『僕の心のヤバイやつ』桜井のりおが語る、京太郎と山田の心の変化「今は二人の関係が深まっていくところ」

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2025年07月27日 13:00  リアルサウンド

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『僕の心のヤバイやつ』12巻カバーイラスト (C)桜井のりお(秋田書店)2018

 桜井のりお氏による人気ラブコメ漫画『僕の心のヤバイやつ』 (通称:僕ヤバ)。2023年にはアニメ化(テレビ朝日系)され、来年には劇場版の公開も控える話題作だ。


参考:【写真】『僕の心のヤバイやつ』桜井のりおの直筆イラスト&サイン入りのコミックス


 陽キャに憎悪を抱く「中二病」の市川京太郎は、学園カースト頂点の美少女・山田杏奈の殺害を夢想する。 しかし、山田の意外な一面を知ってしまうことで、二人の距離が縮まっていき……? そんな陽キャ美少女と陰キャ男子の恋愛模様を描いている。


 リアルサウンドブックでは桜井のりお氏にインタビューし、キャラクター造形の背景、アニメ版や劇場版に対する思いについてなど、じっくり話を聞いた。


■「京太郎は人一倍、周りの人のことを見ている」


――本作は陰キャ男子の京太郎が、学園アイドルの山田と恋愛をする話です。京太郎は桜井先生ご自身が投影された存在でもあるそうですが、どのように彼は生まれたのでしょうか。


桜井:私も中学生の頃はひねくれていて、誰とも仲良くできないようなタイプだったんです。人をあまり信用していないんですけど、そもそも自分のことが嫌いで信用していなかったんですよね。そんな人間性を深掘りして描きたいなと思いました。


 ただ、京太郎をどういうキャラクターにするかは、そこまで深く考えたわけでもなくて。「自分が中学生だった頃はこんなやつだったな」「周りの人はこうだったな」と考えながら、少しずつ投影させました。「もしこういう場面でこう言われていたら、こういう反応をしていただろうな」ということも想像しました。今の視点で振り返ると、もっと違う学生生活を送れていたかもなと思いましたね。


――京太郎は一見コミュ障ですが、無遠慮な言動も実は鋭いツッコミになっていたり、愛嬌があったりします。それが個性的で、周りのクラスメートとも独特のコミュニケーションが成り立っていました。


桜井:京太郎は人一倍、周りの人のことを見ているんですよね。「この人に対しては強く言ってもいい」「この人には言い過ぎないほうがいい」など、無意識に察知しているんだと思います。そこは私自身はできないことですね。「これを言ったら傷つくのかな」というギリギリのラインがわかってるから、山田もそこに惹かれていくところがあるんだと思います。


――本作の名シーンの一つは、京太郎が山田への恋心を自覚する場面だと思いました。彼女の傷つく姿を見て、気になってしまう。このシーンはどのように生まれましたか。


桜井:まず、体育館で山田が鼻血を出して保健室に行くシーンがあるんですけど、これは中学生ではありがちなシチュエーションじゃないですか。そういう「あるある」を織り交ぜて描きたいというのは、最初からあったんです。この場面では、京太郎はいけすかないと思っていた山田のことを、無意識に心配していることに気がつく。そこでは京太郎と山田の関係性を、ダイレクトに一コマで表せる絵面にしたいと思いました。ベッドの下に潜り込んでいていて、一見ストーカー的なんですけど、象徴的なシーンにできたと思っています。


■緩やかに、確かに変わっていく二人の関係性


――最新12巻では二人の関係に進展がありました。


桜井:そうですね。京太郎は恋心をいかに取り払おうかとしていたのが、今はそれをいかに飼い慣らせるかという段階に進んでいます。今は3年生の秋・冬なので当初の想定よりは早いペースで関係性が深まっていますね。京太郎が今超えるべき問題は、過去の自分を許せるかどうかということです。


 そして受験という要素も入ってきます。山田との関係性をもう一歩先に進めていいものなのか。それは自分たちにとっていいことなのか。山田の環境も変わる中、一段階大人になるとはどういうことか。そういうところが核になっています。


――その山田は先生の推しを凝縮したキャラクターだそうですね。元「モーニング娘。」の亀井絵里さんを一部モチーフにしていると伺いましたが、どのように着想したのでしょう。


桜井:山田はすごく可愛いんだけど、自分中心に生きていて自分勝手なんですよね。でもそれに対して、誰も反感を持っていない。私はそういう女子がすごく好きなんです。嫌な感じにならないように、自分勝手な女子を描きたいなと思いました。


