコーチングのための国家資格はなく、民間資格のほかにキャリアコンサルタントの有資格者がキャリアコーチングで活躍する場合があることも、キャリアコーチングとキャリアコンサルティングをわかりづらくしている。

◆人材紹介や職業訓練とも違うキャリアコーチング

キャリアコーチングと人材紹介(有料職業紹介)も当然違うサービスで、キャリアコーチングでは求人は扱わず、直接的な転職の支援は行わない。だが、この点についても、キャリアコーチングでも転職のアドバイスまでは提供する場合が多く、キャリアコーチングの会社の中には有料職業紹介の許可を得て求人を扱い、直接転職の支援をするケースもあるので、複雑になる。

人材紹介(有料職業紹介)は、法律で求職者から料金を得ることが禁止されていて、求人企業から紹介手数料を得るが、キャリアコーチングは人材から料金を得る。これも、キャリアコーチングと人材紹介の両方を提供する会社では、人材から料金を得たうえでさらに求人企業からも紹介手数料を取るため、ややこしい。

ハローワークで提供される職業訓練や、最近よく聞くリスキリングとも、キャリアコーチングは似て非なるものだ。職業訓練やリスキリングでは、基本的にその後の仕事で直接役に立つスキルや知識を学ぶが、キャリアコーチングではキャリアを実現するための自己分析や計画立案に重きが置かれる。

しかし、ここの住み分けも曖昧であり、リスキリングにおいて自己分析やその後のキャリア実現の計画に重きが置かれる場合もあれば、反対に、キャリアコーチングの一環として、理想のキャリア実現のための具体的なスキル獲得まで支援がある場合もある。

◆キャリアコーチング活用の注意点3選

このように実際のサービス領域が曖昧になりがちなこともあって、キャリアコーチングが人材側から高額な料金を得るものの、わかりにくく、近寄りにくいイメージができてしまっている。

もちろん、そもそもキャリアコーチングは直接転職の成功を目指すための支援ではないため、今まさに転職や就職を目指す人には合わないことが多い。それが伝わらずにミスマッチに至る場合がある。また、多くのキャリアコーチングのサービスは、ちゃんとしたサービスを本来の目的に沿って提供しているのだが、一部に悪質なサービス提供者がいるために注意が必要になる場面もある。

私が考えるキャリアコーチングを活用する場合の注意点は、次の3つだ。

1. 目指すキャリアが確実に実現するわけではない
2. 料金に見合った結果が得られるとは限らない
3. 転職市場や採用担当・人事のニーズと”ズレ”ている場合がある

それぞれ解説しよう。

◆1. 目指すキャリアが確実に実現するわけではない

どんなサービスでも100%の成功などあり得ないが、何度も繰り返しているように、キャリアコーチングは転職の支援ではない。そのため、転職やその準備という意味では効果に直結しにくい。

その人が本当に望んでいる理想のキャリアを引き出し、伴走してくれるコーチがいれば心強く感じる人もいるかもしれない。一方で、コーチングを通じて理想を変更させられたり、言いくるめられたように感じてしまう人もいるだろう。

就職・転職の活動や、その準備について、もっと具体的な支援がほしい人には向かない。

◆2. 料金に見合った結果が得られるとは限らない

実はキャリアコーチングの費用は比較的高額なものが多く、一般的なもので20万〜70万円程度、中には100万円以上のものもある。

確かに理想のキャリア探しからその実現まで長期間伴走してくれると考えれば、納得の金額かもしれない。しかし、反対に転職の成功に直接結びつかないサービスにそこまでお金をかけたくない人も多いだろう。

日本ではキャリアのための自己投資が外国ほど一般的でないことも、金額に納得感が生まれにくい一因だろう。お金を得るために働こうとしているのに、働くまでに高額な費用を求められてはかなわないと考える日本人は多い。

公共のハローワークが無料で活用できるだけでなく、民間の人材紹介も求職者から料金を取ることが禁止されており、就職活動にお金がかからないこともキャリアコーチングをより高額に見せる。ちなみにハローワークでは、キャリアコンサルタントによるキャリアコンサルティングも無料で受けられるので、さらにキャリアコーチングの高額が際立つ。

そのため、逆にキャリアコーチングに職業訓練や人材紹介など他のサービスを組み合わせて付加価値を高める試みもよく見られるが、これがかえってキャリアコーチングの複雑さを高めたり、職業訓練や人材紹介として考えると高額、効果が薄いといった批判につながったりしている。

◆3. 転職市場や採用担当・人事のニーズと”ズレ”ている場合がある

最後は、キャリアコーチングで得るものや学ぶものと、転職市場や採用企業が求める価値観がそもそも一致しない可能性について述べたい。

キャリアコーチングを受けても、それがゴールであるキャリアにつながる場面でズレていたのでは無駄になってしまう。

キャリアコーチングの趣旨は、働き手の理想のキャリアや適正に合ったキャリアへと導くことだが、それはあくまでも働き手側の視点の話で、雇用側の都合は重視されていない。

転職を目指す会社や勤める会社が求めるものが、コーチング対象の働き手の理想や適性と異なる場合にコーチがどういった導き方をするのかはそのコーチ次第かもしれない。しかし、雇用側をまったく無視した道筋ではキャリアの実現に至らないし、雇用側に合わせてしまっては働き手にとって理想のキャリアとは言えないケースも出てくる。

企業と働き手の間でバランスを取り、より良いゴールに導くことは非常に難しい。だからこそ力量のあるキャリアコーチの存在は重要なのだが、反対に力量の乏しいコーチやコーチングサービスに当たってしまったら、当然、料金分の納得感は得られないだろう。

キャリアコーチングに限らず、人材・HR関連のサービスはどれも100点満点が得にくい難しさがあるが、キャリアコーチングは特に日本での定着が浅いこともあり、厳しい視点で見られやすい。また、実際にサービスの質も良いもの・悪いものが混在していると言える。

【中島康恵】
50代以上のシニアに特化した転職支援を提供する「シニアジョブ」代表取締役。大学在学中に仲間を募り、シニアジョブの前身となる会社を設立。2014年8月、シニアジョブ設立。当初はIT会社を設立したが、シニア転職の難しさを目の当たりにし、シニアの支援をライフワークとすることを誓う。シニアの転職・キャリアプラン、シニア採用等のテーマで連載・寄稿中

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