
東京ヴェルディ・アカデミーの実態
〜プロで戦える選手が育つわけ(連載◆第10回)
Jリーグ発足以前から、プロで活躍する選手たちを次々に輩出してきた東京ヴェルディの育成組織。この連載では、その育成の秘密に迫っていく――。
第9回◆東京ヴェルディユースから大学を経由してトップへ――その理由>>
東京ヴェルディのユースチームは、伝統的に技術を重視してきた。それはチームに関わったことのある誰もが認めるところであり、実際、ここを巣立った選手たちのキャラクターが、その事実を雄弁に物語っている。
東京ヴェルディユース監督の小笠原資暁によれば、フィジカル重視の傾向が強くなっている現代サッカーにおいては、「チームとしての全体のバランスを考えて、技術よりもサイズを重視して(ジュニアユースからユースに選手を)上げる場合もある」というが、「でもやっぱり、(コーチングスタッフは)みんなうまい選手を好む傾向にありますね」と苦笑する。
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「だから、もう小さい選手ばかりになっちゃうんです。みんな『それは自分たちのよくないところだね』って理解はしているけれど、それでもやっぱりうまい選手が基本好き。僕自身も、そこまで身長にこだわりはなく、もちろん、小さいより大きいほうがいいですけど、大きくて動きが鈍いよりは、ちょっと小さくても俊敏に動けるほうがいいなと思うタイプなんです」
しかし、現在のトップチームを見てみると、谷口栄斗、綱島悠斗といったサイズのあるセンターバックタイプのDFが、ヴェルディユース出身の選手であることに気づく。彼らはサイズを重視して引き上げられた選手、ということなのだろうか。
小笠原は、首を横に振って続ける。
「栄斗は大きいけど、うまい。センターバックのなかでは、頭抜けてうまいんじゃないですかね。悠斗もうちのなかではあまりうまくなかったけれど、でもやっぱり、よそのセンターバックと比べたら、かなりうまかったと思うし。そういう意味では、ヴェルディの"うまいフィルター"をくぐり抜けて入ってきたヤツらですからね(笑)。だからああやって、J1でも頑張れるんだろうなと思います」
自らが設定したフィルターを通して、技術レベルが高い選手をチームに残すことは、ヴェルディならではのよさだとしても、「あまり度がすぎると、本当に小さい選手ばかりになっちゃうんで」と小笠原。「今は、そのフィルターをちょっと薄くしながらやっています。大きくて速いけど下手な選手を、どうにかうまくできないか。そういうことにも今は取り組んでいます」。
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事実、過去には"うまいフィルターが利きすぎてしまった"例もある。
「今、J1の他クラブで活躍している選手に、(ジュニアユースに入る時に)うちにも獲得のチャンスがあった選手がいます。でも、僕らは(獲得を)見送ったんです」
そう話す小笠原が、自嘲気味に笑う。
「その時もまた、うまいフィルターをかけすぎちゃって......。だから、活躍しているのを見ると......ね」
もちろん、「そのチームだから育ったのかもしれません」と小笠原が言うように、ヴェルディが獲得していたとして、彼らが同じように成長できたかはわからない。
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「でも、ああいう選手がプロになるんだっていうのは、僕らの経験値になった。だったら、そういう子を辛抱強く育てていこうよっていうことも今はやっています。
本当に失礼な話ですよね。ただ僕らが(評価を)間違えていただけなんですけど(苦笑)」
この例を引くまでもなく、小笠原を筆頭とするヴェルディユースのコーチングスタッフが、センターバックに要求する技術レベルは高い。それゆえ、練習や試合で選手たちのプレーを見ながら、彼らは「これができないのか」と頭を抱えることも少なくないという。
だが、FC東京のアカデミーでも指導経験のあるヘッドオブコーチングの中村忠にしてみれば、「ヴェルディは、センターバックに求める基準が高すぎる」と感じてしまう。
「大丈夫だよ、オガちゃん。今は鈍くても、やらせていけばできるようになるから」
中村はそう言って、はやる小笠原を諭している。
(文中敬称略/つづく)