鬼滅の刃 23 (ジャンプコミックス) ―[貧困東大生・布施川天馬]―
7月18日に公開された『劇場版鬼滅の刃 無限城編 第一章』はご覧になったでしょうか?
大変な混雑が予想されたため、私はあえて平日の昼間に休みを取って観に行ったのですが、なんと満席。客層も老若男女問わず、様々な世代から支持されていることが再認識できました。
第一章では猗窩座との戦い以外にも、様々な戦いと人々の葛藤が描かれます。私が一番好きなキャラクターである善逸が活躍していたのも、ファンにとってはうれしいポイント。
普段は頼りないのに、キレると強い。そのギャップに惚れこむ人が後を絶たないのも納得できます。
ただ、善逸が魅力的なのは間違いありませんが、ちょっと危うさを感じる部分もある。
これまで私は受験現代文プロ講師として活動する傍ら、教育ライターとして100人以上の東大生・早慶生を取材してきましたが、その中でも大学進学以降の人生に迷ってしまう人々と共通する因子を感じたのです。
今回は「頑張れる人と頑張れない人のたった一つの違い」を考察します。
◆頑張れるか否かは「先に進む力」が決める
近年の教育カリキュラムでは「生きる力」が重視されます。
文部科学省の資料によれば「変化の激しいこれからの社会を生きるために、確かな学力、豊かな人間性、健康・体力の知・徳・身体をバランスよく育てること」を重要視しており、「知・徳・体のバランスの取れた力」を指すようです。
つまり「主体的に自分で考えて動ける人材」を育てることが急務になっているようですが、そのための動きとして近年活発になっているのが、大学入試の推薦入試への移行です。
東大を含む様々な国公立大学で推薦入試が行われ、いまや推薦入試を利用して大学に入学する受験生が過半数を占める時代。少し前の世代の方からすれば、信じられないと顔を青くされるかもしれません。
ですが、実際には推薦入試で入った方ほど大学在学中や卒業後にエネルギッシュな活躍をされているように感じます。
少なくとも、私が取材した限りでは、優秀で、取材時のやり取りもスムーズであり、こちらの意図を汲んだ受け答えをしてくださる「一を聞いて十を知る」を体現したような方がほとんどでした。
◆善逸の“危うさ”の正体
この理由は、きっと先述の「生きる力」にあります。
東大や早慶など難関大の推薦を勝ち取るためには、高校時代から研究テーマを決めて、研究設備や資源、資金などバックアップが薄い中で主体的に研究する姿勢が求められます。
これは、ただ毎日塾に通い、出された課題を解いているだけでは決して手に入らないものであり、現代の教育現場で何よりも求められている「生きる力」そのものでもあります。
私は、先ほど「善逸には危うさがある」と言及しました。その真意は彼が「能力があるけれど、力のベクトルが決まっていない人」だからです。
このような人は、大学進学後に手持無沙汰になり、堕落的な生活を送ったり心身に不調をきたしたりするパターンに陥りやすい。
炭治郎や伊之助は鬼殺隊に向いている。なぜならば、炭治郎は「鬼舞辻無残を倒す」など目標があり、伊之助は「鬼殺の戦い自体が好き」だからです。大学でやりたいことが決まっていたり、勉強自体が好きだったりするタイプは、大学以降の道も定まりやすい。
一方で、善逸のように「力があっても振るう先がない」場合は厄介です。自分が打ち込める目標を探さなければ、何をやってもしっくりこない。
「できるからやれ」と言われても、仕事でできるほど割り切れないと、ストレスがたまる。結果、「能力はあるのに、パッとしない人」が出来上がります。
◆「パッとしない人」にならないためには
解決策は、目標を見つけることでしょう。
善逸の場合には、柱稽古編で届けられたある手紙をきっかけに、戦いの目標が定まりました。手紙を読む前とそれ以後の彼の修業に対する姿勢の変化には、驚かされた読者も多いのではないでしょうか。
彼の場合はアクシデント的に目標が見つかりましたが、普通きっかけは向こうからやってきません。自分が何に向いているかは、普通見当がつかないでしょう。
だからこそ、かつて様々な大人が「自分探し」をしたように、自分に何が向いているのか、未踏の分野にチャレンジし続ける勇気が必要になるのかもしれません。
やったことのない職種のバイトに応募したり、新しいコミュニティに所属して交友関係を増やしたり、できることは様々あります。
「数うちゃ当たる」の世界ではありますが、ともすれば、ライフワークが見つかるかもしれません。
人生100年時代ともいわれる現代ですから、余暇を気持ちよく過ごせる友を探しておくことが、QOLに直結するのでしょう。
―[貧困東大生・布施川天馬]―
【布施川天馬】
1997年生まれ。世帯年収300万円台の家庭に生まれながらも、効率的な勉強法を自ら編み出し、東大合格を果たす。著書に最小限のコストで最大の成果を出すためのノウハウを体系化した著書『東大式節約勉強法』、膨大な範囲と量の受験勉強をする中で気がついた「コスパを極限まで高める時間の使い方」を解説した『東大式時間術』がある。株式会社カルペ・ディエムにて、講師として、お金と時間をかけない「省エネ」スタイルの勉強法を学生たちに伝えている。(Xアカウント:@Temma_Fusegawa)