限定公開( 1 )
アニメ『鬼滅の刃』が日本映画史に新たな金字塔を打ち立てた。2025年7月18日に公開された劇場版『鬼滅の刃 無限城編 第一章 猗窩座再来』は、公開4日間で観客動員516万人、興行収入73億円を突破し、7月20日には単日で20億円超を記録。初日・単日・オープニング成績の全てで歴代最高記録を更新し、その勢いは社会現象となった2020年の『無限列車編』を超えるペースを見せている。(7月28日には公開10日で観客動員数910万人、興行収入128億円を突破したことが報じられた。)
参考:【写真】「SCOPE MIAMI BEACH 2024」に出品された永井豪『マジンガーZ』のアートプリント
この勢いは出版界にも波及しており、7月17日、集英社は『鬼滅の刃』全23巻の全世界累計発行部数が2億2000万部に達したと発表。『ドラゴンボール』(2億6000万部/42巻)、『名探偵コナン』(2億7000万部/107巻)といった長期連載の人気作と肩を並べるこの数字を、『鬼滅の刃』はわずか4年という短い連載期間、全23巻で達成している。
1巻あたりの平均巻割部数は957万部。これは『ブラック・ジャック』(手塚治虫)、『ドラゴンボール』(鳥山明)、『SLAM DUNK』(井上雄彦)らを抑えてマンガ史上で2番目に高い数字。これだけでも驚異的な記録だが、さらにその上に存在する1位の記録がある。1972年から1973年にかけて「週刊少年マガジン」に連載された永井豪の『デビルマン』がそれだ。全5巻で累計発行部数は5000万部、つまり巻割売上は1000万部。50年以上前の作品が今もなお1位を守り続けているという事実に、改めてその影響力の大きさを感じざるを得ない。
※以下、『デビルマン』のネタバレを含みます。未読の方はご注意ください。
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『デビルマン』は内容そのものが圧倒的だった。アニメ版では勧善懲悪のヒーロー作品として再構成されていたが、原作漫画はその対極に位置する。心優しい少年・不動明が悪魔アモンと融合し、人間の心を持ったまま悪魔の力を得た存在「デビルマン」となり、人間を守るために戦う。しかし物語が進むにつれて人類は狂気に陥り、最終的には核戦争が勃発し、人類が自ら滅びの道を選ぶという衝撃の結末を迎える。さらには、魔女狩りにあったヒロインが首を斬られて殺されるという描写まであった。
冷戦期という時代背景と相まって、この終末的な構造と暴力・倫理・信仰といった重厚なテーマ性は、当時の読者に強烈な衝撃を与え、人間の本質と向き合う覚悟を読者に突きつけたのだ。
ロックバンド「筋肉少女帯」の大槻ケンヂは、「人生に最も影響を与えた漫画は永井豪の『デビルマン』です」と語り、神と悪魔の立場を逆転させた設定や、人類が最も悪であるというメッセージに強く心を動かされたという。また、人気漫画家の大暮維人も「あのラストが軽いトラウマになった」と語り、自身の作品に与えた影響を認めている。
『鬼滅の刃』が人気絶頂の中で潔く完結したことも、『デビルマン』と重なるポイントだ。引き延ばすことなく描くべきことを描ききり、23巻で幕を下ろしたからこそ、物語の密度は非常に高く、読者にとって強烈な印象を残す結果となった。
『鬼滅の刃』の「刀鍛冶の里編」に登場した上弦の肆・半天狗の分身体「空喜」は、どことなく『デビルマン』に登場する悪魔のような造形と哀愁を帯びており、SNSなどでも「デビルマンっぽい」と言及する声があがっていたのは偶然だろうか……。
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『鬼滅の刃』が無限城編によるブーストで、鬼に続いて悪魔も倒してしまうのか。
(文=蒼影コウ)
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