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「なぜこの部長の話は、こんなに長いんだ……」
定例会議で、営業部長が新商品開発プロジェクトの進捗報告を始めた。2分で終わる話を20分に膨らませる「メタボな話し方」が全開だった。
聞いている側は思考停止状態に陥り、新入社員の一人はうとうとし始める始末。話し手は丁寧に説明しているつもりでも、聞き手は「なぜこんなに遠回りするのか」と感じてしまう。
そこで今回は、「メタボな話し方」を劇的に改善し、シンプルに伝えられる3つのポイントについて解説する。話が長いと指摘されて悩んでいる人は、ぜひ最後まで読んでもらいたい。
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著者プロフィール・横山信弘(よこやまのぶひろ)
企業の現場に入り、営業目標を「絶対達成」させるコンサルタント。最低でも目標を達成させる「予材管理」の考案者として知られる。15年間で3000回以上のセミナーや書籍やコラムを通じ「予材管理」の普及に力を注いできた。現在YouTubeチャンネル「予材管理大学」が人気を博し、経営者、営業マネジャーが視聴する。『絶対達成バイブル』など「絶対達成」シリーズの著者であり、多くはアジアを中心に翻訳版が発売されている。
●「メタボな話し方」では伝わらない
先日、このようなことがあった。ある定例会議にて、営業部長からプロジェクトの進捗を聞いたのだが、いわゆる「メタボな話し方」だった。
「それでは、私から新しい商品開発のプロジェクトの進捗について話したいと思います。この進捗状況を皆さんに、キチンと伝えることがリーダーである私の責任ですから、しっかりと聞いてほしいです」
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「たまに、進捗状況なんて必要ないと言う人がいます。しかし私はそう思いません。いや、思いたくない、と言ったほうがいいでしょうか。進捗状況を定期的にお伝えすることが、どれほど大事なことなのか知ってほしいのです。プロジェクトがどのように進んでいるのか、どこでつまずいているのか、メンバーはどんなことで悩んでいるのかを知ってもらえると、私はうれしいですし、メンバーも励みになると思うんです」
脱線こそないものの、ぜい肉のついた言い回しがやたらと多い。2分で終わりそうな話を20分ぐらいかけて話そうとする。まさにメタボ状態だ。
「プロジェクトがうまくいくかどうかは、もちろんメンバー次第ではあります。もちろんそれは分かっています。ですが、とはいえ、今日のこのプロジェクトに関係のないといったら変ですが、会議に出席されている皆さんにだって、もちろん無関係ではないですから、先ほど言ったように、しっかりと私が話すプロジェクトの進捗状況を聴いてもらいたいと思っています」
核心部分にたどり着くまで、ひたすら冗長なフレーズを重ねていく。聞き手は次第に思考停止状態となり、新入社員の一人は途中でうとうとし始めていた。
私はコンサルタントとして同席していたが、話を聞きながら、どう要点をまとめればいいかばかり考えていた。
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「メタボな話し方」とは、言い回しがやたらと長く、聞き手にとってくどいと感じられる話し方だ。話の流れは崩れていない。しかし前置きや、よけいなフレーズをいくつも重ねることで、かえって要点が見えにくくなる。
話し手自身は「丁寧に説明している」つもりであっても、聞き手からすると「なぜこんなに遠回りするのか」と感じ、集中力が徐々に削がれていく。
●情報が多すぎると相手は理解できない
1956年、プリンストン大学の心理学者ジョージ・ミラーは「マジックナンバー7±2」という概念を発表した。人間の短期記憶には一度に7つ前後(5〜9個)の情報しか保持できないという法則だ。
しかし2001年、ミズーリ大学のネルソン・コーワン教授は、このマジックナンバーを再検証した。彼の研究によれば、人間のワーキングメモリの実質的な容量は「4チャンク(情報のまとまりの単位)程度」が現実的な数字だという。
さらに衝撃的だったのは、ミシガン大学のジョン・スウェラーの実験結果だ。彼は情報の種類や難易度によっては、実質的な処理容量が「2チャンク程度」にとどまることを発見した。つまり、難しい内容を伝える場合、人間は2つの新しい情報を処理するだけで精いっぱいになる可能性があるのだ。
なぜミラーの「7±2」と実際の処理能力にこれほどの乖離(かいり)があるのか。答えは「チャンク化」にある。例えば、電話番号「0312345678」は9桁の数字だが、「03-1234-5678」と区切れば3つのチャンクとして記憶できる。情報を意味のある塊にまとめることで、処理能力は拡張できるのだ。
