太平洋戦争中の1942年に水没事故が起きた海底炭鉱「長生炭鉱」の坑口=6月18日、山口県宇部市 1942年に山口県宇部市の海底炭鉱「長生炭鉱」で起きた水没事故で、犠牲となった183人の遺骨収集に向けた動きが進んでいる。亡くなったのは朝鮮半島出身者136人と日本人47人で、潜水調査をする市民団体は「戦後80年の今年こそ収集を」と意気込む。
14年開鉱の長生炭鉱は太平洋戦争中の42年2月、炭鉱の出入り口である坑口から約1キロ先の坑道で異常出水に伴う水没事故が発生。遺体を残したまま坑口は閉鎖された。
調査を主導するのは91年設立の市民団体「長生炭鉱の水非常を歴史に刻む会」。国に対し、2018年から坑口を開けて調査するよう求めてきた。ただ日本政府は23年、「遺骨の位置が分からず発掘は困難」と表明。これを受け同会は、坑口を開け遺骨の位置を特定することを決めた。
当初は水中ドローンでの調査を考えたが、問題を知った水中探検家の伊左治佳孝さん(36)が協力を名乗り出た。伊左治さんは昨年10月以降、遺骨が多く残ると推測される地点を目指し坑口から3度にわたり潜水。しかし、坑口から約200メートルの地点で崩落地点に行き着き、進めなくなった。
今年6月からは「ピーヤ」と呼ばれる排気・排水筒を通って炭鉱内に入る方針に変更。ピーヤ内は材木や鉄管が折り重なり視野も悪く、過去に調査を断念していた。今回は地元企業の協力も得て材木の撤去を進め、炭鉱への道を発見した。
6月の調査では、ピーヤから遺骨があるとされる坑道へつながる道筋を確認できた。8月6日からは、水深約42メートルの場所で遺骨を安全かつ慎重に探すため、伊左治さんが最大6時間に及ぶ潜水調査を行う予定だ。
事故の追悼集会には韓国の遺族が参加し、韓国人ダイバーも調査に協力するなど、遺骨収集は日韓連携で進められる。ただ同会によると、国は炭鉱内の障害物に関する情報収集は行うものの、現地調査には消極的という。
同会の井上洋子共同代表(75)は「今年は戦後80年かつ日韓国交正常化60年の節目の年だ」と指摘。「遺骨が一片でも帰ることは、朝鮮半島との平和や友好に関し歴史的な意味を持つ」と話し、早期収集を目指している。

水没事故が起きた海底炭鉱「長生炭鉱」で遺骨の潜水調査が行われた「ピーヤ」と呼ばれる排気・排水筒=6月18日、山口県宇部市(小型無人機で撮影)

水没事故が起きた海底炭鉱「長生炭鉱」の「ピーヤ」と呼ばれる排気・排水筒で行われた遺骨の潜水調査=6月18日、山口県宇部市(小型無人機で撮影)

水没事故が起きた海底炭鉱「長生炭鉱」のある海に、花束を手向ける韓国側の遺族ら=6月18日、山口県宇部市