武藤敬司と蝶野正洋を“研修”に起用 「チラシでは動かない」顧客を動かしたベルクの「エンタメ×店舗DX」

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2025年07月30日 16:51  ITmedia ビジネスオンライン

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レッツゴーよしまさ等ものまねタレントとのコラボ企画、“推し活”キャンペーンを展開

 ネットで何でも買える時代に、店舗が提供すべきは“モノ”だけではない。価格や利便性の優位性が薄れる中で、スーパーマーケット各社は、従来の手法に捉われない販売戦略の再構築が求められている。


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 首都圏を中心に140店舗以上を展開するベルクは、エンタメを取り入れたイベントや、テクノロジーを活用した現場改革を通じて、店舗の役割を変化させようとしている。


 同社は、ITサービスを手掛けるビーマップ(東京都千代田区)と、その子会社でマーケティングを担うMMSマーケティング(東京都千代田区)とともに、プロレスラーやものまねタレントとのコラボ企画、“推し活”キャンペーンなどを展開。来店客がイベントに応募・参加できる仕組みを通じて、買い物に楽しさや体験を加える取り組みを進めている。


 一方で、店舗運営の現場では、ロボットとAIを活用した業務改革を進めている。ベルクは、小売店舗向けロボットを開発するスタートアップ・MUSE(ミューズ)と共同で、店内作業の省人化とデータ活用の高度化を目指す。品出しや棚割りの効率化に加え、クラウド上で売り場状況をリアルタイムに可視化することで、現場力の底上げを図っている。


 こうした取り組みを推進するベルク代表取締役社長・原島一誠氏と、IT運用・イベント企画に携わるビーマップおよびMMSマーケディング代表取締役社長・杉野文則氏に、エンタメとテクノロジーを活用して、来店価値と現場力を高める”次世代の店舗戦略”について聞いた。


●来店の「動機」をどうつくるか? “好き”から始まる顧客接点


 買い物にあまり関心のない人たちに、いかにして来店してもらうかは、現場にとっての大きな課題だ。ベルクでは、“好き”という感情やファンの心理に寄り添い、新しい来店のきっかけを生み出すマーケティングに力を入れている。


 ベルク代表取締役社長の原島一誠氏は「男性、特に年配の方は、チラシやスーパーのイメージだけではなかなか足を運んでくれません。一方、自分の好きなものがあると、『とりあえず行ってみようか』と思ってもらえます」と語り、顧客接点の重要性を指摘する。


 このようなエンタメ性を取り入れたキャンペーンの実現を支えているのが、ビーマップとMMSマーケティングだ。両社が培った技術やイベント企画・運営のノウハウを基に店舗への来店促進を狙っている。


 両社は、2024年には、地域密着型のスーパーマーケットを展開するベルク、イズミ、平和堂が合同で実施した「武藤敬司&蝶野正洋『不屈の現場研修』キャンペーン」や、2025年にはベルク、イズミが合同で、レッツゴーよしまさなど、ものまねタレントとタイアップした「『ものまねマーケット2025』キャンペーン」の企画・運営をサポート。店舗でキャンペーン対象商品を購入した顧客に対し、イベントへの参加権や限定のグッズ、ポイント付与などの特典を用意することにより、来店のきっかけづくりにつなげた。


 さらに、レシート読み取り技術や抽選システムも提供し、キャンペーン運用を技術面からも支えている。こうした取り組みは、複数の流通企業とメーカーが参加する業界横断型のプロジェクトとして展開され、地域に根ざした流通業者とエンタメの力を掛け合わせ、来店の動機を作り出す仕掛けとなっている。


 ビーマップとMMSマーケティング代表取締役社長の杉野文則氏は「もともとコンビニで実施していたキャンペーンを原島社長からスーパーでもやってみたいというご要望がありました。さまざまな企画を用意した中で、一番ユニークな内容のものに決まりました」と語る。


●イベントが0から1をつくる ファンマーケティングの可能性


 これまで接点のなかった顧客層に「とりあえず行ってみよう」と思わせるような企画は、新たな顧客を取り込むタッチポイントとして機能する。ベルクでは、キャンペーンの応募条件として、「2000円以上の購入」など、条件を設けながらも、無理なく来店してもらえる仕組みを整えている。


