©産経新聞 沖縄県の今帰仁村と名護市にまたがるテーマパーク「ジャングリア沖縄」が7月25日にオープンしました。7月の入場チケットはすべて売り切れ。1日当たりの来場者数は数千から1万人を想定しており、上々の滑り出しとなりました。
しかし、海という豊富な観光資源がある沖縄において、あえて“森”で勝負を仕掛けたのはなぜなのでしょうか?
◆オープンから5カ月間でおよそ100万人が訪れる?
来場者数が数千から1万という想定をもとに、1日の平均来場者数を6500人とすると、オープンから12月末までの5カ月間でおよそ100万人が訪れる計算です。
2024年8月から12月までの、沖縄県の国内旅行者数は334万人。今年7月は前年比で国内観光客数が4%程度増加しました。8月以降も同様の比率で増えたとすると、2025年8月から12月までの国内の観光客数は348万人。
ジャングリアを仕掛けた刀のCEO森岡毅氏は、テレ東BIZのインタビューで、初年度は国内が圧倒的に多いと思っていると話しています。仮にインバウンド比率が5%だったとすると、沖縄の国内旅行者の27%がジャングリアを訪問して、来場者数は100万人に届きます。
◆ジャングリアの「立地」に注目
ジャングリアは那覇空港から車で2時間、早くて1時間半の場所にあります。しかも、海ではなく森の中あるリゾート施設。観光客の3割もの人が立ち寄るほどの吸引力を創出できるのか、という疑問が沸きます。
ポイントとなるのがジャングリアの立地。施設がある今帰仁村には、この村最大の観光地である古宇利島があります。エメラルドグリーンの豊かな海に囲まれた小さな島で、2005年に隣の屋我地島との間に大橋が開通。車でアクセスできる離島となりました。写真映えするスポットとして有名であり、多くの観光客が訪れます。
沖縄県は観光客の満足度向上を図る目的で、観光客の動態データを収集して分析しています(沖縄観光2次交通の利便性向上に向けた検討委員会「観光客の動態データの取得及び分析」)。それによると古宇利島の立寄率は16.3%で、沖縄県内の主要な観光地の中で3位。1位は国際通り周辺、2位が美浜アメリカンビレッジでした。
古宇利ビーチからジャングリアまでの距離は12キロで、車の移動で20分ほど。ジャングリアは、沖縄の旅行者の2割が訪れるというキラーコンテンツ・古宇利島の吸引力を利用することができるのです。
◆海の世界はすでに“堪能できる”からこそ…
古宇利島はシュノーケリングやカヤック、ウェイクボード、サップ、ジェットスキーなどのマリンスポーツが盛ん。沖縄らしい美しい海を存分に楽しめるアクティビティが溢れており、観光客は海に対する満足度・期待感が十分に高い状態に仕上がっています。
そして、この場所にはもう一つのキラーコンテンツがあります。立寄率9.9%で、第4位の沖縄美ら海水族館です。こちらでは、ジンベエザメやナンヨウマンタなどをはじめとする珍しい生物を観察することができます。
つまり、ジャングリアがあるエリアは、古宇利島と美ら海水族館で海の世界を堪能できる地理的条件が揃っているのです。森を楽しむジャングリアはそのアンチテーゼとも言えるもの。海を満喫した観光客に対して、まったく別の新たな体験価値を創出することができます。
◆観光客の動線を巧みに織り込む
そして、もう一つ人が集まりやすい条件があります。北部の主要な観光拠点である名護市にまたがっているということです。
市町村別の立寄率を見ると、名護市は3位で57.6%。北部の観光拠点になっているのは間違いない一方で、市内には強力な観光スポットに欠けているところがありました。名護市で宿泊するからジャングリアを訪問する、もしくはジャングリアを目的に名護市で一泊するというケースは十分に考えられるでしょう。
ジャングリアは嵐山ゴルフ場を閉鎖した跡地にオープンしています。跡地利用ではありますが、立寄率が6割近い名護市にまたがっていることは見逃せません。
こうした地理的条件を前提にすると、ジャングリアは海を利用するよりも、森を利用したほうが成功確率は高いように見えます。
那覇空港からのアクセスが悪いことを懸念する声も聞こえてきますが、観光客の動線を巧みに織り込むことで、それをカバーしているのです。
◆1年目の雇用創出は「4万人」
ジャングリアには700億円が投じられています。このプロジェクトのために設立されたジャパンエンターテイメントの筆頭株主は森岡氏が率いる「刀」。30億円を出資しています。この会社は資本金を5億円減資して9900万円にしており、税制上は中小企業に該当します。30億円もの出資は相当なリスクをとったと見るべきでしょう。それだけに失敗はできません。
刀はイマーシブ・フォート東京というテーマパークをオープンしましたが、誰もがやらない新たな切り口を提案するという挑戦者の気質があります。沖縄で森をテーマとするジャングリアも難易度が高いプロジェクトであることは間違いありません。しかし、成功させれば別の場所で再現性を持たせられるという先行者利益を得ることもできます。
そして、この施設の成功は地域への恩恵も計り知れません。
「宮本勝浩 関西大学名誉教授および大阪府立大学 王秀芳客員研究員による試算」によると、ジャングリアの1年目の経済効果は3153億円で、雇用創出は4万人。沖縄県にとっても施設がもたらす効果は大きく、その成功を願っている関係者や地域住民は多いでしょう。
今帰仁村は、観光資源が古宇利島に集中しており、新たな観光資源の開発が必要でした。島は観光客が押し寄せて住民の生活に支障をきたすオーバーツーリズムの懸念もあり、ジャングリアの誕生で観光客が分散することにも期待されています。
さらに沖縄の森が観光客に再発見されることになれば、観光資源が乏しいと言われている北部の魅力も高まることになるでしょう。
森にスポットを当てたジャングリアは観光客だけでなく、仕掛け人の刀や地域社会にとっても意義深いテーマパークです。
<TEXT/不破聡>
【不破聡】
フリーライター。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、経済や金融に関連する記事を執筆中。得意領域は外食、ホテル、映画・ゲームなどエンターテインメント業界