しかし重要なのは、チャンク化できるのは「既知の情報」に限られるということ。初めて聞く複雑な概念や専門用語は、チャンク化が難しく、1つ1つが独立した情報として処理負荷がかかる。
私も会社法の専門家と話をしたとき、なかなか頭に入らなかった。一つ一つ丁寧に説明してもらって、初めて理解することができた。前提となる知識が私に足りなさ過ぎたせいだ。
●シンプルに話す3つのポイント
では、どうしたらシンプルに話すことができるのか。そのためには、次の3つのポイントを意識すべきだろう。
目的を明確にする
まず何より、相手が本当に知りたいことを見極めることだ。顧客に新商品を説明する際、性能や機能を全て伝えたくなる。しかし、相手が求めているのは「この商品で何ができるのか」という一点だ。
メッセージを1つに絞る
次に、メッセージを1つに絞ろう。相手視点で目的が明確になったら、その目的に合わせたメッセージを決める。メッセージが決まれば、自然と引き締まった内容になる。
構成を決める
メッセージが決まったら、メッセージに合わせた話し方の構成を考えよう。そのメッセージを先に伝えたほうがいいのか。それとも最後に伝えるべきなのか。構成が決まることで、テーマから脱線するリスクも減る。
あるスポーツインストラクターは初心者を指導するとき、手の使い方を1つ、足の使い方を1つ――最初はそれだけしか教えないと言っていた。いきなり難しいステップをやらせたり、複数のマシンを使わせたりはしない。そのほうが上達が速いし、継続率が高まるそうだ。
●半分に削って2倍伝わる話し方
先日、ある経営者から印象的な話を聞いた。『フランス人は10着しか服を持たない』(大和書房)という本を読んで、プレゼンの極意を学んだという。フランス人は服を10着ほどに絞り込む。しかし、それは決して窮屈ではない。むしろ、シンプルに整理することで、自分らしさが際立つのだという。
話し方も同じではないか。情報を詰め込めば詰め込むほど、かえって伝えたいことが埋もれてしまう。
ある営業部長は、新商品の提案資料を半分に削ったという。もともと20枚あったプレゼン資料を、思い切って10枚に減らしたのだ。確かに説明したいことはまだまだあった。しかし「商品の特徴を先に伝えるか、顧客の課題を先に伝えるか」と考えた末、顧客視点で資料を組み立て直した。すると、かえって反応が良くなったという。
「細かい説明は、関心を持ってもらってから後日させてもらえばいいんです。むしろ、最初に全部話してしまうと、顧客が消化不良を起こしてしまう」
まさにフランス人のクローゼットと同だ。最初から情報をフルで出す必要はない。周りから「話が長い」「回りくどい」といわれる人は、思い切って3分の1に削ってみるのもいい。スライドなら10枚を3〜4枚に。足りない情報があれば、相手の反応を見ながら足していけばいい。
集中力には限りがある。多くを語れば語るほど、相手の理解は深まるわけではない。むしろ必要最小限に削ぎ落とすことで、伝えたい本質が際立つ。シンプルに整理することは、相手への最大の配慮なのだ。
●話し方を180度変える勇気
「話し方」にこだわっている限り「自分視点」から抜け出すことができない。政治家やアナウンサーになるのならともかく、話す相手のことを無視してトレーニングに励むのはよそう。
だから、話し方を180度変える。そしてそのためには、“勇気”が必要だ。
フォーマルな服装のほうがいい人もいれば、くだけたカジュアルな装いのほうが心を開く人もいる。同じように、話し方も「相性」というものがある。そのことをしっかり頭に入れよう。
例えば、長年プレゼンの研修を受けてきた人が、念入りに準備したスライドを使った。理論武装し、完璧な構成で話したとしよう。研修の講師や、一緒に学んだ仲間からは絶賛されるかもしれない。
しかし、それらの知識をフル装備でプレゼンに望むと、いかにも「学んだことを披露したい」という雰囲気が前面に出てしまう。聞き手である顧客からすると「本当に自分たちのことを考えて話しているのだろうか」と疑問を抱かれる場合もある。
だから、思い切ってスライドを減らす。シンプルな言葉だけに絞る。そうすることで、いつになく好反応だった、という話はよくあることだ。
●ダ・ヴィンチの格言から学ぶ
「メタボな話し方」に悩んでいた営業部長は、この3つのポイントを実践することで劇的に変わった。会議での進捗報告は2分で終わるようになり、部下たちも集中して聞くようになった。
レオナルド・ダ・ヴィンチは「簡潔さこそが究極の洗練である」と言った。話し手は本気になればなるほど力が入る。しかし余分な説明や言い回しを削ぎ落としたシンプルな形こそ、本質の部分がクリアに浮かび上がる。
情報過多の時代において「情報を減らすコツ」が重要視されつつある。たくさんの言葉を並べれば伝わるわけではない。むしろ、余計な言葉を削ぎ落とすことで、本質的なメッセージが際立つ。シンプルに話すとは、相手への最大の思いやりなのだ。
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