東京2025世界陸上を前に三浦龍司が発揮した「今年の練習の成果」「自分でも出力が上がっているのを感じる」

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2025年07月30日 18:30  webスポルティーバ

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【"絶対王者"エルバカリとの接戦を振り返る】

 三浦龍司(23歳・SUBARU)が東京2025世界陸上に向けて好調をキープしている。

 7月11日、世界のトップ選手が集うダイヤモンドリーグ・モナコ大会の3000m障害で、8分03秒43と自らの持つ日本記録を6秒以上も更新し、2位に入った。それから8日後、三浦はホクレンディスタンスチャレンジ第5戦・網走大会5000mB組に出場した。

 レースがスタートすると、実業団や大学の外国人選手と先頭集団を形成。ペースの揺さぶりにも動じることなく、周回を重ねた。そして、ラスト1周でアクセルを踏んで13分28秒28でゴール。「ここからしばらくレースがないので、いい刺激を入れることができました」と笑顔を見せた。

 大学卒業後も三浦を指導している順天堂大の長門俊介駅伝監督も満足そうな笑みを浮かべ、こう話した。

「(8月下旬に)ダイヤモンドリーグのファイナル(スイス・チューリッヒ)がありますし、モナコからのフライトも長かったので、今回は走らなくてもいいかなと思っていたんです。

 ただ、これまでも5000mは出ていましたし、1本入れておくと脚が持つんですよ。最終組(A組)はちょっと設定タイムが速いので変更してもらい、今回は13分30秒ぐらいでいければいいかなって思っていました。三浦は1周目からキツかったらしく、移動の疲れや暑さが影響したようですが、思ったよりもタイムはよかったのでホッとしました」

 海外レースに挑戦し、長距離の移動に慣れているとはいえ、湿度の低い欧州の気候からすると、この日の網走は気温28℃、湿度78%で非常に蒸し暑く、体への負担は決して少なくなかったはずだ。そういう難しいコンディションのなかでも走りがブレず、結果を出す姿にはトップランナーとしての矜持が垣間見えた。

 モナコのレースでも、オリンピックと世界陸上をいずれも2連覇中の"絶対王者"ソフィアン・エルバカリ(モロッコ)に先行されたが、徐々にスピードを上げ、ラスト80mではトップに躍り出た。最後の最後で差されてしまったが、今季世界ランク3位となる、エルバカリの東京五輪(8分08秒90)、パリ五輪(8分06秒05)の優勝タイムよりも速いタイムをたたき出した。

 三浦はモナコでのレースを、こう振り返った。

「エルバカリとの距離は冷静にとらえていたんですけど、ラストで2位集団を抜け出した時、彼が結構ペースを落として、意外と近くにいたんです。僕はラストスパートをかけている状態だったので、この勢いなら追いつけるかなと思っていました。実際、一瞬ですけど前に出ましたが、相手はラストに備えていたので、最後の障害を越えてスパートをかけてくるだろうなと思っていました。僕もラストスパートをかけていたんですが、及ばなかったですね」

 三浦には相手の余裕度が見えていたようだ。一緒に走れば、その強さは身近にいて、より鮮明に感じられる。だが、相手がスピードを落としたときに一気にトップスピードを上げて追いつき、一瞬でも前に行くレースができた。

「レースの設定タイムが速かったですし、僕もそこはガツガツいかずに冷静にいこうと思っていました。ラップを見ると、今までで一番速かったですし、ラストスパートもすごくいい状態でしたので、そういうところを見ると、地力がまた上がってきたのかなと思います」

【一発だけでなく、タイムの再現ができる脚づくりが必要】

 三浦が更新した日本記録(8分03秒43)の1km平均ペースは約2分41秒、勝負をしたラスト1kmだけ見ると、2分36、37秒で駆け抜けている。3000m障害ではなく3000m(※オリンピック・世界選手権の非実施種目)の日本記録は大迫傑(Nike)の7分40秒09で1km平均ペースは2分33秒となり、三浦がモナコで見せたラスト1kmのラップとの違いは3、4秒だ。障害を飛び越えながら、それだけのスピードで走っているのである。

 長門監督は「今年の練習の成果」と言う。

「基本的に、学生の時からやっていることは変わりません。ただ、いつもは塩尻(和也/富士通、10000mの現日本記録保持者)や三浦がやってよかったことを学生に落とし込むことがあるのですが、今年はウチの大学の1500m組の調子がよかったので、その練習を三浦に落とし込んでみました。そうしたら出力が上がるようになって、スピードに余裕が出てきました。

(1kmごとの)ラップも東京五輪の予選はよかったんですけど、それ以外、なかなか2分40秒を切ることができなかったんです。でも、モナコは最後、(2分)40秒を切っていたので今までで一番速かったですね」

 三浦本人も出力が上がっているのを実感している。

「自分でも出力が上がっているのは感じます。1周のスピードがある程度速い中でも走りきれるスピード持久力がついたと思いますし、(1kmあたり)2分40秒というレースペースに対してひとつ余裕度が上がったと思っているので、そこは大きいですね」

 モナコで見せた切り替えた時のトップスピードには鋭さがあった。三浦は「これまでの練習が身になってきている」と語るが、その一方で、まだ世界トップとの差も感じているようだ。

「世陸に向けてよい弾みになりましたし、よいシミュレーションになったと思います。ただ、優勝したエルバカリとは(自己ベストで)6秒(以上)の開きがあるので、そこは詰めていかないといけない。世陸に向けては一発だけタイムを出すのではなく、タイムの再現ができるような脚づくりが必要かなと思います」

 長門監督も、三浦は冷静に世界との距離を見ているという。

「モナコでエルバカリは世界記録を目指してスタートし、途中で(世界記録が)出ないとわかったらペースを落としていた。それで三浦が届いたところもある。世陸は(タイムよりも)勝負(優先)なのでダイヤモンドリーグとはレース展開が異なりますし、モナコのようなレース展開にはならないと思います。駆け引きして、競り合うなかでも戦えるようにしっかり準備していきたいですね」

 今夏は北海道などで合宿を行ない、ダイヤモンドリーグのファイナルに向けて調整していくことになる。練習ではすでに長門監督が求める出力以上のものが出ており、4月のダイヤモンドリーグ・厦門大会(中国)で8分10秒11を出したあとに少し足を痛めたこともあり、世陸までは慎重にやっていくという。

 三浦自身は、世陸に勝つことを目指しつつ、今後は7分台も目指している。

「7分台は、僕がゆくゆくは目指しているところです。徐々に現実味を帯びてきているという感覚なので、これからしっかりと射程距離内に詰めていきたいと思います」

 ホクレン網走大会での5000mは、キツくなっても13分30秒を切った。テーマを持って走り、それをクリアすることで自分のなかに強さが上積みされている。9月の東京2025世界陸上は勝負優先のレースだが、メダルとタイムの二兎を追う夢を見られるのは、三浦が走るからである。

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