 「普段、店舗にお越しにならない方が、キャンペーンをきっかけに初めて来店して、『意外といいじゃん』『コンビニより安くて品ぞろえがいい』と感じてくれる。一度気に入っていただければリピートにつながるものの、最初の“0を1にする”のが一番難しいんです」(原島氏)


 さらに、SNSの活用やオンラインでの応募を組み込むことで、来店という“一度きりの接点”を継続的な関係性へと発展させる仕掛けも取り入れている。


 「やはり一度来店して終わりではなくて、SNSでつながっていけるといいなと思っています。『自分の好きなものを応援しているスーパーで買いたい』と思ってもらえたら、それは非常に大きな選ばれる理由になると思います。他のスーパーではなくて、『うちともう1店舗で迷う』ぐらいに思ってもらえたらありがたいです」(原島氏)


 Z世代向けには、アニメやアイドルを起用したキャンペーンを展開。来店目的そのものをエンタメ体験として設計している。 


 「聖地巡礼的に全店舗回ってくれるファンもいて、中にはマップを作っている人もいました。“推し”は今大きな話題になっています。そういう人たちが、何かのきっかけで来店してくれたらいいなと思っています」(杉野氏)


●店舗現場の再構築 ロボットとAIで「人手不足」に備える


 業務構造の再設計にも取り組むベルクでは、ロボット導入を通じた省人化とデータ活用を進めている。2023年から、小売店舗向けロボット開発を手掛けるMUSE(ミューズ)のストアロボット「Armo One」(アルモワン)の導入検証を始めた。2024年6月には、和光西大和店、北坂戸店に正式導入。2025年2月以降は10店舗に導入を拡大している。


 「人口減は避けられない前提で人手に頼らずに行うべき作業が増えていくなかで、ロボットやAIに置き換えられるところは早く進めないといけません。実際、清掃ロボットも最初はぶつかって止まるようなレベルでしたが、10年で大きく進化しました。品出しも一部で自動化を進めていて、もう戦力になるレベルまできています」(原島氏)


 Armoは1台で品出しや売り場画像の収集などを担える多機能型ロボットだ。さらに、収集した売り場データは、クラウドサービス「Eureka Platform」に蓄積。小売業者やメーカーがリアルタイムで商品棚の画像や欠品、棚割の乖離(かいり)などの解析結果を確認できる。これにより、店舗運営の効率化や、最適な棚割りの作成を可能とした。導入した店舗では、最大30%の業務削減と5倍のROI(投資対効果)を実現しているという。


●異業種との連携がスーパーを変える


 ベルクは、多様な分野のパートナーと連携するアライアンス戦略を推し進めることで、業界の常識にとらわれない新たな発想を取り入れている。


 「やはりスーパーマーケットは、どうしても昔ながらの業界で、売り上げが悪いと『チラシの部数を増やそう』という発想に偏りがちになります。一方でIT企業と組むと、スマホやSNSを活用したこれまでにないアプローチが出てくる。自前にこだわらず、外部とアライアンスを組んで、それぞれの強みを生かすことが、新しいファンづくりや顧客との接点づくりにつながります」(原島氏)


 同社は、ITやエンタメ、ロボティクスなど、異業種の知見や技術を積極的に導入し、これまでにない顧客体験や現場改革を実現している。こうした連携は、単なる業務委託ではなく、自社にない発想や価値を取り入れる“経営戦略の一部”として位置付けているという。変化の激しい市場環境の中で、競争力を高める重要な要素となっているようだ。


●小売業の未来は「変化を続けられるか」で決まる


 小売企業の成否を分けるのは、単なる価格競争ではない。来店そのものに意味を持たせ、現場にテクノロジーを取り入れ、社外との協業を前提に経営を組み直す。その全ては、“変化を続けること”に向けた構造改革だ。


 「昔は日替わりで卵やキャベツが安いと、それだけでお客さまが来てくれました。でも今はインフレで価格が上がり、チラシの効果も薄れてきた感じがあります。何十年もチラシを配っていると、もう“景色”になってしまったのです。リーダーとして、小売業は”変化業”だと言っています。時代とともに自分たちも変わっていかなければいけません」(原島氏)


 店舗に足を運ぶことに新たな価値を持たせ、テクノロジーと外部連携で現場を変えていくベルクの取り組みは、これからの小売業において求められる視点を提示している。


(フリーライター佐藤匡倫、アイティメディア今野大一)



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