ビジネスウェア戦争をどう勝ち抜く? はるやま会長「70年ぶりのドレスコード変換期」

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2025年07月31日 10:10  ITmedia ビジネスオンライン

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ITmedia ビジネスオンライン

はるやまホールディングスの治山正史会長兼社長(右)。左はアンバサダーの岩田剛典さん

 日本のスーツ文化は、大きな転換点を迎えている。ここ最近のビジネスウェアは、コロナ禍でのリモートワークの普及や在宅時間の増加、そして、この異常なまでの夏の猛暑に対応するため、快適性や多様性を重視したビジネスカジュアルの需要が増加した。


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 この流れを受けて大手ファストファッションも、ビジネスウェアの領域に勢力を伸ばし、紳士服各社も含めたビジネスカジュアルの市場争いが激しくなっている。


 混沌を極めるビジネスウェア市場争いにおいて「十分に戦える」と話すのは、はるやまホールディングスの治山正史会長兼社長だ。その揺るぎない自信の根拠は何か。同社のビジネスウェアにおける戦略と展望を聞いた。


●70年ぶりのドレスコード変換期 ビジネスウェア戦争をどう勝ち抜く?


――ビジネスウェアの新基準として、快適な着心地と、きちんとした見た目を両立した「はるやまNEW BIZ WEAR」を展開しています。開発の背景について教えてください。


 きっかけは2008年の北京オリンピックでした。当社がオフィシャルパートナーとして日本選手団のユニフォームを作らせていただいたとき、JOC(日本オリンピック委員会)の幹部の方から「北京はとにかく暑いので急乾吸汗で軽くて涼しい素材」「競技前の選手にストレスのかからないこと」「記者会見があるからシャキッと見えるもの」といったかなり難しい注文を受けました。


 その生地の開発のために日本中の生地メーカーを探して、最終的にたどり着いたのが2002年の日韓W杯で日本代表のユニフォームに使われていた糸でした。この生地を独自に開発したのが「i-Fabric」という素材です。それ以来ブラッシュアップを続けてきています。


――ファストファッションブランドもスーツを出す時代であり、さながら「スーツ戦争」の様相も呈しています。会長自身は、この動きをどう捉えていますか?


 私はむしろ、明るい未来が来ていると感じています。なぜならこの状況は、60〜70年ぶりのドレスコードの変換期を迎えていると思っているからです。戦後、スーツは政治家や校長先生のような特別な人が着るものでしたが、われわれのような量販型スーツ企業がそれを量産し、その後ホワイトカラー層が増えていき、仕事着としてのスーツが定着しました。


 今はまた、それが変わるタイミング、つまりスーツ一辺倒だった時代から、新しい需要が生まれようとしているということです。それがビジネスカジュアルだと思います。


 ただ、週末に着ている服でそのまま出勤したら違和感を与えることもあり、特に、年齢差や職場環境によっては、ラフな服装が不快に映ることもあります。このようなこともあり、ビジネスの場にふさわしいカジュアルウェアが必要です。


 ビジネスカジュアルは、単体のアイテムで考えてはなりません。何を着てどうコーディネートするかまで含めて考えなければいけないのです。ネクタイを外しただけではビジネスカジュアルにはなりません。ネクタイを外したときにも、きれいに見えるワイシャツの形、例えば、ボタンダウンやカッターシャツのディテールが重要になってくるのです。


――レディースのブランドも立ち上げられました。メンズとレディースとでは、開発のアプローチの仕方に違いはあるのでしょうか?


 レディースについては、メンズと全く違うアプローチが必要です。意外と見落とされがちなポイントですが、同じジャケットを着ても、メンズは重く感じないのに対して、筋肉量の違いから、女性が着ると「重い」と感じてしまうことがあります。引っかかりや耐久性といった点でも、メンズとレディースでは求められる水準が違います。


 さらに、ビジネスウェアにおける「きちんと感」の在り方も、女性の場合には「やさしさ」や「柔らかさ」といった要素を求める方もおられます。


 ビジネスカジュアルのラインアップについては、当社はレディースでは「カジュアルからのビジネスアップ」というアプローチ。メンズでは「ドレスからのカジュアルダウン」というアプローチをとっていますので、商品開発の思想も違うし、設計思想も違ってきます。


――ファストファッションのビジネスカジュアル商品が増えています。どう差別化していきますか?


 ファストファッションが手掛けているのは「普段着」が多いです。一方、われわれは「ビジネスウェア」を長い間、手掛けてきました。この違いは大きいです。確かに、単品ではファストファッションの商品が優れているものもあるかもしれません。ですが、われわれはトータルでビジネスに対応するコーディネート提案ができます。


 例えば、Tシャツやポロシャツでも、「ツーディー(二次元)平面」ではなく「スリーディー(三次元)立体」で作っています。ワイシャツとジャケットは、身体に沿って前に傾斜している構造で作られていますが、それと同じように、Tシャツにも前傾縫製(人間の肩の形状に合わせて衣服の肩部分を前方に傾斜するように縫製)を採用しています。そうすることで、ジャケットを着たときにインナーが自然に動く。こうした設計があるから、見た目も着心地も変わってきます。


 われわれは、ジャケットを着る前提でTシャツやポロシャツを作っています。そうでないと形状が全く違ってきます。アパレル業界でのビジネスカジュアル市場で勝つ勝てないではなく、十分に戦える自負はあります。


――ファストファッション業界の台頭に加え、最大の競合相手は同業他社だと思います。紳士服で「はるやまらしさ」とはどういったものでしょうか


 2つの実績です。一つは、やはりわれわれが独自に開発した「i-Fabric」という素材です。この素材は日本で唯一、耐洗濯性で形態安定性(W&W性)の最高水準の5級(※)をクリアした生地を使用しており、他社ではまねできない独自の技術と実績が評価されています。


 また、東日本大震災をきっかけに「かっこいい服も大事だけれど、一番大切なのは命や健康ではないか」という思いを強くしました。それ以来、われわれは「健康になるウェア」を作れないかと考え続けてきました。他業種と協業し、ストレス軽減やウイルス対策、快適性といった機能に10年以上取り組んできた実績があります。


※検査結果は、判定用生地を用い日本工業規格(JIS L 1930 C4M 法 タンブル乾燥)に基づき試験し、1〜5 級に等級づけしたもの。形態安定性5級−1回洗濯(一般財団法人メンケン品質検査協会調べ。2024年12月現在)はるやまオンランインストア「完全ノーアイロンアイシャツ」より抜粋


――さまざまな業界で生成AIがビジネスの在り方を変えようとしています。生成AIの活用についてはどうお考えですか?


 大変に興味があります。これはインターネット以上の革命になると感じています。われわれが今取り組んでいるのは2つです。1つは社内業務の効率化です。もう1つは、名人の技術をAIに学ばせることです。接客の名人、店舗運営の名人、ものづくりの名人、彼らの動作や思考を解析して、マニュアル化し、誰でも再現できるようにしたいと考えています。


――多くの人をマネージメントをするにあたって大切にしている信条があれば教えてください。


 私が座右の銘にしている言葉があります。「受け継ぎて、国の司の身となれば、忘るまじきは民の父母」。これは上杉鷹山の言葉です。


 組織のトップになったら、社員の父であり母であることを忘れてはならない。私は二代目として会社を継ぎました。だからこそ、受け継ぐ責任の重みを痛感しています。スタッフが安心して働けるように、そして、誇りを持てるように。そのために服をつくり、会社を守る。それが私の仕事です。社員一人一人を大切にし、その家族にも思いを巡らす。そんな存在でありたいと思っています。


(篠原成己、アイティメディア今野大一)



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