鈴木彰訓氏 [写真]=須田暉輝 株式会社NTTドコモが近年、Jリーグとの関係性を深めている。2017年にトップパートナー契約を締結。2023年からはJリーグと共催でJリーグワールドチャレンジ(JWC)を開催し、ヨーロッパの強豪クラブを招聘しており、今年も7月30日に日産スタジアムで『明治安田Jリーグワールドチャレンジ2025 presented by 日本財団』として、横浜F・マリノスvsリヴァプールを行う。
2024年にはドコモを代表企業とし、前田建設工業株式会社、SMFLみらいパートナーズ株式会社、Jリーグが構成企業として参画するコンソーシアムが国立競技場の運営権を取得。2025年に入ってからは携帯電話の新料金プラン『ドコモ MAX』を発表し、Jリーグを配信するDAZNが追加料金なしで見放題となるプランとなった。さらに、4月にはJリーグとの新たな協業ビジョン『チームになろう。』を掲げた共同プロジェクトを発足している。
JWCの開催を控え、ドコモのスポーツ戦略を牽引しJWC現場統括を務める、当時エンターテイメントプラットフォーム部担当部長の鈴木彰訓氏(現在、カスタマーサクセス部担当部長)に、ドコモとしてのJリーグとの向き合い方や、JWCの意義についてなどを聞いた。
インタビュー=小松春生
写真=須田暉輝、J.LEAGUE
―――これまで鈴木さんはどういったお仕事をされ、サッカーと関わってこられたのでしょうか?
鈴木 1999年に入社し、iモードのコンテンツ開拓、プロモーションなどを経て、おサイフケータイの立ち上げに関わりました。その後は電子マネー『iD』の普及、法人営業を経験し、2015年からはdポイントの加盟店対応をしてきました。Jリーグに関しては、個人的に毎週末、試合を見に行くなどしていたので、そこにdポイントを導入したいと考えてきました。2023年からはJリーグ担当として基盤づくりを頑張っているところです。
―――個人としてJリーグを長く応援しているそうですね。
鈴木 26年くらいになります。これまで40クラブ以上のスタジアムに足を運びました。スタジアムにどのような盛り上がりがあるかを見てきていますし、サポーターのクラブに対する思いも、今まで見てきた自負があるので、サポーターが喜ぶような仕組みをどこまでやっていけるかと考えてきました。60クラブ、それぞれのクラブにドラマがあることは、社内のメンバーに伝え、好きなクラブを見つけ、週末を迎えてそのクラブを見てほしいと伝えています。
―――ドコモは2017年6月にJリーグとトップパートナー契約を締結しました。
鈴木 クラブは来場者の増加を重視しています。来場者が増え、クラブの価値が上がると、パートナー企業の広告価値も上がりますし、ホームタウンなど周囲に対しての影響力が上がっていくので、各クラブが露出を意識していたと思いますし、我々に期待された部分でもあったと思います。ドコモは47都道府県に支店があり、その上に支社がありますし、それ以外にも全国にドコモショップもあります。そういった露出面含め、Jリーグ、クラブにパートナーとして受け入れていただいたと思います。サポーターから見れば、自分の街のクラブにどれだけ協力しているのかは、すぐ結果が出ることではないと思っています。ただ、積み重ねてきたことが形になってきたクラブも少しずつ出てきているとは思っています。
またパートナーシップにおいて各クラブと地域経済活性化に関する協業契約を進めたり、5Gを活用した新しい観戦体験を提供するイベント、Jリーグのチケットをd払いで購入いただくとdポイントが進呈されるキャンペーン、『明治安田Jリーグワールドチャレンジ』の共同開催、『Lemino』でのJ3、JリーグYBCルヴァンカップの無料配信など、Jリーグにおける興行やコンテンツ配信の取組みも行ってまいりました。Jリーグが持つ、地域と人をつなぐ力と、ドコモのアセットを掛け合わせることで、クラブやサポーターの皆様と一緒にJリーグを、そして日本のサッカーを盛り上げる一助になっていたのではないかと考えております。
―――2023年からJリーグの直接の担当となりました。
鈴木 それまではJリーグチケットでのd払いによってのポイントバックや、マーケティングデータの集客への活用といった取り組みはしていました。ただ、単一クラブではなく、J1〜J3まで年間で取り組むものを作りたいと思い、Jリーグが掲げる成長戦略の一つである『60クラブがそれぞれの地域で輝く』について、みっちり考えました。スタジアムに来てもらうにはどうすればいいかというところで、まずは認知。そして行ってみたいと思ってもらえるために、日常生活におけるクラブの露出を高めることを考えました。ニュースなどで試合の結果を知ってもらい、「勝ったみたいだから、次行ってみよう」と思ってもらうことや、グルメフェスや子どもとスタジアムで試合前に遊べるといった企画をやっていることなど、いろいろなきっかけから来場していただくことが、大事です。ただ、来場した後に「次も行きたい」と思ってもらうことは、なかなか難しいです。劇的な展開で勝利したような試合を見てもらえれば「次も」となりやすいのですが、そのような試合は10試合に1試合あるかないか。ただ、その試合が当たるためにも、まずは来場してもらいたいとクラブの方もよく言っていたので、来場のきっかけをドコモとして作れないかと考え、ホームタウン地域でのクラブの露出拡大および経済圏活性化を目指すローカル戦略という取り組みを実行してきました。
―――ビジネスパートナーからもう一歩踏み込んだ形ですね。
鈴木 来場するきっかけを作り、どのスタジアムにも1万人以上入ってほしい思いを持ってやってきました。例えばスタジアムでdポイント、d払いを使っていただき、それが決済手段のデファクト・スタンダードとなれば、その後の日常生活で使っていただける。そこでの収益をJリーグ、各クラブにさらに還元していきたいと考えています。お客様がドコモと接していただき、スタジアムに来場して楽しかったと思える施策を、クラブと一緒に考えてやっていくことが大事だと思って、取り組んでいます。
