
プロ野球選手が着用したユニフォームパンツの多くは、役目を終えると行き場を失ってしまう。そのユニフォームパンツに新たな命を吹き込み、未来を担う子どもたちに感動と希望を届ける取り組みが、服飾資材製造卸を営むモリト株式会社(以下、モリト)と球団とのコラボレーションによって実現した。SDGsへの貢献を掲げ、廃棄されるはずだったユニフォームパンツを「お守り」へ生まれ変わらせる想いを聞いた。
始まりは「もったいない」の精神から
このアップサイクルプロジェクトは、オリックス・バファローズのゲームスポンサーを務めるモリトが、2023年から取り組んできた。
はじめに手掛けたのは、選手が試合でかぶっている帽子だった。オリックス・バファローズ側から「選手が実際に使用し、役目を終えた野球帽を何かサステナブルな取り組みに活用できないか」と相談を受けたのが、きっかけであったそうだ。
「バファローズさんから、使用済みの帽子活用方法に頭を悩ませていると相談をいただきました。上質な刺繡が施されるので、使用される機会がなくなってしまうのは、もったいないということで、活用方法を探る取り組みが始まりました」
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こう語るのは、モリトのマテリアルデザイン事業部・藤本綾太さん。
「そこから何ができるか?」――服飾資材をはじめとするパーツや製品を多く取り扱っているモリトの技術、知見、アイデアを活かし試行錯誤を重ねた末、帽章とエンブレムを活かしたパスケースとくるみボタンが出来上がった。
これが、リサイクルならぬアップサイクルの始まりだった。
「帽子をアップサイクルしたのは、取り組みが始まった1年目の2023年です。翌年の2024年には、使用済みのユニフォームパンツを活用できないかという相談を受けました」
オリックス・バファローズが夏に行うイベント「Bs夏の陣」では毎年、専用のユニフォームが新調される。そのため、このイベント期間中に着用されたユニフォームパンツは、役目を終えた後は使用される機会が限られていた。
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ユニフォームパンツは帽子に比べて生地の面積が大きく、素材も異なるため、アップサイクルするには帽子とは別のアプローチが必要だった。
「当初は、観戦用クッションやスマホのポーチなど、数種類のアイテムを作ってみたのですが、大量生産が困難であったり、理想のクオリティとコストの両立に苦戦したりしました」
アップサイクルが「当たり前」になる未来へ
そんな試行錯誤の末にたどり着いたアイテムが必勝祈願の「お守り」だった。これは球団の地元の小学校や少年野球チームなどへ配布しているという。
IR・広報部の太田雄大さんは次のように語る。
「少年野球の球児たちにとって、プロ野球選手は憧れの存在です。地元チームの選手たちが実際に身につけていたユニフォームパンツが、球児たちのプレーを後押しし、新しいチャレンジを応援してくれるお守りになることは、計り知れない価値を生み出すと考えました」
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ちなみに、サイズによって変動はあるが、ユニフォームパンツ1本から約80個のお守りが作れるそうだ。大量の使用済みユニフォームパンツを有効に活用し、SDGsに貢献するばかりでなく、このお守りを手にした球児たちの笑顔と感動を生み出している。
「役目を終えたユニフォームパンツに新たな価値を加えて、子供たちの笑顔を生んだことに大きな喜びを感じています。また、子供たちがこの取り組みを通してアップサイクルを意識してくれたら、社会的に意義のあることだと思います」
このアップサイクルの取り組みは、今後も継続して行われる。今年も8月2日のパーツの日「ハッピーパーツデー(日本記念日協会認定)」に合わせて、新たなアイテムを発表する計画があるそうだ。
「ハッピーパーツデー」とは、普段気が付かないところにある様々なパーツに誇りを持ち、新商品の開発を手がける企業・研究者の存在とともに、日本のパーツの素晴らしさを多くの人に知ってもらうことを目的にモリトが制定した記念日である。
太田さんは「アップサイクルが特別なことではなく、当たり前のことと認識される世の中になってほしい」と語る。
選手たちの思いが込められたユニフォームパンツが形を変えて、次の世代へと受け継がれていく。この取り組みは現在、オリックス・バファローズとのコラボだけだが、今後は他の球団、他のスポーツ競技、あるいはもっといろいろな業種にも広げたいとのことだった。
(まいどなニュース特約・平藤 清刀)