【焼きラーメン】真夏の昼酒場は大人の給水所。そこで食べた人生初の焼ラーメンが、自分好みすぎて......:パリッコ『今週のハマりメシ』第196回

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2025年07月25日 12:10  週プレNEWS

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赤羽にある「ひとめぼれ」の博多焼きラーメン

ある日、あるとき、ある場所で食べた食事が、その日の気分や体調にあまりにもぴたりとハマることが、ごくまれにある。

それは、飲み食いが好きな僕にとって大げさでなく無上の喜びだし、ベストな選択ができたことに対し、「自分って天才?」と、心密かに脳内でガッツポーズをとってしまう瞬間でもある。

そんな"ハマりメシ"を求め、今日もメシを食い、酒を飲むのです。

【写真】厚切りのサーモン

* * *

午前中から赤羽で用事があったので、せっかくだから僕の最新の著書『ごりやく酒 神社で一拝、酒場で一杯』でも訪れた「赤羽八幡神社」へお詣りに。赤羽八幡神社は、世にも珍しい、新幹線のトンネル上に鎮座する神社(正確には本殿ではなく社務所が新幹線のトンネル上)だ。取材の時以来1年ぶりになってしまったが、お礼を伝えに来られて良かった。


気分すっきりで時刻は昼過ぎ。場所は赤羽。さらにこの日は、3分も歩けば頭がクラクラしてくるほどの猛暑日。となれば、軽く昼飲みをして帰らないわけにはいかないだろう。なるべく日差しを避けつつ駅前エリアまで戻り、たどり着いたのはアーケード商店街である「一番街シルクロード」。


赤羽と言えば漫画家、清野とおるさんの『東京都北区赤羽』シリーズを思い浮かべる人も多いことだろう。僕は清野さんとはかなり古い飲み友達で、漫画に出てくるような十数年前のカオスな赤羽を、ともに思うぞんぶん堪能できたことは、とても幸運なことだと思っている。近年の赤羽はどんどん近代的な街に変化しており、街を代表するおでんで飲める立ち飲み「丸健水産」を擁するアーケード街、一番街シルクロードにも、真新しい店がずいぶん増えたようだ。

明るいうちから飲める店も多く、平日の昼間にも関わらず、若人たちを中心ににぎわうそういう店たちを冷やかしつつ歩いていたら、ある店の前に立っていた女性の店員さんに声をかけられた。

「ビール1杯だけでもいかがですか? 店内、クーラーきいてますよ!」

そこにちょうど出てきた男性の店員さんがたたみかける。

「お兄さん、いかがでしょう!? 今月できたばっかりの店なんです!」

個人的にはもうちょっと古い酒場か定食屋でも探そうと思っていたんだけど、この流れにのってみるのもおもしろいかも? と、ふと思う。というか、暑過ぎて一刻も早く生ビールが飲みたいし、なんとこの店の生ビール、破格の税抜319円だし!

行き過ぎそうなったところをUターンし、「じゃあちょっと呼ばれて」と入ってみることに。


なにはともあれ生ビールを注文し、涼しい店内でぐいっとやって人心地。昼酒場は本当に、大人の給水所だな。


店名は「ひとめぼれ」というらしく、マスコットキャラクターらしきイラストが、焼鳥を両手に持ったにわとりで、その横に「焼き鳥 野菜巻」という文字があるから、鶏が中心の店と思われる。けれども今の気分は魚かな。「豊洲直送」と書かれた鮮魚メニューのなかから「本日のお造り(サーモン)」(649円)を選んでみる。ちょっとした野菜系もなにかあってもいいかなと思いきや、すぐに切り干し大根とにんじんとあげの煮ものがお通しでやってきたので、そいつをつまみつつ様子を見ることに。

ほぼひと息で飲み干してしまったビールに続き、「ホッピー白セット」(539円)とともにやってきたサーモン刺。その想像以上の存在感を見て顔がほころんだ。


まずサーモンが見るからに上質で、しかもかなりの厚切りが5枚。美しく四角に成形されたわさびと醤油をちょんとつけて1枚食べてみると、うん、絶品。


しかも、見るからにフレッシュな、わかめをはじめとした海藻盛りと、大葉の下の、大根ではなくて玉ねぎの細切り。これらに醤油をかけるとそれが上等な酒のつまみになってしまうという嬉しさ。赤羽の新店、めちゃくちゃありじゃないですか。

そういえば今日はランチがまだだったから、このままここで食べていってしまおう。そう思い、ごはんもののコーナーを見ると、ラインナップは3種。「お茶漬け(梅・韓国海苔・いぶりがっこ)」「焼き鳥丼」「博多焼きラーメン」。ここで店の看板メニューである焼鳥チャンスか!? とも思ったものの、その横の「博多焼きラーメン」がどうしても気になってしまう。焼きラーメン、聞いたことはあるし、なんとなくの想像はつくけど、今まで食べたことがない料理な気がする。ひとめぼれさん、すいません。次回必ず焼鳥を頼ませてもらいますんで、今日は邪道なチョイスでいかせてください! というわけで、焼きラーメンを。


酒場のシメメニューで読めないのは、まずその量。あれこれ飲み食いした人にもちょうどいいよう、ミニサイズのこともよくあるが、届いてみてびっくり。かなりの大皿に、どーんと迫力のある量でやってきた。これは早めにシメに移行して正解だったかもしれない。

しかも、メンマ、紅しょうががケチケチした量でなく、ふたつずつのったナルトとうずらの玉子もなんともかわいらしい。では、いただきます!

焼きラーメンは、福岡県天神の屋台が発祥といわれるご当地グルメ(それ以外の地域にもいくつかあるらしい)。メニュー名に「博多」とついているのでその系譜と思われるものの、博多と天神は別の街で、東京にある「博多天神」というラーメンチェーンの名が、九州出身者からすると違和感があると聞いたこともあるので、詳細はわからない。が、僕はそのあたりの詳しい事情にこだわりはないので、ただうまそうだなと食べはじめる。


麺が、ぶりんぶりんのつるつるのもちもちで、その表面に絡みつくのはとんこつ醤油ベースのたれだろうか。こってりと濃厚で太めの麺に負けておらず、正直かなりうまい。また、たっぷりのキャベツ、もやし、ねぎがしゃきしゃきと歯ごたえ良く、そこにメンマや紅しょうがの風味と食感が徐々に融合しだすと、酒も、箸を口に運ぶ動きも加速する。人生初の焼ラーメン。正解を知らずに食べているものの、脳内で素直に「ンマーイ!」と叫べる、大好物だ。


加えて嬉しかったのは、具材の肉が鶏だったこと。申し訳なくも今日はあきらめてしまっていた鶏肉と、まさかこんなところで出会えるとは。しかもこの肉が、掘っても掘ってもザクザク出てくる。さすが専門店だけあり、ぷりぷりで旨味濃厚。ラーメン的な料理に入っているという意外さも含め、ものすごく満足感がある。ふと鶏皮を噛み締めた時も、ふわふわの食感とじゅわっと広がる鶏油の旨味に、大いなる幸せを感じる。

無我夢中ですすりつくして、ごちそうさま。

大満足で、当然お仕事の一環ながらだろうけれども店員さんに声をかけてもらい、そして直感を信じて入ってみて良かったと余韻に浸るのだった。この出会いもまた、赤羽八幡神社の"ごりやく"だったのかもしれない。

取材・文・撮影/パリッコ

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