―――クラブと一緒に取り組むことで、クラブのマンパワー不足をフォローできます。
鈴木 そうですね。例えば、『d払い×クラブ応援店』という、クラブを応援していただける店舗でのキャンペーンを行っています。その営業活動は弊社で行っています。クラブにも規模差があり、あまり営業に回れないクラブもあります。そこを我々が個人商店やチェーン店にアプローチし協力させていただくことで、クラブにも喜んでいただけると考えております。
―――ドコモとしては7月30日の『明治安田Jリーグワールドチャレンジ2025 presented by 日本財団』横浜F・マリノスvsリヴァプールをJリーグととともに開催します。
鈴木 JWCは2023年からドコモが主催に加わり、私はその年の協賛営業の責任者を、昨年は現場統括を務めました。今年は、リヴァプールに来日していただき、昨年の反省も踏まえて一点集中でプロモーションなどをしています。グッズやホスピタリティなども取り組みを整理しました。チケットはすでに完売(一部見切れ席は販売中)していますし、協賛も昨年以上にいろいろな企業様にご興味を持っていただけました。
ただ、最後は当日来場するお客様が、今までの試合以上の感動や価値を感じて帰っていただけるかどうかが大切です。試合日に向けて、その準備を進めています。今年は今までで一番、いろいろな施策をやろうと考えています。来場した方に必ず楽しんでいただける、スタジアムに来場したらワクワクする雰囲気づくりなどをふんだんに入れているので、親善試合1試合ではありますが、来場した方に「楽しかったよね」と思っていただける大会にしたいと掲げて取り組んでいます。加えて、関わるスタッフの皆さんにも、この試合に携わったことが記憶に残るようなものにしたいと考えています。
―――これまでの大会からはどのようなフィードバックがありましたか?
鈴木 これまでの傾向として、来場したお客様の約70%がJリーグの試合に行っていないと出ています。大会を通じてJリーグに興味を持った方がスタジアムに足を運んでいただくことで、Jリーグの発展などにつながることは理解していましたが、今年はそこをもっと意識した取り組みをし、試合が終わった後にJリーグ戦に行くストーリーを検討しています。
やはり、きっかけが大事です。友達にたまたま誘われた試合が感動的な試合だった、ゴール裏のサポーターの応援を聞いた時に自分も応援したいと思ったなど、きっかけは人それぞれです。我々は日常生活のビッグデータが活用できるので、70%の方にもJリーグへ来場していただけるようにつなげていきたいです。
―――JWCは3年連続の開催です。今後の継続はいかがでしょうか?
鈴木 JWCを開催する理由として、まず日本のフットボールに興味ある方が海外のトップクラブを見る機会を日本で作りたいということが一つ。そして、Jリーグのクラブが親善試合とはいえ海外クラブと試合をすることによって、世界を感じるきっかけを作り、世界に出ていくことにつなげていただく。Jリーグが掲げる成長戦略のもう一つに、『ナショナルコンテンツとして輝く』というものがあります。それに貢献していくためにも、毎年開催するかは別にしても、条件が合えば定期的に開催していくべきだと思います。
―――ドコモとしては『ドコモ MAX』という新料金プランにDAZNが追加料金無しで加わることを発表しています。映像配信についてはいかがでしょうか?
鈴木 我々の通信事業において、映像配信は大事です。我々のお客様が映像配信を見ることによって、来場するきっかけにつながったり、来場している方がさらにファンになるためにも、映像配信は必要ですし、視聴できる環境を増やすことも重要だと思っています。日本に住んでいればどこでもコンテンツを視聴できる環境を作る必要があるので、その一つとして今回、一緒にその環境を作っていくということになります。
―――Jリーグを生かしつつ、どのような未来を作っていきたいと考えていますか?
鈴木 Jリーグとクラブにとっては、来場者が増えるなど、我々と組んでよかったと思っていただける結果がまずは大事だと思っています。あとはJリーグさんも掲げている通り、世界に追いつくこと。そのためにはJリーグ全体がペースアップしないといけません。その押し上げを、我々がローカル戦略含めて実行していきたいですね。
ローカル戦略、日常生活でのJリーグということでは、最近始まった『推しJクラブ』というサービスがあります。dポイントのアプリケーションの券面を、自分の推しているクラブの選手やマスコット、エンブレムなどに変えて利用していただくことで、我々から各クラブへ運営費を応援金としてお渡しするものです。このように、日常生活における露出面の拡大や、日常生活からクラブ強化につながるような取り組みを新しく始めています。先ほどのDAZNさんとの提携含め、日常的に接点ができる取り組みを積み重ねていく必要があると思っていますし、「ドコモとやって良かったね」と思っていただけるように、一つひとつやっていきたいと思っています。
―――タッチポイントをたくさん作り、帰属意識を醸成していきたいということですね。
鈴木 今回、Jリーグとの新しい協業ビジョンとして「チームになろう。」を発足しました。Jリーグとも、クラブとも、サポーターとも、社内もそうですし、全員がJリーグに関係することで、チームにしていきたいという思いを込めてビジョンを掲げさせていただきました。Jリーグとの取り組みはさらに拡大させていく必要がありますし、一緒に新しい取り組みをどんどん考えながら展開していくのが一つ。クラブとの向き合い方としては、我々の支店、支社、ドコモショップがそれぞれのホームタウンにあるので、我々がそのクラブを愛して、関わっていくことが非常に重要だと思っています。これは1週間で思いが通じることではありません。積み重ねていくことで、「ドコモは仲間だ」と感じていただければと思います。