
星野伸之が語るオリックスの前半戦 後編
(前編:宮城大弥の勝ち星が伸びない理由を星野伸之が分析 後半戦のカギを握る投手も語った>>)
星野伸之氏に聞くオリックスの前半戦。その後編では、岸田護新監督の選手起用について語ってもらった。
【投手、野手の起用の印象は?】
――まず、ピッチャー陣の運用に関してはどう見ていますか?
星野伸之(以下:星野) 投手コーチとの協業だとは思いますが、調子の見極めがすごくできているなと。例えば6月28日の楽天戦では、先発の田嶋大樹を4回2/3で代えて逆転勝利につなげたのですが、スパっと代えたことが功を奏しました。二死一、二塁のピンチで二番手に才木海翔を起用したのですが、彼のマウンド度胸を買っての起用が当たりましたよね(才木は同試合でプロ初勝利)。
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また、山岡泰輔を先発にするのかリリーフにするのかも注目していましたが、リリーフで起用して成功しています。山岡はピンチの場面での起用で連続して抑え、岸田監督の期待に応えました。今はファームで調整中ですが、昨年はよかった古田島成龍の調子が上がらないなか、勝ちパターンの一角を担っている山岡は重要です。あと、ドラフト6位ルーキーの片山楽生を思い切って起用していますし、乗っていけば今後いい場面で投げさせる雰囲気も感じます。
――リリーフ陣は故障者や調子が上がらないピッチャーが多く、やりくりに苦労している印象です。
星野 そうですね。投げさせてみなければわからないピッチャーが多すぎました。ベテランの山田修義も出場登録を抹消中ですし、阿部翔太や井口和朋、川瀬堅斗ももう少し頑張れるかなと思ったら打たれて抹消。今投げている才木海翔やルーキーの片山らがどうなっていくのか。ある程度連続して抑えないと信頼は得られませんし、リリーフ陣を後半戦でどう整備していくのかは見ものです。
――野手陣の起用に関してはいかがですか?
星野 中嶋聡前監督と同じように日替わりの打線ですが、ポジションにしろ打順にしろ、そこまで"読めない"打線ではないかなと。森友哉や西川龍馬が故障で離脱中ですが、それでもある程度戦える選手層はありますし、休ませながら起用している意図も感じます。
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ただ、西川の離脱は痛いです。彼はインコースの際どいボールでもヒットにするじゃないですか。あれはピッチャーにとってすごく嫌ですし、ダメージが大きいんです。西川を嫌がっていたピッチャーは多いはずですし、「西川がいないとラクだな」と思って投げているピッチャーもいると思うんです。岸田監督も頭を悩ませる部分でしょうね。
【後半戦に向けた采配のポイントは?】
――今後に向け、采配のポイントを挙げるとしたら?
星野 若手の起用法です。来田涼斗は固め打ちをしたり印象的な一打を打ったりしますが、やはり継続していかないと信頼は得られません。以前なら簡単に三振してしまう場面でもある程度は粘れるようになって、甘い球を仕留める確率は向上していると感じますけど、試合に出続けるには安定した打撃に加え、守備面での安定感も求められますしね。
チームは昨年5位だったとはいえ、その前年までリーグ3連覇を経験した実力者もある程度いますし、そこに若手が食い込んでいくのは大変です。ただ、野手の故障者が増えているので、そういう意味では思い切った若手の起用もしやすい。後半戦では、いかに若手を起用していくかがポイントになりそうです。
――もっと若手が出てきてほしいところでしょうか。
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星野 今の流れだと、来田は昨年よりも出場試合数が増えそうですが、もうひとりくらいは出てくるような雰囲気があります。先日、一軍に昇格した横山聖哉をどう起用していくのかも楽しみですし、渡部遼人や元謙太らが少ないチャンスをどう生かすか。やはり、若手の活躍はチームを勢いづけますからね。
あと、中嶋前監督が言っていた「状態が悪かった選手の状態が上がれば、それは"新戦力"だ」という考え方を、岸田監督も継承しているように見受けられます。7月9日に一軍に再昇格した福田周平の起用法なども今後は楽しみです。
野口智哉は肩が強いし、バッティングのポテンシャルはあるので、安定してくれば野口も戦力になると思います。岸田監督やコーチ陣が、その日の練習の状態で選手の調子を見極める"目利き"になれるかどうか。そういう部分にも注目していきたいですね。
【雰囲気づくりは「相変わらず上手」】
――岸田監督の"カラー"に関してはいかがですか?
星野 先ほどお話したように、ピッチャー出身の監督ということもあってピッチャーの起用法は長けていると思います。ただ、野手の起用に見られるように、基本的には中嶋監督の選手起用を継承している部分が多いのかなと。それと、水本勝己ヘッドコーチをはじめ、コーチの意見をしっかりと聞いたうえで選手起用を判断していると思いますし、そういう意味では自分のカラーはあまり出していませんよね。逆に言えば、そこが特長なんじゃないですか。
あと、ベンチ内の光景で微笑ましかったことがあって。たしか、岸田監督がリクエストで初めて成功した時だったかな。「ありがとうございます!」とすごく低姿勢に頭を下げたんです(笑)。おそらく、リクエストをずっと失敗していたんですよ。岸田監督らしいな、と思って見ていました。そういう雰囲気づくりは相変わらず上手だなと思います。
――星野さんが以前お話されていましたが、岸田監督は選手時代もコーチ時代も兄貴的な存在だったそうですね。
星野 岸田監督は選手時代にリーグ優勝を経験できなかったのですが、コーチ時代に優勝できた時に、平野佳寿や比嘉幹貴が近寄って一緒に喜んでいたんです。コーチなんだけど、選手みたいな扱いをされていて(笑)。その姿を見て、人徳かなと思いましたし、そういった部分もあって監督に抜擢されたような気がします。
チームとして、前半戦は及第点の出来だったと思いますが、反省点も多々あるはずです。正念場はここから。故障者が増えてきているなか、どんな選手起用と采配を見せてくれるのか注目しています。
【プロフィール】
星野伸之(ほしの・のぶゆき)
1983年、旭川工業高校からドラフト5位で阪急ブレーブスに入団。1987年にリーグ1位の6完封を記録して11勝を挙げる活躍。以降1997年まで11年連続で2桁勝利を挙げ、1995年、96年のリーグ制覇にエースとして大きく貢献。2000年にFA権を行使して阪神タイガースに移籍。通算勝利数は176勝、2000三振を奪っている。2002年に現役を引退し、2006年から09年まで阪神の二軍投手コーチを務め、2010年から17年までオリックスで投手コーチを務めた。2018年からは野球解説者などで活躍している。