【#佐藤優のシン世界地図探索119】トランプ&プーチン、国士無双なふたり

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2025年07月25日 08:20  週プレNEWS

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ウクライナ戦争勃発から世界の構図は激変し、真新しい『シン世界地図』が日々、作り変えられている。この連載ではその世界地図を、作家で元外務省主任分析官、同志社大学客員教授の佐藤優氏が、オシント(OSINT Open Source INTelligence:オープンソースインテリジェンス、公開されている情報)を駆使して探索していく!

*  *  *

佐藤 6月14日、トランプの誕生日にワシントンで米陸軍のパレードがありました。その日、様々な問題があるにも関わらず、プーチンからお祝いの電話がトランプにあって、ふたりで話をしていたようです。

――世にも不可思議でありながら、仲良し電話です。

佐藤 お互いに立場は色々とありますが、誕生日はめでたいので電話をかけるという関係です。

――地球にとっても、誠にめでたい。

佐藤 プーチンからしてみれば、いい感じになってきたんじゃないでしょうか。

きっとトランプは、プーチンや習近平、そして金正恩がやっているような軍事パレードをアメリカでもやってみたかったんだと思います。そして実際にやってみたら、スカッとして気分がいいと。

プーチンも「そうだろ?」と盛り上がったと思いますよ。トランプも毎年やる気になっているかもしれません。

――仲良し同士の会話であります。それで、プーチンは続けて言ったんでしょうね。「これで、習近平とか北の金ちゃんの気持ちも、わかってきたでしょ?」とか。

佐藤 そしたら、金さんも唐突に反応していましたね。

――えっ、マジっすか?

佐藤 17日になって今まで何の反応もなかったのに、急にイスラエル非難をしました。アメリカの名前を出さずにです。

これはイランの体制転換の話が浮かび上がったため、急に関心を示したのです。「うちにはやらないでね」と。

――しっかりしてますね(笑)

佐藤 北ははっきりしていて、自分に関係なければ何も言いません。例えば、シリアのアサド政権が崩壊する時です。私は3日前に朝鮮中央通信で、本当に危機的だと気が付きました。しかし、それが北も独裁者が倒されるという話になったタイミングで、「こういうことは止めよう」とすぐに反応しました。

――わかりやすい。その時、プーチンはトランプに「北の兄ちゃんな、あいつらは外に行く気はあらへんから、うまくやってくれ」とか言うんでしょうか。しかし、すごい世界になってきました。

佐藤 そうですね。

――トランプを理解する一冊として、『ナショナリズムの美徳』(著:ヨラム・ハゾニー 解説:中野剛志、施光恒 訳:庭田よう子)を以前の連載で紹介いただきました。読んでみるとトランプのやり方や考え方がよくわかりました。

佐藤 そう、トランプは理論がないと言われていますが、そういうことを言う人がいかに間違えているかという話ですよ。トランプにはしっかりした理論的な裏打ちがあるんです。

――確かに。『ナショナリズムの美徳』では、リンカーンが聖書の記述をもとに南北戦争での動きを決めたとあって感動しました。同じようにトランプも旧約聖書か新約聖書を読んで「これだ」というところを見つけて、それに従い、行動しているわけですね。

佐藤 はい、そう見るとわかりやすいんです。だから、『ナショナリズムの美徳』さえ読んでおけば、よくわかるということです。

――そうなるとイスラエルにとっては、イランが旧約聖書のように「ソドムとゴモラと同じく、滅ぼしてやろう」となるのが、一番怖いわけですよね。

佐藤 そうです。しかし、思っていたよりイランは弱いことが露呈しました。だから、イスラエルはここがチャンスと、空爆したというわけです。

今後の状況を考えても、シリアは再建するだろうし、ヒズボラもまた力をつける可能性はありますから。そして、どうせ国際世論はパレスチナに同情的だからと状況がそろっていました。

――だったら、いまだ!と。

佐藤 マキャベリはこう言いました。「残忍にやる時は、あっという間にやっちまえ」。

――しかも、止め役にはプーチンがいる。「ブレーキが働いているならば、行けるところまで行こうぜ!!」といった感じですよね。

佐藤 そうです。「加害行為は一気にやってしまわないといけない。そして、恩恵は小出しにやらなくてはいけない」。

――それは何ですか?

佐藤 これもマキャベリの言葉です。『君主論』の一節ですね。

――なんとまあ、庶民には残酷なんでありましょうか......。でも『君主論』ですからね。

佐藤 こうも言っています。「愛されるよりも、恐れられるほうがはるかに安全である」と。

――ぜひ売り出し中のアイドルの方々に言ってあげたいであります。それで、ひとつ聞きたい事がありまして。

佐藤 どうぞ。

――その『君主論』では「ライオンの勇猛さとキツネの狡猾さを国家は兼ね備えるべきだ」と指摘しています。ちなみに、イスラエル空軍全力のイラン空爆の作戦名は「ライジングライオン(立ち上がる獅子)」でしたが、イスラエルの獅子をイスラエル軍とすると、狐はイスラエルの諜報機関・モサドになる。

しかし、以前のお話では、イスラエルの獅子と狐は外からの情報が途絶してグルグルとまわるだけで、あまり良い状態ではない、と。

佐藤 そうです。だから『君主論』では、

「そこで君主は野獣の気性を適切に学ぶのが必要である。この場合、野獣の中でも狐とライオンに学ぶようにしなければならない。理由は、ライオンは策略の罠から身を守れないからである。

罠を見抜くと言う意味では狐でなくてはならないし、狼どもの度肝を抜くという面ではライオンでなければならない。と言っても、ただ、ライオンであることに胡坐(あぐら)をかくような連中には、その道理はよくわかっていない」

と警告しています。

――すると、いまのイスラエルはその狐であるモサドがダメになりかけていると。

佐藤 ちょっと強さに酔った、ライオンみたいになっていますね。

――それってもしかしたら、イスラエルだけでなく全部ですか?

佐藤 そうです。みんな世界がそうなっています。

――世界が獅子、ライオンのようになっている。そんな獅子世界で、国士無双状態の米露、このツートップ会議はどこで始まるんですかね?

佐藤 どこでやるか......サウジアラビア、じゃないですかね。

――サウジ!

佐藤 スイスなどのヨーロッパは避けるような感じがします。

――英仏独の旧帝国が近くにいますからね。

佐藤 だから、ヨーロッパを無視するという観点からもサウジになると思います。

――サウジのムハンマド・ビン・サルマーン皇太子は、世界的に地位がアップしますね。

佐藤 しかし、あそこでやるのであれば、"粛清"の危険も伴いますけどね。自分が気に食わない人間は、イスタンブールの総領事館に連れ込んでバラバラしても構わないという文化は変わっていませんから。

――そういう文化は、プーチン大統領とすごく気が合うのでは?

佐藤 そうかもしれませんね。

次回へ続く。次回の配信は2025年8月1日(金)予定です。

取材・文/小峯隆生

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