――山田は誰の目から見ても魅力的に映っていますね。異性に対する媚びがないと言いますか。


桜井:まだ中学生だからこそ、あざとさみたいなものがないのはあるかなと思います。高校生以上になると自然とあざとくなっていきそうな気もします。


――陰キャの京太郎と恋愛関係になるのが、自然に描かれているのがすごいと思います。山田が京太郎に好意を抱いたきっかけはあったのでしょうか。


桜井:ひとつのきっかけがあったというより、今までの積み重ねがあって段々と気がついていったんだと思います。あえて言うなら、山田は今まで自分勝手に生きてきた。でも振り返ってみたら、京太郎はいろんなことをしてくれたなと気づいた時が好きになったきっかけでしょうか。


――確かに本作では必ずしもドラマチックな展開があるわけではないですが、二人が自然と恋に落ちていくところがありますね。


桜井:夢のある話にしたいと思っていて。大事件が起きて、それをかっこよく解決するようなことは、日常では起こりえないじゃないですか。現実で起こりうる範囲で、いろんな善行を積み重ねていけば、こういうことも起こるんだということを、読者の方にも夢見てほしいと思っています。


――先生は、女優・タレントとしての山田をどう見ていますか。


桜井:山田は、京太郎と出会っていなかったら天真爛漫なだけの女子のままだったと思います。京太郎と出会ったからこそ彼の人間性の深い部分、悲しみとか暗い部分とかを理解できて、結果女優としての深み・タレントとしての面白さが出てきたのかなとも感じています。


■おねえに濁川くん、サブキャラクターたちの存在


――サブキャラクターに目を向けると、例えばおねえ(京太郎の姉)がいることで、2人の切ない青春恋愛ラブストーリーとは違うドラマも見せてくれているように思います。


桜井:最初の頃は京太郎が「中二病で思春期なんだけどお姉ちゃんに可愛がられている」キャラということを出したくて登場させたんですけど、そこから時が経つにつれて、大学生から見た中学生の恋愛とかが視点として描きやすくて出番が増えてきました。


――濁川くん(京太郎のイマジナリーフレンド)も、京太郎が抑えている中二病的な妄想を引き出してくれたり、勇気が出ない時に背中を押してくれたりと物語の上で重要なキャラだと思いますが、ここまで活躍するとは想定されていましたか。


桜井:最初は京太郎が家の中で山田とのやりとりを反芻する回を描く際に、地味にならないように一発ネタのつもりで出したキャラだったんですけど、すごく便利だったのでその後も登場させています(笑)。


 いかに自分を肯定してあげられるかというのが裏テーマ的な部分であるので、京太郎が内なる本音を自分自身にぶつけて奮い立たせる時などに活躍してくれています。


■アニメ、劇場版、スピンオフ……広がるメディアミックス


――本作はアニメ化もされていますが、それを見たご感想を教えてください。


桜井:やっぱり音楽がつくと、本当に感動的になりますね。そして声優さんの演技も想像を超えてよかったんです。漫画ではもうちょっと感動的に描きたかったなというシーンを、アニメーションでは増し増しで演出してくださって。あとは背景の美しさとの組み合わせも相まって素晴らしいものにしていただけたと思います。


 漫画は結構詰まっている部分が多いので、それをアニメ化すると早足になってしまうかもしれないと思っていました。でもちゃんとアニメでは間を取ってくれるところもよかったですね。


――劇場版の公開も来年に控えていますね。どんな思いを抱いていますか。


桜井:まだ全然想像できないです(笑)。どんな感じになるのか、劇場でお客さんがどんな顔で出てくるのか、気になりますね(笑)。特にライブのシーンは、楽しみにしてもらえたらと思っています。


――映画よりひと足先に、7月22日からは”おねえ”を主人公としたスピンオフ『僕の心のヤバイやつ ラブコメディが始まらない』の連載も始まっています。


桜井:おねえもそうですが、陣くん(おねえのバイト先の同僚)の、成人男性の可愛いらしい部分とかかっこいい部分というのは今まで私も描いてこなかった部分なので、そこを得意な七坂ハイカ先生に描いていただけるので期待したいです。京太郎と山田とは違った男女の関係性が一番肝になってくると思うので楽しみです。


――読者にぜひメッセージをいただきたいです。まず最初から最新刊まで読んでいるファンに向けて、一言もらえませんか。


桜井:リアルタイムで追っていると、ヤキモキしてしまうかもしれません。今は本当に甘々期間というか、ちょうど二人の関係が深まっていくところなので、それを楽しみにしていただけたらと思います。


――これから初めて作品に触れる読者にメッセージをお願いします。


桜井:ラブコメは好きな人しか読まないというイメージがあります。私自身、そんなに読んでこなかったんです。でも、普段ラブコメは読まないという人にこそ、ぜひ読んでいただきたいです。ラブコメなんだけど、キュンキュンするだけじゃなくて、心が動くものを描こうと思ってきました。誰にでもある感情の変化を、誰にでもわかるように描きたいんです。ぜひそこに注目していただきたいです。


(C)桜井のりお(秋田書店)2018


(文・取材=橋川良寛、校正=篠原諄也)



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