
ロシアのカムチャツカ半島の近くを震源とする巨大地震が発生し、太平洋沿岸を中心に津波警報が発表されています。 津波注意報や津波警報が発令された後、どう受け止め、行動したらいいのでしょうか。日本地震予知学会会長・長尾年恭さんに解説してもらいます。(30日午後5時10分すぎ放送)
津波到達まで“1時間半” 遠地地震による津波避難で重要なこと山形純菜キャスター:
30日の午前8時25分頃、ロシアのカムチャツカ半島付近で地震が起きました。
地震発生の12分後、午前8時37分に北海道〜宮崎県など太平洋沿岸のエリアに津波注意報が発表され、その後、一部が警報に切り替わりました。
JNNでは、警報・注意報が出ている地域、予想される「津波の最大の高さ」、そして第一波の到達予想時刻がテレビ画面に表示されています。
まずは第一波、到達予想時刻について詳しく見ていきます。どのように受け止めればいいのか。
今回、北海道〜宮崎県など太平洋沿岸に、津波注意報が午前8時37分に発表されました。北海道の一部では、津波の第一波の到達予想時刻が、30日の午前10時となっていました。
もちろん警報の場合はすぐに避難ということなのですが、注意報の場合は約1時間半ぐらい時間がある。このような場合は、すぐに避難すべきなのでしょうか。
日本地震予知学会会長 長尾年恭さん:
実は、津波の速さはどれくらいかというと、時速約700kmぐらいでジェット機並みです。ですから、カムチャツカから日本まで飛行機だと1時間以上かかるので、津波の第一波の到達予想時刻も1時間半後ということです。
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今回のように遠地地震の警報の場合は、水や食料を持って、車で避難するなどちゃんと準備をすることが非常に重要です。
昔は徒歩と言われていましたが、今は車も併用という形での避難がいいと思います。
井上貴博キャスター:
私たちも、マニュアル上で徹底しているのは、津波注意報に関しては「避難」という言葉は使わず、「海の近くにいる方は移動してください」と申し上げる。しかし警報になると、「すぐに避難してください」と。
そうなると、今回は津波注意報なので「海の近くにいる方は移動してください」となる。でもそれだと視聴者の方には伝わりづらいのではないかと。
今回、着の身着のままで避難所に行かれた方がいる。ここをどうしていくべきだと思いますか。
長尾年恭 会長:
遠地地震は、「時間に余裕がある」ことが非常に重要です。
警報が出て避難をするときにも、「しっかりと準備をして、ゆっくり避難をしてください」「慌てないで、準備をしてから避難をしてください」ということを伝えるべきだと思います。
井上キャスター:
海外の方への発信について、何かアイディアはありますか。
長尾年恭 会長:
津波は英語でも「TSUNAMI」というように、海外のほとんどの人は地震も津波も経験したことがない。何が起きるか、想像ができない。ですからそこは非常に難しい問題で、やはり周りの日本人や政府は、英語や他国語の資料を作っておくべきかもしれません。
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出水麻衣キャスター:
また夏場は暑くなりますよね。夏場において何か避難する上での注意点はありますか。
長尾年恭 会長:
夏でも何か薄い羽織るものや、やはり食料や水を持って行くことです。食べ物はなくても、水だけあれば数日は持つので、水が大事です。
もう一つ重要なのが、(鉄筋コンクリート製の)高い建物の上に逃げることです。鉄筋コンクリートは木造家屋に比べて、基本的に津波でやられることはないので。
山形キャスター:
続いて津波の高さについて、見ていきます。
北海道太平洋沿岸、そして岩手県では予想される最大の津波の高さは最大で3mと予想されていました。
実際に釧路では30cmの津波が、そして岩手県の久慈港では1m30cmの津波が観測されました。ただ実際には、もっと高い津波が到達している可能性もあるということです。
津波の高さを観測・記録しているのが「検潮所」という施設です。気象庁や海上保安庁、国土地理院など、全国で188か所あります。
今回、検潮所のある北海道・釧路では午後1時44分に30cmの津波が観測されましたが、別のエリアではもっと高い津波が来ている可能性もあるということです。
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長尾年恭 会長:
非常に重要なのは、検潮所は波浪の影響、いわゆるサーフィンで使うような短い周期の波の影響を除くために、値が想定よりも小さめに出ます。そのため、例えばリアス海岸などでは、もっと高い津波がきている可能性もあります。
検潮所の値というものは難しい言葉で言うと、「ローパスフィルター」という非常に長周期のものだけを観測するようなシステムになっている。そのため、もしかすると近くでもっと高い津波が局所的に来ている可能性があります。
井上キャスター:
長尾先生が言っていたように、衛星での精度が上がれば、検潮所よりもっと細かくピンポイントで見ていくことができるようになる?
長尾年恭 会長:
海面がどういう形で盛り上がったかが、宇宙からわかれば、物理学の法則で海底地形さえわかっていれば、精密な計算ができます。
今まではその初期津波高というか、一番最初の時刻ゼロにおける津波の形がわからなかった。これがわかる方法が東日本大震災で発見されたということですね。
我々は今それを使って、津波予想や警報の解除をより早く正確に行いたいと考えています。
山形キャスター:
気象庁の会見では、津波警報の解除について「半日から1日はかかる可能性がある」としています。
そして気象庁のHPを見ると、「津波警報・注意報の限界」という項目があり、「津波による海面の変動を精度よくリアルタイムで観測する方法がない」と書かれています。
長尾年恭 会長:
それがようやく見つかったというのが現状です。気象庁も含めて、予測の方はこれ以上早くできないとしても、より正確に解除することを目指しています。より正確に解除ができると、早く救助に行けます。
出水キャスター:
今ある情報としては津波の予想が30cmでも、それよりも大きい波が来てる可能性があるというのを頭に入れて、避難する必要があるということですね。
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〈プロフィール〉
長尾年恭さん
東海大学・静岡県立大学客員教授
日本地震予知学会会長
専門は火山津波研究