年々、家庭での消費量が増えている「冷凍野菜」。その背景には…? 冷凍食品の売り上げが好調だ。あらゆる世代が働く今、冷凍食品は「手抜きから手間抜き」へとポジティブなイメージに様変わりした。惣菜はもとより、ランチに最適なワンプレート商品や麺類、冷凍野菜・フルーツなどラインアップはますます充実。セカンド冷凍庫の売上も伸びており、冷凍食品を上手にストックする家庭も増えているようだ。舌の肥えた消費者のニーズを的確に捉えて成長を続ける“冷食”のトレンド最前線とは。
【画像】「冷凍食品の中で一番おいしい」中華のプロが絶賛する冷食は…?■生鮮野菜より味も価格も安定、いつでも採れたて旬を味わえる冷凍野菜
冷凍食品の消費額が右肩上がりで伸びており、2024年度も過去最高を更新した。中でも需要を押し上げているジャンルの1つが近年ますます種類が充実する冷凍野菜で、一般社団法人 日本冷凍食品協会の「利用状況実態調査」では男性19.8%、女性33.9%が「1年間に比べて冷凍野菜の利用頻度が増えた」と回答している。
「理由として『生鮮食品の価格が上がったから』という回答が大幅に増加しています。特に食材が傷みやすい夏場は『生ゴミが出ない』ことや『食材が無駄にならない』ことも、冷凍野菜の消費増に繋がっていると考えられます。相次ぐ食料品の値上げで『節約意識が高まった』と回答した方は男性68.8%、女性81.4%にも上っています」(同協会/企画調査課長補佐・脇田真宏さん)
こうした背景はありつつも、同協会では「何より冷凍野菜のおいしさに気づいた方が増えたのでは」と消費者インサイトを推察する。
「少し前までは『冷凍野菜は生鮮野菜より味わいが劣る』という認識が根強くありました。しかし生鮮野菜は季節や天候などによって、味や栄養価にバラつきが出やすいものです。また不作の年もありますから、価格も不安定です。対して冷凍野菜は品質管理の徹底した提携農家で大量生産し、旬の時期に一斉収穫し、新鮮なまま急速冷凍します。いつでも"旬の採れたて"を味わえるのが、冷凍野菜の最大のメリットなんです」(同協会/広報部長・三浦佳子さん)
一般家庭に普及する前にも、ホテルや飲食店などでは冷凍野菜がごく当たり前に利用されてきた。
「品質が安定しているのも、冷凍野菜が業務用として重宝された理由の1つでした。たとえば切ったら傷んでいてガッカリ…ということの多いアボカドも、冷凍なら新鮮でキレイな緑色のままでカットされています」(三浦さん)
近年はさらに「原材料費の高騰」はもとより「従業員の省力化(=人手不足」も業務用冷凍野菜の需要を押し上げる要因となっている。皮剥きや大きさを揃えて切るなどの下ごしらえの手間がなく、料理に使えるのも冷凍野菜のメリットだ。
「最新の調査では、冷凍食品に『罪悪感がある』と回答した方は男性11.4%、女性22.6%と低い数値にとどまりました。誰もが働くようになった今、冷凍食品は『手抜きではなく手間抜き』というポジティブな価値観は確実に浸透しています」(脇田さん)
■食のトレンドが見え隠れする冷食、冷凍シュウマイ&ミックスベジタブルから消えたもの
調理の手間や時間が省ける(=タイパ)、価格が安定している(=コスパ)、食材を無駄にしない(=フードロス削減)と、現代の価値観にまさにマッチした冷凍食品。豊富なラインナップはもとより、「一昔前に比べて格段においしくなった」と感じている人も多いだろう。決め手はやはり「冷凍技術の進歩」なのだろうか。
「そう考える方も多いのですね。実は冷凍の技術はスピードが変化しています。冷凍食品とは【1前処理、2急速冷凍、3適切な包装、4マイナス18℃以下で保管】の4条件を満たした食品のことで、この4つのうちどれが欠けてもおいしい冷凍食品を食卓にお届けすることはできません。冷凍食品がおいしくなった理由は、むしろ消費者ニーズを的確に捉えて商品開発に反映してきたメーカーの企業努力ではないでしょうか」(三浦さん)
冷凍食品とは「"できたての味"を急速冷凍で閉じ込めたタイムカプセルのようなもの」と三浦さん。冷凍食品がおいしくなったのは、そもそもの"できたての味"がおいしくなったからというわけだ。
「冷凍食品業界は消費者のニーズにとても敏感です。たとえば近ごろ、グリーンピースがのっていない冷凍シュウマイが増えたと思いませんか? ミックスベジタブルもかつてはグリーンピース入りが主流でしたが、インゲン入りの商品が目立つようになりました。これらは消費者の嗜好が反映されています」(三浦さん)
店頭の冷凍庫のスペースは限られており、売れない商品はすぐに棚落ちする。それゆえ冷凍食品からは日本人の食のトレンドも見え隠れするという。
「数年前には海南鶏飯などアジアンフードの波が冷凍食品業界にも押し寄せてきましたが、現在はやや下火です。一部に根強いファンはいるものの、大衆食にはなり得なかったと言えるのかもしれません。これからも消費者のニーズや環境変化等、今後の動向を注視しているところです」(脇田さん)
コロナ禍以降の冷食市場で特に成長が著しいのが、ワンプレート商品だ。主食と副菜がセットになったタイプや、あんかけ炒飯などの一食完結型の商品を指す。1食400円前後とコンビニ弁当などと比較しても割安感があり、メニューも和洋中と充実。2024年の消費額は、実に前年比50.7%増(全国小売店パネル調査)を記録している。
「冷凍食品市場はコロナ禍以降、ずっと伸び続けています。コロナの時期に外食代わりとして冷食を利用された方々が、そのおいしさや便利さに気づき、現在も召し上がり続けているのではないかと思います」(脇田さん)
冷凍食品を「手抜きではなく手間抜き」とポジティブに捉える人が増えた今、丁寧にメッセージを届けたいのがシニア世代だという。
「いわば専業主婦が一般的だった最後の世代には、今なお冷凍食品に『罪悪感』がある方も少なくありません。子どものお弁当に冷凍食品を入れるのは『愛情不足』といった呪縛があった世代ですね。しかし調理の手間抜きができる冷凍食品は、1人分を作るのが面倒になったり、多品目を食卓に取り入れづらくなったりしたシニア世代にも最適です。冷凍食品を上手に頼って、きちんと栄養を摂りましょうとお伝えしたいですね」(三浦さん)
離乳食から介護食までそろった冷凍食品は「あらゆる世代の救世主でありたい」と三浦さん。猛暑が続くこれからの季節は、火を使わない調理や冷やしメニューの充実した冷凍食品が食卓の心強い味方になりそうだ。
(取材・文/児玉澄子)